ラビリンス(最終回)


こんにちは。
このお話も今回で最終回です。
少しでも楽しんでいただけたら、嬉しいです。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴、巨大化した姿で陛下と再会。
5)さてさて――?


ラビリンス(10)最終回

「分散した七人の小人を急ぎ集め、もう一度、わが妃のために音楽を奏でてもらわねば」

この期に及び冷静な国王の言葉。
夕鈴にすれば、陛下とけんかして、勝手に後宮から失踪し(じつは小人たちと出会って体が小さくなってしまったために身を隠したわけだが)、勝手に戻ったものの勝手に巨大化している状況。そのうえ巨人サイズの自分が流した大量の涙で陛下を溺れかけさせ、あまつさえ風邪をひかせかねないという現状は、不敬極まりない不始末。

「文字通り、きみに溺れる哀れな男だな」
と本人は笑ってるけど、
「バカっ、そういう話じゃないでしょう?」と
濡れて重い政務着を身に着けたまま震える彼をなんとか早く助けなければと夕鈴は焦るばかり。

巨大化した夕鈴の涙で水没しかけている執務室の中は大混乱。
事態収拾のカギを握る小人たちは驚いてそれぞれ隠れてしまって、
小人七人のうち五人までは見つけ出したものの、最後の二人が中々見つからない。

「ごきげん殿、でれすけ殿~っ
どこですか? 出てきて下さい」

夕鈴は涙の海をあてどもなくざぶざぶかき混ぜる。

その時、涙の海の底からぷくり、ぷくりと小さな泡が立ち上ってきた。

黎翔はそれに気が付いて、目を凝らすと青い細首の優美な花瓶が見えた。

「夕鈴! 落ち着いて。手を止めて」

夕鈴はピタ、と動きを止めた。
「あそこに花瓶が…」

黎翔は夕鈴の掌の上で濡れた政務着を脱ぎ捨てた。
身にまといつく重たい衣裳を矢継ぎ早にむしり取ると、たくましい背中がむき出しになる。

「…ちょっ――陛下!?」
巨大化した夕鈴があわてて手で目を隠す。

「そう恥ずかしがらずとも…いつも見ているだろうに?」

「いつも暗いし、それにそんなジッと見たり失礼なこととか私しませ――じゃなくて!!
今そんなこといってる場合ですか――!!」
夕鈴は赤面して叫んだ。

恥じらう妻を一瞬優しい瞳で見つめると、黎翔はくるりと振り返り、花瓶の沈む水底を凝視した。

「しばし待て」

黎翔は一呼吸、大きく息を吸い込むと、躊躇することなくしなやかな動きで夕鈴の掌の上から水中にダイブした。

「へーかっ!」

ざぶんと水しぶきをあげ飛び込むと、垂直に水底まで潜る様子はまさに水を得た魚のよう。
黎翔は水底でゆらゆらと揺れていた花瓶をつかむと、軽く床を蹴って、まっすぐ水面へと浮上した。

夕鈴は両手で大切に彼をゆっくり掬い上げる。指の隙間からザバと水滴が流れ落ちた。夕鈴の掌の中には、青い細首の花瓶を片手でつきあげる彼。

「…これか?」

夕鈴が応えるより早く、花瓶がカタカタと横に振れた。

見覚えのあるこの花瓶、執務室の国王の机の後ろに飾られていたものだ。

細首の優雅な青い絵付けが施されたえもいわれぬ高貴なたたずまいのこの花瓶、たしか李順さんが『この花瓶は代々白陽王家に伝わる国宝ですから』といいながら大切にしていたものだと夕鈴は思いだした。

張老子にそっくりの小人“先生”が声をかけた。
「ごきげん殿、でれすけ殿、そこにおられますのか?」

「……」
花瓶の中からくぐもった返事が。

「出てきてはくださらんようじゃな」
先生が腕組みをした。

「…ならば仕方あるまい」
黎翔は軽く腰の佩きものに手を触れた。

李順さんそっくりの小人“くしゃ李さん”が両手を広げて花瓶の前に飛び出した。
「まさか、その剣でこの花瓶を切るおつもりですか?」

「陛下っ? ちょっと、この花瓶、確か国宝とかじゃあ」
夕鈴も青ざめた。

黎翔はすらりと剣を抜き放ち構えた。

「おやめくださ…!」
くしゃ李さんが懇願する。

「君のため、花瓶の一つや二つ、惜しむ男ではない」

「陛下~~~っ!」
夕鈴の制止も効かず、黎翔は剣を振り下ろす。

キンッっと硬質な音と共に、花瓶はパカンと真っ二つ

青い花瓶の中には小人二人が仁王立ちに立っていた。

「ごきげん殿、でれすけ殿!」
夕鈴は叫ぶ。

二人の小人は傷一つ負った様子もない。

ニヤニヤ笑いながら、隠とぼけがヒュウっと小さく口笛を鳴らした。
「勇者だねぇ」

「この二人で最後か?」

黎翔が振り向くと、花瓶の真ん中にいた二人は白くぼんやりと輝きだした。
二人の小人が纏っていた衣裳は溶けて消え、目鼻の造作も消え、まるでてるてる坊主のようにただ白い姿に変わってゆく。

夕鈴はハッとした。

もうどっちがごきげん殿でどっちがでれすけ殿かも見分けがつかない。
先に集まった五人の小人たちも同様だった。

七人の小人たちは夕鈴の手から浮き上がり、フワフワと空中へ漂ったかと思うと、ぴょんっと手に手に楽器を取り上げ演奏を始めた。

♪ ♪♪~ ♪

夕鈴はスルスルと小さくなり
涙の海はバラ色の霞になって蒸散してゆく。

黎翔は夕鈴の掌から飛び降り、水が引いた執務室の床へ立つ。
あたりはこの上もなく優しい光で満たされ、夕鈴はゆっくりと縮んでゆく。

そして二人の視線がいつもの高さで交わると、音は静かに止んだ。

ついに元の姿へと戻った夕鈴。

見守っていた彼が彼女の方へ両手を広げた。
呆然とした彼女は急ぎ彼の元へ駆け寄り、その胸に飛び込むと頬を押し付け叫んだ。

「陛下――ごめんなさい
ずっと、私
謝りたかったんです」

せき込むように夕鈴は続けた。

「もちろん、青慎や父さんにも会いたいけど…
でも、陛下が一番だから。
陛下が今の私の家族だから。
だから私のために、無理しないでください。
陛下と一緒にいられれば、私はどこだって幸せなんだから…」

「…夕鈴!」

抱きしめる腕に力が入る。
二人は固く抱き合い、無言で互いを見つめ合い、引き寄せられるように唇を重ね

白い七人の小人が、一際明るく輝いた。

「願いはかなったようじゃな」

「みんな――行っちゃうの?」
夕鈴は寵愛の檻から這いだし、頬を染めたまま彼らを見上げた。

夕鈴は宙に浮かぶ小人たちを見上げるが
七人の小人たちは光の中に溶けて消えていくところだった。

もう誰が誰だかわからないほど、白くほんわりとした光の小人たち。

その中から突然、
二つの白い光がシュッ、シュッと、まるで流れ星のように飛び出し
夕鈴の身を貫いた。

黎翔は敵意がないと油断していた小人たちからの不意撃ちに動揺し
瞬間身を縮め腕の中にいた妃を抱きしめた。

「夕鈴っ! 大丈夫か?」

「へっ?」
彼の険しい表情や緊迫した声に逆に驚いて、夕鈴はビクッと身を固めた。

「痛みは?」

「――いえ? 特に」
何が起こったわけでもなさそうだった。

「大事ないか?」

それからゆっくり自らの体を見下ろし、手をニギニギしたり裾をめくって足をチラッと見たりしてみるが、特段変化もなさそうだと納得する。

「え、あ、はい。このとおりピンピン」

一瞬、何事かと夕鈴はポカンとしている。

「何、今の?」
夕鈴が尋ねても、元小人たちだった光は「くすくす」と笑いさざめきながら七色に光っているばかり。

「さようなら」
「さようなら」
「さようなら」
「さようなら」
「さようなら…」

「みんな…‼」

現実世界で見える室内の天井と、異世界が重なって見える。
高次元の世界の扉が開き、五色の光に彩られた楽土が垣間見え、えも言われぬ心地よさがあたりを包む。
その中に小人たちだった光の玉はクスクス笑いながら高く昇っていった。

やがてクスクスという声はどんどん小さくなって消えると、あたりの不思議な光の世界も霞のようにぼんやりと消えながら閉じて行った。

出会いも別れも突然で、不思議な縁に感謝しながらも
夕鈴はいつまでも袖を振って見送った。

消える直前、小人たちが最後に一言、祝福を投げかけた。

「おめでとう」

「は…?」

夕鈴はさっぱりわからないことばかり。

だが直後、陛下に息もできないほど抱きしめられたかと思えば、身も心もとりこまれてしまい、それどころではなくなってしまったのだ…。

—-
エピローグ

「あれだけ根回ししたのに
結局、下町行けなかったね――」

「すみません」
夕鈴は床に横になって青い顔でうなだれた。

狼陛下がこれ以上ないというニコニコ笑顔ですり寄った。

「謝ることじゃないよ、だって」

「でも陛下あんなに楽しみにされてたのに――
私のせいで」

「またいつでも行けばいい」

「そんなことおっしゃらずに。
せっかく休暇なんですから、へーかだけでも行っていらしたら?」

「――」
狼陛下の目の色が変り
夕鈴の背筋がぞくっと凍る。

「…まだ言うか?
この口は」

口づけが落ちる。
優しい口づけだった。

彼はゆるやかに態勢を変えると、妃にのしかかるようにその口づけの角度を深めて…

「――うっ 

ぷ!?」

長い口づけをさえぎったのは、妃の方だった。

国王の胸を押し返すと
妃はあわてて顔を背け、寝台の脇へ用意されていた甕を両手で抱えこんだ。

「…うっ」

この世のものは何もかも意のままといわれる国王といえど、なすすべなく蠕動を繰り返す妃の背中をゆるやかにさするので精一杯だった。

気配を敏感に感じ取ったお付きの侍女らが隣室からワラワラと飛び出す。
「お妃様っ、大丈夫ですかっ!?」
「ご気分がお悪いのですかっ?」
あっという間に妃を取り囲み、甲斐甲斐しく介抱する侍女らに締め出され脇へと追いやられる国王。

サラリと前髪を書き上げふぅと苦笑する。

「――続きは、つわりがおさまるまで、お預けにしておく」

それを聞き咎めたのは女官長。

「とんでもございません!
『つわりがおさまるまで』ではなく、晴れて身二つにおなりあそばされるまで
お妃様のお身体には指一本お触れになっていただいては困ります――」

「…は?」

(ちょっと、待て?)
国王陛下の目が点になった。

居場所がなくなって回廊に出れば、さっそく李順につかまる。

「ヘーカ
どうしてよりによってあの花瓶を割ったんですか?
…いくら夕鈴殿のため仕方がないとはいえ、
あれは国宝のなかでも随分値の張るもので――」
眼鏡の側近はシクシクと涙を流しながらずっと背後に付き従い、延々と愚痴を垂れる。

「それより、私は後宮から追いだされたのだが?」

「懐妊したばかりの妃に陛下が一方的にイチャイチャするから追いだされたのでは?
それより例のお割りになった国宝の花瓶ですが…」

「…はぁ…」
黎翔は目をつぶって目を伏せた。

複雑な心の迷宮。

彼を救うのは
願いをかなえるという小人たちなのか
はたまた
リスクを顧みぬ勇者となって武功をあげるのか――

ここ白陽国の戦場の鬼神の二つ名を持つ狼陛下も悩みは尽きず、深い迷宮へと落ちてゆくばかり。

*

(おしまい)

ラビリンス(9)


こんにちは。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴、小さかったり、大きかったり、忙しい。
5)あわや青慎との再会を果たそうかという時に、またもやツボに引きこまれて迷宮へ逆戻りした夕鈴と7人の小人たちは…というとこからです。

さあ、いよいよお話も終盤へ。


ラビリンス(9)

夕鈴が真っ赤になってうつむいた途端、グラッと世界がゆがんだ。

グルグルかき混ぜられるようにあたりが揺れたかと思うと、
夕鈴はポイっとどこかに放り出された。

「…ここは?」

見上げると、見慣れた天井。

机の上にはきちんと揃えられた筆と白い紙。硯には墨液がたっぷりと湛えられ、脇には水差し、手元には途中まで書きかけられた書が。

ほんの今しがた主が筆をおいて席を立ったか、黒々とした端正な墨痕はいまだ乾ききっていない。

それはまさに陛下の手跡、ここは陛下がいつも執務を取っている部屋だった。

いつ陛下が部屋に戻ってくるかわからない状況と思われたから、夕鈴は慌てた。
キョロキョロと見回すと7人の小人はあちこちバラバラに墜落して転がっている。

「ちょ、ちょっとみんな大丈夫?」

「ありゃ、ここは…」

「とにかく、急いで隠れないと!
陛下がいつ戻ってくるかわからないの、みんなの姿を見たらきっと大騒ぎに…!」

「なら、おぬしをはやく元通りに」
先生が言う。

「なるほど。夕鈴殿が元の大きさに戻れば…」

「じゃあ、早速――」

小人たちは懐から楽器を取り出すと
「ではみなさん、逆譜で弾いてみましょう。
少々難しいですが…」とねぼ水けさん。

「やってやれないことはない!
ともかくやるぞ!」おこりん方。

ごきげん殿の紅い瞳で視線を送ると、でれすけ殿がコクリとうなづく。
くしゃ李さんが

「では――くしゃんっ!!」

6人の小人たちはガクっと緊張が抜けた。

「おや、失礼」

くしゃ李さんはずびずびと鼻を拭きあげ再度楽器を構えた。

「改めてまいりますよ
さんっ、はいっ!!」

夕鈴は祈るように手を合わせ、その周りで小人たちが音楽を奏で始める。
♪♪ ~♪ 
~♪ ♪ ♪♪~ ~♪

ピクリ 夕鈴に変化が…

「成功じゃ!」

太鼓を叩きながら先生が叫ぶ。

「もっと大きく、もっと心を込めて弾くんじゃ!」

ぐんぐん夕鈴は大きくなり始めた。

「…あっ!」

夕鈴は驚いた。

「やめ、やめ、やめてくださ~~いっ!」
くしゃ李さんがグルグル腕を振り回し、ついでに大きなくしゃみも発射した。

音楽が止み、シーンと静まり返ったその中。

夕鈴の視界の中で、どんどんと小人たちが小さくなっていくのだ。
どんどん小さくなって

小人たちが豆粒のように――

「さあて、どうしたものじゃろうか…」
先生が見上げる。

「――ちょっとやりすぎちゃった?」
隠とぼけが、へへへと笑った。

夕鈴は背中を丸めて必死に天井を壊さないよう手足を突っ張っていた。

「ちょっと、これどういうこと――?」

王宮の高い天井を突き破らないよう腰をかがめて足を踏ん張っている彼女――大型巨人サイズになった夕鈴が叫んだ。

「これじゃあ、大きくなりすぎよ!!」

その途端、廊下から声がした。

「――その声は…夕鈴っ!?」

バンと音と共に夕鈴の足元にあった扉が開く。
陛下が部屋に戻ってきたのだ。

突然の狼陛下の登場に、小人たちは慌ててピュッと身をひるがえし、あちこちのツボや花瓶に飛び込んで身をひそめた。

「夕鈴、どこだ!」

「…」
夕鈴は返事ができなかった。

陛下が、小さく見える。

(へいか、だ――)

夕鈴は声も上げられず、唇を噛んだ。
頭上はるか上の天井から陛下を見下ろしている自分が情けなくてしかたがない。

(こんなに、会いたかったのに。
会って謝りたかったのに――)

ポロリと涙がこぼれた。
涙のしずくは夕鈴の頬を伝うとあっという間に滑り落ち
それが陛下の頭に直撃した。

いきなり頭上からバケツ一杯に等しい水(塩水)浴びせかけられた陛下は驚いた。

「なっ――!?」
と見上げればそこには…

「…ゆ う り  ん?」

瞳孔が開き切った彼の顔。

夕鈴の胸はドクンと音を立てる。

情けない
情けない
情けない
情けない、情けない――!

夕鈴はボロボロと泣くばかり。
絨毯の上にザバア、棚の上にザバア、と涙は滝のように降りかかる。
あっという間に政務室の中は大雨に降られようにびしょ濡れになった。

陛下は「はぁ」と息を絞り出すと、仁王立ちのまま夕鈴を見上げた。
この素っ頓狂な状況を彼は冷静に受け入れ努めて落ち着いた声で話しはじめた。

「君には…いつも驚かされる」

「ひっく、ひっく!」
(へーか、そんな落ち着いてる場合じゃないでしょ――!)
夕鈴はパニック寸前だ。

「夕鈴、探したよ。
そんなとこで何してるの?」

「へっ…へーかぁ――あああああぁん!」

堰を切ったようにあふれる夕鈴の涙は執務室を水浸しに。
水位は増し、陛下の膝を濡らし、ついには腰へと達した。

「夕鈴、落ち着いて」
動じることなく、ジッと紅い瞳で彼は巨大な彼女を見つめている。

「ごっ
ごっ


ごめんなさい…」

夕鈴は必死に謝った。

「君がいなくなったと知って、私の心臓が止まりそうだった。
無事帰って来てくれたのなら、それだけでいいんだよ」

「無事、じゃあ ありません…」

夕鈴は情けなくてますます泣く。

「何があったの? どうしてそんな風になっちゃったの?」

あちこちに筆や紙がぷかぷかと浮き、調度品がガチャガチャ音を立てながら渦を巻く。
陛下は肩まで水に浸かって、軽く手で水を掻きながら立ち泳ぎをしている。

「何がって…急に小さくなって、ようやく元通りに戻れるかと思ったら今度は大きくなって…」

「――ふうん」

陛下は小人たちの話を聞かされても
何事にも動じず、落ち着いている。

夕鈴は夕鈴で、陛下が何を考えてるのかますます不思議になったりもしたけれど。

一通りの事情を聞いている間にも水位はいや増すばかり。
陛下の顎が、鼻が、水に浸りはじめた。

「ダメ。このままじゃ、ヘーカ!」

夕鈴はとっさに彼を片手で掬い上げた。
夕鈴の掌の上で陛下は水を飲んだのか、せき込みながらも夕鈴についての対策を講じている。

「君の言う通り
小人 たち の
逆譜弾きの 曲で、 
き み が
大きくなったのなら
小 人  を探して
元 通り に なる
音楽、を」

「音楽?」
夕鈴は掌にのった黎翔を顔に近づけ、陛下を見つめた。

「君の話のとおりなら
…カギは、小人の音楽では――?」

そのあと彼は苦しそうにせき込んだ。
カタカタと軽く肩が震えている様子が見て取れる。

(びしょ濡れで、体温が下がってる…
このままお風邪でも召されたら――)
夕鈴は泣きながら焦った。

「小人さんたちっ――出てきて!
助けて――」

夕鈴は必死に叫んだ。

夕鈴の鼻先にプカプカ浮いてきた甕の縁にもぞもぞと動く小さな…
「先生っ!
くしゃ李さんっつ、隠とぼけ、無事だったのね?」

甕の縁には、3人の小人がつかまっていた。
「おお。わしらは無事じゃぞい」

「…にしても妃たる者、そのようなガニ股で――全く気品というものがありませんねっ…っくっしょん!!」
水にぬれた前髪をかきあげながら、くしゃ李さんは盛大なくしゃみをした。

「今そういう状況じゃないだろってば」
ニシシと隠とぼけが笑う。

机の上にあった水差しが斜めに水面を漂ってきて
そこからも2人の小人が顔をだした。

「ねぼ水けさぁんっ
おこりん方!」

「池は嫌いではありませんが、私は魚ではありませんので
自分が泳ぐのはどうも…」
それでもふんわりとした笑顔のねぼ水家さん。

「…くそっ!貴様が流れそうになったから助けてやったのを忘れたか?」
おこりん方が彼をグイグイと押した。

夕鈴は5人の小人を指で掬い上げた。

小人を目の当たりにして、陛下は動じるどころか、
なぜか厳しい目つきで5人の小人たちをジロリと睨みつけた。

掌の上の上は濡れそぼった5人の小人と陛下が対峙し、今まさに冷たい嵐が吹き荒れた。
ねぼ水けがガクリと意識を失ったように夕鈴の手の上で伏せて固まった。

だが夕鈴はそれどころではない。

「…あと二人。
ごきげん殿!
でれすけ殿ぉっ」

プカプカ部屋中のものが浮かぶ政務室の中で
夕鈴は二人の小人を探して絶叫した。

*

(次回、最終回)

ラビリンス(8)


こんにちは。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。

いよいよ青慎と再会――?


ラビリンス(8)

「…ヘーカに。会いたい
会って、謝りたい――」
夕鈴はグッと唇をかみしめ堪えるものの、そのうちヒックヒックと嗚咽がこぼれ始める。

「ちょっ、――ゆーりんっ!?」
でれすけ殿はギョッとして飛び上り、小人たちは慌てて夕鈴を取り囲む。
ごきげん殿は手をこまねいた様子で、彼女の周りをオロオロ歩き回るが夕鈴はますますしゃくりあげるように肩を揺らすばかり。

「ゆーりん、大丈夫?ここはぼくが」
「いや私が」
ごきげん殿とでれすけ殿が夕鈴の抱っこ権を争い小突き合いを始める。
ごきげん殿に抱っこされたままの夕鈴も二人の様子に思わず涙が引っ込む。

「ちょ、二人とも、止めてくださいっ!
私はちゃんと立てます、独りで大丈夫ですからっ――」

まさにその最中、家の外の木戸がギイイと軋む音が聞こえた。

ジャリ、ジャリと足音が家屋に向かって近づいてくる。

「…弟君、帰ってきちゃったんじゃなーい?」

隠とぼけの言葉に、あっという間に鋭い顔つきに戻ったごきげん殿。
警戒の色を深めサッと夕鈴をでれすけ殿から奪い取り抱きかかえた。

「…」
その人物は扉を開けようとガシャガシャ音を立てた。

ガラリと扉が引かれ、明朗な声で「ただいまー」と声がする。

青慎の声だ――。

「皆、いそいで甕へ戻れ!」
ごきげん殿の鋭い一声。
「あっ、ちょっ、青慎…!?」

7人の小人は今しがた出てきたばかりの迷路の出口、甕に向かってポンポンポーンと飛び込む。
夕鈴を両脇から抱えたごきげん殿とでれすけ殿、そして5人の小人たち全員が甕へと戻ったその途端、甕の口はすううっと暗くなる。あたりを見回すと、そこは暗い迷路に元通りだった。

「…ああ、青慎…!」
夕鈴は手を伸ばすが、もう汀家の懐かしい台所の様子は掻き消え、目の前には闇と迷路だけが広がっていた。

「…違ったのじゃろうか?」
先生が口火を切る。

「そのようですね」

はぁ…
とため息をついたくしゃ李さん。続いてくちゃん、と顔をゆがめたくしゃみ。
いかにも残念そうに、ハンカチを取り出し顔をぬぐう。

先生がチョコチョコと走り回り、先ほどまで甕の出口だった辺りを見て回る。
「だめじゃ、
完全に閉じてしまったわい」

「…え? 閉じたって、どういうこと?
青慎、帰ってきたんでしょ?
そこに居るのに。
会えなくてもいいから、様子だけでも見られないの?」

夕鈴はジタバタと手足を動かした。

「わしらではどうにもできん」
先生の言葉に夕鈴は納得できない様子だった。

「だって、せっかくここまで来たのに――」

夕鈴を抱きしめていたごきげん殿が応える。

「そう、せっかく来たけど。
たぶん『下町に帰って家族と会いたい』っていうのは
君の一番じゃなかった、ってことだ」

ごきげん殿は夕鈴を覗き込むように顔を近づけた。

端正な笑顔。陛下とそっくりな…
夕鈴の胸はまたもチクンと痛んだ。

でれすけ殿がぎゅーっと顔を摺り寄せてくるから
思わずその胸の痛みも遠のく。
ぎゅうぎゅうと二人を押し返しながら夕鈴は文句を言う。

「家族や、弟には会いたいですよ?
今だって、すぐそこに青慎が帰って来て
もう少しで会えたっていうのに――」

「会えなくて、残念?」
ごきげん殿の真面目な顔。
その表情も赤い狼の目まで何もかも怖い陛下にそっくりで、夕鈴の胸はドクンと音を立てる。

少々うろたえつつも気丈に応える夕鈴。
「それは…残念ですよ!」

「君の胸が痛む理由は、本当に、それ?」

「――え?」

夕鈴はドキリとした。

「――あーあ。
つまんね」
隠とぼけは頭の上で腕を組み辺りを見回した。

おこりん方は眉間にしわを寄せ、夕鈴に向かってブツブツと文句を言う。

「これで我々も解放されるかと思ったのに――
願いが幾つもあるなど…実に面倒くさい女だ!
付き合わされる身にもなれというのに」

「まあまあ、おこりん方」
ねぼ水けさんがとりなした。

「…どういうこと?」

「つまり、あなたはご家族と会えないから困っていたわけではない、ということです」

「…」
夕鈴はハッとした。

「家族には会いたいが、会えない。
だけどさらに深いところに、
あなたが困っている原因があるのではないでしょうか?」

「会えない原因?
私が困っていること?」

「ええ。何か思い当たることはありませんか?
あなたが大切にしていること、とか」

「大切に」

「あなたが一番大切だと思っている人とか」

「一番大切な、ひと…」

(陛下――!)

「…その御方のために、困っていらっしゃるのでは?」
狼陛下そっくりの“ごきげん殿”と小犬陛下そっくりの“でれすけ殿”の二人が
間近から自分をジッと見つめていることに夕鈴はハッと気が付いた。

「…っ!?」

夕鈴はボッと顔を赤らめた。

*

ラビリンス(7)


熊本地震で被災された皆様、眠れぬ夜をお過ごしの皆様のご無事と一刻も早い支援の到達をお祈り申し上げます。
赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

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「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。

さて、下町におりた夕鈴と7人の小人たち。


ラビリンス(7)

シーンと静まり返った薄暗い台所。
小さな窓からわずかに差し込むのは、お昼過ぎのうららかな日差しだ。

夕鈴は甕の口からはい出し辺りを見回した。
小人たちはポンポンと次々に飛び降り、台所の棚の上から部屋の中を見下ろす。
ごきげん殿が「私が抱いて下まで連れてゆこうか」というから「冗談言ってないで、先に行ってください!」と背中をドンと押す。
続いて夕鈴も甕の口を伝い降りようと身を起こしたところ、手がツルっと滑り落ちかけた。
あわててでれすけ殿が抱きとめる。
「…ゆーりん、危ないから僕と一緒に行こうねー」
ぎゅうぎゅと抱きしめられて真っ赤になってしまう。
何とか甕の口から出てきた夕鈴。
「もうっ!一人で大丈夫ですっ!!」とでれすけ殿を突き放す。

彼女は大きく息を吸い込んだ。
懐かしい家の香りがする。
小人サイズの夕鈴にとって、それはとても新鮮な気分だった。

「家がこんなに広く感じたのは初めて」

仕事に出る父さんの背中を見送り、姉弟肩を寄せ合って慎ましく暮らしていた家。
清潔に保たれているようには見えるが、小さな夕鈴の視点ではどうしても細部がクローズアップされるから、あちこちくたびれた感じがするのは否めない。

「青慎はまだ学問所かしら?
もうすぐ帰る時間よね、早く会いたいわ」

夕鈴がつぶやくと、ごきげん殿がちょっと拗ねた表情をした。

「ゆーりんったら、本当に弟君のことが大好きなんだね」

「あたりまえでしょ、大事な弟なんですから!
ヘーカったら、何、やきもち妬いて…」

夕鈴はごきげん殿の方を振り返り、見返した。
その切れ長の赤い目にジッと見つめられ、夕鈴はフッと寂しさを感じ、不意に胸が痛んだ。

(そうだ。この人は小人さんで、へーかじゃない んだっけ…)

くしゃんっ!!
大きなくしゃみが響き渡り、夕鈴はビクッと肩を震わした。
後ろに居た李順さんのそっくりさんだ。“くしゃ李さん”は鼻をフキフキしながら夕鈴に向かって声をかける。

「いつ弟君は戻られると?」

「あ、はい。いつもなら夕刻前に戻るはずなので。
もうそろそろしたら」

「では我々も対策を練らねば」

「対策?」

「あなたの願いが家族に会いたいというのであるのは承知しています。
ですが、今もし弟君が帰ってこられ、小さくなった夕鈴殿や我々の姿を見たら、さぞかし驚かれるのでは?」

夕鈴はハッとわが身を顧みる。
(そうだっ、私、今、小人サイズだった――!)

今の姿で家族との再会というには、あまりにも無理がある。

(っていうか、会えないでしょ、こんな格好じゃ)

「じゃあ、早く元どおり大きく戻して頂戴」

「大変申し上げにくいことですが…我々願い叶え隊7人、小人業は長くしておりますが。
願い主が小さくなるという今回のようなケースには初めて遭遇いたしましたので」

「――え?」

老子そっくりの“先生”が懐から書を取り出してペラペラめくった。

「しかしまあ、古くはそういうケースもあったようじゃぞ?」

「さすが先生!やるじゃん!
で。どうしたらお妃ちゃんは元通りに戻れるのさ?」

浩大そっくりさんの“隠とぼけ”が横から尋ねる。

「かれこれ相当古い話のようじゃ。心配事で気鬱を病んでいた一人の願い主が、小人族と等しい身の丈まで小さくなったという話がこの書物には書かれておるが――どうやって戻ったかは書かれておらんなぁ…これはもう少し詳しく調べてみんと」

「はっ! まったく。このような自分勝手で面倒な妃など、放っておけばよいのだ」
方淵そっくりの“おこりん方”は相変わらず辛辣な物言い。

「ではその方法とやらが分かるまで、私はそろそろ疲れたからちょっと休もうかな」

ねぼ水けさんは端に掛けてあったお玉を見つけ、その丸い柄杓部にスイっとおさまると、居心地よさそうに丸まって静かな寝息を立て始めた。

「ええい、今、お妃の弟が帰ってきて我々を見て驚いたらどうするという話をしていたばかりではないかっ! 貴様は~~っ!」
おこりん方が吠える。

「そもそも、我々の7人の音楽を聞いて小さくなったのだから、もう一度音楽を聞かせたらどうじゃろうか?」
先生が言うので、みんなは懐から早速楽器を取り出した。
お玉の中で寝ていたねぼ水けさんも叩き起こされて、最初は渋々という感じだったけれども合奏をすると聞いた途端目がキラキラして嬉しそうに楽器を取り出した。

夕鈴は7人の小人にぐるりと周りを囲まれ、神妙に音楽に耳を傾けた。

~♪ ♪♪

みんなは楽しそうに演奏を続けるが一向に夕鈴に変化は現れない。

「もっと元気に演奏せんか、心を込めるんじゃ!」

いつまでたっても夕鈴は小人のままで、結局大きくも小さくもならなかった。

「――もしかして、逆をすればよいのではないでしょうか? っくしゃん!」
くしゃ李さんが思いついた。

「逆? どんなふうに?」
隠とぼけがとぼけたふうに尋ねる。

「おしまいから頭に向けて音譜を逆に演奏する、とか――?」

「…それで効果があるのか? はっ、そもそも曲にならんのではないか」
すぐさまおこりん方に突っ込まれ

「やってみなきゃわからないさ」
ねぼ水けさんが難しそうに顔をしかめた。

「どう逆にするのか…それが分かれば苦労はありませんが、やってみる価値はあるのでは? ――っくっしゃん!!」
くしゃ李さん。

「でもさー。そろそろ弟君、帰ってきちゃう時間じゃない?」
と隠とぼけ。さっさと自分の楽器の吹き口の手入れをして、片付け始めた。

「そうじゃな。そろそろタイムリミットじゃ」
先生も残念そう太鼓の撥をしまい始める。

「とりあえずはこのままの姿で、こっそり会って願いを叶えればよかろう!」
おこりん方は眉間にしわを寄せて、私を睨む。

「…だからどうして怒った口調なのよ!?」

「文句があるなら、さっさと願いを叶えて、我々を解放するんだな!」

「…解放?」

(なんて嫌味を言うのかしら)

7人の小人が頭を寄せ合って相談した結果、今すぐ私の体を戻す時間的余裕はないから、まずは「家族に会いたい」という願い事を叶えようということになった。
つまりこのまま家族が帰ってくるのをこっそり傍から見るということらしい。

「弟君にあえるの、楽しみだね」
でれすけ殿に小犬の笑顔で笑われた。

「うん」

その笑顔はあの人にそっくりで…夕鈴の胸はチクンと痛んだ。

(無理なこと言って困らせて
ケンカして陛下を傷つけて。

勝手に飛び出してきちゃった形になってしまった。
後宮から失踪だなんて、みんなに迷惑がいってないかしら?
私を心配して探したり、まさか今頃大事に―――)

せっかくこれから下町の家族に会えるというのに
嬉しいどころか
胸いっぱいの罪悪感で泣きたい気分になってきた。

夕鈴は思わずつぶやいた。

「…ヘーカに。会いたい
会って、謝りたい――」

*

ラビリンス(6)


しばらくお休みをいただき、再開に間があきすみませんでした。

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。


ラビリンス(6)

後宮の片隅の怪しげなツボから現れた7人の小人とともにツボに飛び込めば、そこは延々広がる迷路だった。
困っている人の願いを叶えるのが仕事という7人の小人たちとともに夕鈴は願いを叶える旅に出た。

狼陛下そっくりの小人さんと小犬陛下そっくりの小人さんに両側から手を繋がれ、ことあるごとにイチャイチャ攻撃を受ける現状は、本当の陛下とケンカ中の自分にとってなんともバツが悪い夕鈴であった。

「あなたたち、いい加減にしなさいっ!」
腕を振り切って必死に逃げれば、狼陛下そっくりの小人“ごきげん殿“はその様子が可愛すぎると嬉しそうに笑いますますご機嫌になるし、小犬陛下のそっくりの小人“でれすけ殿“はゆーりんったらそんなに照れなくてもいいのにとますますデレる始末。そんな二人を見ながら苦虫をかみつぶしたような顔をする李順さんそっくりの“くしゃ李さん“が大きなくしゃみとともに鼻を垂らし、浩大そっくりの“隠とぼけ“がひっひっひと笑う。
…自分の体が小さくなっていなければ、まるでいつものような風景だと錯覚してしまうほど。
小人たちは夕鈴のよく知る人たちとそっくりだった。

「どうして、みんなそんなに
私の知る世界の人たちと
そっくりなんですか?」
夕鈴は思わず口にした。

「それがわしら7人の小人の仕事じゃからよ」

張老子そっくりの小人“先生“の言葉は分かるようで分からない。

「そろそろのようですね、あちらが明るく見えてきました」
水月さんそっくりの“ねぼ水け“さんが指差す方を見れば、たしかにそれまで薄ぐらく延々と続いていたトンネルの先がぼんやりと明るく見えてきた。

「はあ、では私はこれで」
ねぼ水けさんが軽やかに手を振って立ち止まり、一人くるりと向きを変えようとしたとたん、方淵のそっくりさん“おこりん方“がねぼ水けさんの袖を引いた。
「貴様、どこへ行くつもりだ」
「目的地も見えて来たことですし、私はこれで少し休ませていただこうかと」
「相変わらずやる気のない奴だな。7人揃ってことに当たらねば、我々の仕事が果たせぬではないか!!」

「とにかく、こっちこっち!」

明るい方向目指して手を引かれ、7人の小人たちといつのまにか小走りになって夕鈴はドキドキしながらついて行った。

「見える?」

「ここかな?」
「ここだね!」
明かりの差し込んでいる出口はよく見ると甕(かめ)の口元のようだ。背丈の倍以上ある、高さを小人たちはぽーんと飛び上がり、口元から当たりを見回している。

「ゆーりんもおいでよ」
夕鈴はごきげん殿に手を引かれ、いきなり跳ねあがった。

「えっ、ちょ…」
戸惑っている間に、甕の口元にぶら下がっていた。

すすけた天井が高く見える。
薄暗い室内に差し込むくすんだ日差し。
スケール感はずいぶん違うが、見慣れた台所のまな板が見えた。

「…ここは?」
夕鈴は呆然と当たりを見回した。

「ここが、ゆーりんの願いの場所じゃないの?」
7人の小人たちの視線が夕鈴に集まった。

張りっぱなしになっている見慣れた暦。
たなに並んだいつも使っていた食器や保存食の樽。
少し離れたところに水場が見える。
あの刃がちびた包丁はいつも丁寧に研いでいたもの…。

「わたしの家?! ええっ!?」

*

ラビリンス(5)


とりあえず予約投稿で連載毎日続けられてホッとしました。
もしかしたら土日はお休みになるかもしれませんが、お許しください。

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい


ラビリンス(5)

後宮の片隅におかれていた怪しげなツボ。

何かの気配がすると思って引っ張りだせば、
それは7人の小人さんたちだった。

小人さんたちの合奏を聞きながらウトウトしているうちに
いつのまにか私の体は小さくなってしまっていたらしい。

お昼ごはんの知らせを聞き、慌てて人目を避けて隠れようとした途端、
7人の小人さんたちは私をつれて再びツボに飛び込んだ!

ツボだと思っていたのに、中は真っ暗で、徐々に目が慣れてくるとそこは広い迷路だった。
入り組んだ迷路は先へ先へとつながっており、細長くクネクネと折れ曲がってたくさんの岐路へ枝分かれをしている。

トンネルの中を、私たちは一列に進んでいた。

「どこ、行くの?」

「君の望むままに」
狼陛下そっくりの小人、ごきげん殿はにこっと笑い、繋いでいた私の手をきゅっと握り締めた。

「ちょっと、今そういう冗談言ってる場合じゃなくて…」

「冗談じゃないよ、ぼくたちみんなで、君の行きたいところに連れてくから」
今度は反対の手をぎゅぎゅっと握られて、あまつさえ脇から密着してくる小犬陛下そっくりのでれすけ殿。

私は両手をごきげん殿とでれすけ殿に各々引っ張られ
狭い通路がますます狭くて歩きにくい。

「…あの。ひとつお願いが」

「なあに?」でれすけ殿。
「なんだ?」ごきげん殿。
二人はシンクロして私を覗き込む。

「愛しい君からのたっての願いとは?」

両側から4つの紅い瞳に見つめられ、ドギマギしながらも
私ははっきりと自分の意見を言うしかない、と思った。

「あの、――手を離してください」

「え?」
拍子抜けをした二人は、慌てふためいた。

「一人で歩けますので――っていうか、両手繋がれると歩きにくいっていうか…」

「では抱っこしよう」

「ごきげん、それはぼくの役目だよ」

「いえ、でれすけ兄上より私の方が適任かと」

「そんなことないよー。ゆーりんはぼくのおよめさんなんだからー」

「いつ誰が誰のお嫁さんに?」

「え、だって! そういう設定なんでしょ?」

「何の設定なんですか?」
とにかくあの陛下が二人になったようなものだから、口を挟むのも大変だ。

「だから、小人の言い伝えの…」

「それを言うなら、夕鈴は私のお嫁さんでは!」

「もぉお~、なんでもいいから!
とにかくっ、手を離すっ!!」

私は叫び、二人から手を振りほどくと
カニ走りで横っ飛びにすっ飛んだ。

その様子をみて、
「――ぷっ!」と吹き出した二人。

「…いまっ見た?」
「見た見た!」
「すっごい変な顔して横っ飛び…かっ、かわいい~っ!!」
「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

このあと二人は腹を抱えて大笑いが止まらなくなってしまったので
寸刻の休憩をとることになった。

「ここでしばらく、休みましょう…っくしゃん!!」
メガネをかけた小人のくしゃ李さんが、テキパキと指示をだしてくれた。

「はぁ…」
腰をおろしながら、ため息をついた。
いろいろ奇想天外なことが続いたけど、案外順応性が高い自分に驚いている。

「お疲れでしょう?」
お茶を優美に差し出す、水月さんそっくりのねぼ水けさん。

「…ありがとうございます」
お茶たくをうけとり、口許に運び、コクリと飲み下す。

「…美味しい」

「それは、ありがとうございます」
ふわりと笑うねぼ水けさん。

「そもそも何があったのですか?」
くしゃ李さんが私に向かって問いただす。

「は?」

メガネをクイッと指で押しながら、くしゃ李さんに真正面から質問されると、ついついこちらも背筋がビシッとなってしまう。

「我々小人族は困っている人の願いに引き寄せられるのです。
…あなた、何か相当困っているのでしょう?」

「…困ってるっていうか――」

「宜しかったら、そのあたり詳しくうかがえませんか」

「…はい」

李順さんそっくりの小人さんに尋ねられれば
気分はアルバイト妃の頃のようになって
素直になにもかも洗いざらい報告せざるをえなかった。

「――なるほど。
そういういきさつがあっ――へっ へっ へっくしゃんっ!!」
くしゃ李さんの豪快なくしゃみがさく裂した。

私が話すあいだ、すでに27回のくしゃみが放たれたが、今回のが一番大きかった。

くしゃ李さんがずびーっと鼻をかむ間、
(普段いつも端正にしている李順さんも、プライベートな時間ではもしかして
こんなふうに顔くしゃくしゃにして鼻をかんだりするんだろうか、などと想像してしまう。

「…つまり、陛下とけんかをなさったと…。
なんと恐ろしいことを」

青ざめ、魂が抜けかける水月さんそっくりのねぼ水(す)けさん。

「恐ろしい? 陛下は怖くはないですよ…というか、
そんなお顔をさせてしまった私の方が悪いんです」

「いーや、あの人怒らすなんてそんな怖ろしいこと
お妃ちゃんしかできねーことだよー?
相変わらず、大物だなぁ」

「怖すぎます
…わたし。そろそろ帰っていいですか?
早退します」
ねぼ水けさんは、いまにも倒れそうな顔つきで早退を願い出た。

「貴様、早退するとは何事だ!」
眉間にしわをよせた方淵そっくりのおこりん方(ぼう)がギリっとにらみつける。

「や、でもさー。仕事だろ?
困ってる人を助けて願いをかなえるために、オレら小人族がいるんだからさー。
ちゃーんとお妃ちゃんの願いを叶えないうちは7人の小人はどこにも行けないし。
当然、早退もできないヨ?」

浩大そっくりの隠とぼけが、とぼけた口調でいなした。

「え? 私の願いを叶えないと、どこにも行けない?」
私は問い返した。

「まっ、そーゆーことになるなー」

老子そっくりの小人、先生が話をまとめた。
「つまり、わしらは『願い叶え隊』で、
困っている人の願いに呼ばれ、引き寄せられるんじゃ」

「それで、私のところに?
みんなは私の願いを叶えに来たの?」

「そういうことになるのう」

「そう言うわけじゃから。じゃあ早速働くとするか!」


はーいよー♪

張老子もとい“先生”が大声を張り上げた。

すると、みんなが

♪は~~いよぉ~~♪
と応える。

そこから合奏と合唱が始まった。

♪はいよー
はいよー
仕事が好き~~♪

「♪仕事、は…だめ…」
ねぼ水けさんは、フラフラっと通路の隅に引きこもった。
小さくつぶやいたねぼ水けさんに、おこりん方のハリセンが飛んだ。

「ねぼ水け!
現実逃避せず、
貴様も力いっぱい働かんか!」

おこりん方が、ねぼ水けさんの背中を再びハリセンでバシバシ叩いた。

ハリセンでシバかれるねぼ水けさんに同情してしまう。
と同時に
(あんなに大きなハリセン、いったいどこから出したんだろう)
と疑問を持った。
「けどま、いっか」←

「おい、ねぼ水け、行くぞ!」
おこりん方にずるずる引きずられるように立ち上がるねぼ水けさん…。
私のために無理やり働かせてしまって、ちょっとかわいそうな気もする。

一向はふたたび迷路の先へ先へと進み始めた。

(でもなぜいつの間に?)
こんどはでれすけ殿に抱っこされている自分に気が付いて
再び愕然としてしまう。

「でれすけ兄上、お疲れでしょう。私が変わろう」

「大丈夫だよ」

「いや、ずいぶんと足元もおぼつかないが…」

そういわれてみると、でれすけ殿はデレデレしてるのか、左右に揺れながらふわりふわりとした感じがある。

「そんなこと言っても、代わってあげないよーだ」

「ケンカしないでください!
降ろしてください、私自分で歩きますからっ!」

「いいから」
「いいから」

(へーか…
言いくるめられるのは、いつも一緒。
暖かいへーかの手を私には拒めるわけなんて、ないんだから…)

しんみりして陛下の腕を思いだした途端、
ふと別の考えが頭に浮かんだ。

(って、これ。浮気とか言われる?)
私はギョッとして、でれすけ殿、ごきげん殿の二人を、慌ててキョロキョロ
見回した。

そのとたん、先生が大声で叫んだ。

「おぬしの願い、叶えてしんぜよう。
行く先に路は開かれん。
いざゆかん、下町の旅!」

*

ラビリンス(4)


診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん


ラビリンス(4)

私はいつの間にかうとうとしていたようだった。
頭はボンヤリしていたが、コツコツと扉を叩く音に飛び起きた。

「…お妃様。昼餉のお時間でございます」
冷水を浴びたように、一気に目が醒める。

周りには小人さんたちが相変わらず楽しげにドンヒャララと合奏中。
「ヤバい! みんな隠れなきゃ!!」
この状態はさすがにヤバいでしょ。

侍女さんに見咎められれば、侍女さんは女官長に報告しなきゃいけないし、女官長さんは李順さんを呼ぶだろう。
そうなったら当然あの人が出てきて…話が大事になる!

「お妃様? 失礼いたします…」

慌てふためく私に対し、小人さんたちはニコニコするばかり。

「ほらっ! 早く隠れて!!」
私はごきげん殿の背中を力いっぱい両手で押した。
咄嗟のことだった。

「隠れるの?」
ごきげん殿は満面の笑みを浮かべて私を見つめた。

「そうよっ、早くっ! お願いっ!」

ごきげん殿はいきなり私をひょいと両手で抱き上げた。

「みな」
ギラリと鋭い目で周りを見まわし、一声だけ発した。

「はっ」「はぁ」「承知!」「…かしこまりました」「ほーい」「はぁーい」
ごきげん殿が周りを見回すと、6人の小人さんたちは一瞬のうちにポンポンと飛び跳ねて、次々例のツボに飛び込んだ。

「ゆこう」
ごきげん殿は最高にごきげんそうで、私をギュッと抱きしめる。

「…え?」

私は抱きしめられたことに戸惑い赤面した。
しかしごきげん殿は構うことなくギュッと強く私を抱きしめたまま、タっと跳躍し、すぽんとツボに飛び込んだのだった。

侍女は再三の外から声をかけるが、やはり返事がない。
「…おかしいわね。しばらく前に陛下がご退出になってから、お妃様がお部屋からお出になった様子はないのに…。眠ってしまわれたのかしら…」

返事がないのをいぶかしがりながら、様子をうかがいながら扉に手をかけた。
「お妃様、失礼いたします」と静かに扉を開ける。
シンと静まりかえった部屋に、人の気配はない。
奥の寝所にもいない。

いるはずの妃が見えないことに侍女は青ざめ、手が震えてきた。
こうなると取り繕った作法も何もない。
必死になって掛け布をめくり、箪笥の引きだしから櫃から、ありとあらゆる場所を開けては探すが、妃はいない。

侍女は叫んだ。
「お妃様っ~!」

「お妃ちゃんが、消えた――!」

妃警護に付けていた隠密、浩大の報告を聞きつけた狼陛下こと珀黎翔は、後宮の一室の前に立ち、嵐のような勢いでその扉を放ち部屋へ踏み込んだ。

夕鈴妃付きの女官と侍女らは勢ぞろいでい並び、青ざめて震えながら跪拝し顔を伏せている。
狼陛下は室内をズカズカと踏み荒らし、手当たり次第に辺りを探す。
確かに部屋の中には誰もいない。

「突然、妃が失踪したというのか?」

狼陛下の怒りはすさまじく、ものを申すのすら息苦しい。
「はい、申し訳――」
平伏しながら詫びる女官長をギラリとにらみつけた。
国王の眼光はすさまじく、周囲は益々凍り付き息もできない有り様だった。

黎翔は怒号を浴びせた。
「探しだせ!」

妃失踪の第一報に引き続き、後宮の周辺の状況も取りまとめられたが、警護の衛兵も、隠密の守備もどこにも不備はなく、不審なものの出入りは認められず、扉、窓、全ての出入り口となるような場所で妃自身が出た痕跡も認められなかった。

「夕鈴が、が消えた?」

7人の小人は整然と一列になって、暗い通路を進んでいる。

(なんで私まで、ツボに…)

「くしゃん!」
くしゃ李さんが激しく顔を崩してくしゃみをすると、7人の小人の一行はしばらく立ち止まる。
くしゃ李さんがメガネをはずし、袂から出した白い布で丁寧にそれを拭き、メガネを掛け直す。すると一行は再び一列になって歩き出す。

「暗いから、ゆーりんも気を付けてね」

「気を付けるも何も…」
抱っこされながら歩いてるんですから、気をつけようもないですよ、とブツブツいいながらジッと自分の顔を至近距離で見つめている視線に気が付く。

「ごきげん殿」

「ん?」

「ちょっと、近いですってばぁ~っ!!
もう降ろしてくださいっ!」

ギューギュー胸を押すが、何の抵抗にもならなかった。

「ちょ、ちょっと待ってよ
何か、おかしくない?」

「何が?」

「さっき、ツボに飛び込んだのに、どうしてこんな通路があるの?
っていうか、…どうしてごきげん殿が私を抱っこできるの?」

今更ながら、気が付いた。

「入口はのう、常にどこかに通じておるんじゃ。
ふほほほほ、これも人生の哲学ってやつじゃ」
張老子そっくりさんの小人の“先生”がごきげん殿のすぐ後ろから説明してくれた。

「ちょっと待ってください!
…今大事なこと、気が付いたんですけど」

ツボがどこかに繋がってるとか、それも不思議だけど…。それより今もっと大事なことがあるような気がする私は、今自分の身に起きていることを確認しようと焦った。

慌てて自分の顔をペチペチと触れる。
ごきげん殿の顔もついでになでなで触る。

顔、同じくらいの大きさ?
さっきまで小人さんだと思っていたごきげん殿が…

「なかなか大胆だな」
嬉しそうにごきげん殿が私を揺すった。

「…ちょっと、今忙しいんですっ!
お願いですから、降ろしてくださいっ!」
ええいっ、と強引に体を引き剥がし、ごきげん殿の腕を潜るように抜けて、ぴょんと飛び降りた。

「…ああ、残念。愛しい兎に逃げられてしまった」
残念そうな顔してるけど、それでもなんだか嬉しそうなごきげん殿。

ひょいと顔を出した先生。
確か、さっき自分の掌の上に載っていた時は三寸ほどの小人だったのに、今は目の前に立っている。…

私は、自分の体をペチペチと触ってみる。

「――え?
私、もしかして――
私も小人になっちゃったの?」

「はっ、何を今更」おこりん方。

「今頃気が付いてんのさ~?
さっきからずっと小さかったくせにー!」
うししし、と嬉しそうに笑う隠とぼけ(浩大のそっくりさん)。

「我々の癒しの音楽は心と体を安らげ穏やかにするのですが、人の体が小さくなる効果もあるとは知りませんでした。変わったお方なのですね、お妃様は」
ねぼ水けさん。

「でも、なんだか一緒って嬉しいよね!」
と小犬のようなでれすけ殿がすり寄ってきた。

「ええええ~~~~~?!
私、みんなの音楽聞いてるうちに、小さくなっちゃったの?」

それは衝撃の事実だった。

*

ラビリンス(3)


診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

SSを書けという「SS(ショートストーリー)」の大前提が既に崩れておりますよ。
そのあたり、まあどうでもいいよーって言ってくださる大らかな方はどうぞ。

ついでに↓ここ↓もなんだか怪しくなってきましたよ。

(原作沿い)→【パラレルファンタジー要素ましまし】

お伽噺やファンタジーが苦手な方、不条理が嫌いな方は無理なさらないでください。
パラレルな登場人物がいきなりドッサリ湧いて出ます。


ラビリンス(3)

「…陛下を、怒らせちゃった」

すごい罪悪感が一気に襲ってきた。

「せっかく下町に旅行に行こうって誘ってくださったのに…
私だって二人で楽しい旅行したかったはずなのに…」

一人っきりになった広い部屋の中で、
私はしょんぼりと椅子に崩れ落ちた。

国王が唯一の妃にとあてがったこの部屋は、後宮の中でも一番豪華な部屋だった。
家具も設えも一つ一つ職人の技巧が凝らされた何一つ不足のないはずなのに、心に吹くすきま風は何とも寒々しい。

シーンと静まり返った部屋。

その時、部屋の隅から小さな音楽が聞こえてきた。

♪ドンドンヒャララ、ドンヒャララ…。

「…え、何っ?」

私は思わず振り返る。
窓の方から、ではない。
楽師が招かれたという話も聞かない。というか、後宮の奥深く、おいそれと足の踏み込めない場所で、こんな呑気な音楽が聞こえてくるはずもない…。

私は混乱しながらも立ち上がり、部屋の中をぐるぐる歩き回り音楽の出所をたどった。

「――ツボ!」
部屋の隅に怪しげな壺を発見!!

(…このパターンは…)

…老子!
後宮管理人である張老子は、いつも私たち二人にイチャイチャしろだの早く世継ぎをだのあれこれ無茶を言い、時折変なところに潜んでは私たち二人の様子を覗いている(前歴がある)。

私はつかつかと部屋の隅に置かれた大きなツボめがけて歩を進めた。

ツボめがけて、勢いよくズボっと一気に腕を差し込んだ。

ドンドンヒャララと鳴っていた音楽が止んだ。

ぐにゅっ、と何かに掌が触れる。
…暖かい。

細いところをつかんだみたい。

「よおし、尻尾はつかんだわよ。もう逃げらえないから!」

私は手に触れたところを握り締め、一気に引っ張り上げた。

想像以上に軽すぎる手ごたえに、うっかり尻餅をつきそうになった。
後方によろめきながら、手につかんでいたそれが喋った。

「ぎゃぁぁっ! なにをするんじゃ~っ!!」

小さな…体!

「はあっ!? 」
行天した私は、今手に掴んでいるソレを目玉が飛び出そうになるほど凝視した。

「あたたたたたっ!そんなにギューギュー、つかむでないっ」
シャガレているくせ、ハイトーンな小さな声。

「…あっ、ご、ごめんなさいっ!」
私は思わず握り締めていた指をパッと開いた。

「わわわっ!あ、あぶないじゃろ!」

親指に辛うじてつかまってブラブラしていたそれは、
よいしょ、よいしょと私の掌の上によじ登ってきた。

「まぁったく、乱暴じゃのう。
はぁ…この様子では、お世継ぎはまだまだ先かのぅ」

ため息を盛大につかれてしまった私はクラクラしながら、掌の上にたつ「ソレ」を眼前に近づけた。

いくら『例の』ご老体が小柄とはいえこれはあまりにも小さすぎる!!
身の丈約三寸(約9.1cm?)、尋常ならざる小ささだ。

「…ろ、老子!? いつのまにこんなに縮んじゃったんですか!
はっ!? 急に老化が進んだ、とか――私、そんなに心配かけちゃいました?」

あまりの罪悪感にダーッと背中に汗をかいた。

「――老子? だれのことじゃ?」
わしゃもとよりこのサイズじゃわい、失礼な。
老化のせいじゃないわいっ!」

小人はやっぱり子供のような高い声でキーキーと返事をした。
私は、手のひらの上に立つ小人老人をまじまじと見つめた。

「張老子、じゃ ないんですか?」

…顔は、似てる。というかそっくり。でも小さい。
どう見ても、老子が小さくなっただけに見える。

「わしゃ、ふだんは“先生”と呼ばれておるんじゃ」

その時、ツボがガタガタ揺れた。
先ほどこの小人をつかみ揚げた例のツボだ。

「すまんが、他の者も出してやってくれんかのう。
実はわしら、ここから出られんで困っておってのう。
誰かに見つけて助けてもらうと思って、演奏しておったんじゃ」

「…はい?」

意味がさっぱり分からない。

だけど、『先生』が言う通り、ここにもし他の小人がいるのなら…

そぉっとツボの中を覗き込んだ。
思った以上に深くて底の方は暗くてよく見えないけれど、
何か動いているものが見えた。

小人…!
「…1、2、3、――6人!?」

「そうじゃ、わしら実は『7人の小人』と呼ばれるチームなんじゃよ。
それよりほかの皆をここから早く出してくれんかの?
…ああ、皆が持っておる楽器を壊さぬよう、気を付けてくれんかの」

私は慎重に、小人たちをゆっくりつまみだした。

「待ちわびたぞ。わが妃はいつも愛らしいな」
ご機嫌な口調のくせに、なぜか鋭い赤い目が印象的な小人…。

「ごきげん殿、御無事でしたか?」先生と呼ばれる老子そっくりの小人が丁寧な口調で膝を折って迎えた。
どうみても陛下そっくりに見えるこの小人、陛下そっくりだけあってなんとなく身にまとうオーラがすごくい。7人の小人チームの中でも偉い存在なのかもしれなし。

「ごきげん殿は実は小人族の王族なんじゃよ」

「ああ…つまり、陛下?」

「ごきげん殿はごきげん殿。
我々小人はそれ以外でお呼びすることはないがのう」

…ちょっと頭痛くなってきた。

「でもその方のごきげんはオンオフが激しいのでなぁ、
良いか、おぬし気を付けて粗相のないように」

「このままずっと君と二人だけでいたいが…」

小さいごきげん殿は、いきなり私を口説き始めた。

「しょ、少々お待ちください!」

そそくさとごきげん殿を床に降ろし
「私、まだ残り小人さんを助け出す仕事が残ってますから。
そーゆーのは、後にしてくださいっ!」
といいながら、私はビシっと一線を引くことにした。

ごきげん殿の背中に黒く渦巻く何かが広がった感じがしたけど、いまはややこしいのでとりあえず見えないフリをした。

次につまみ上げた小人さんは「くしゃん!」くしゃみをしたので、思わずつるっと落としそうになった。

「ああもっと丁寧に!
あいかわらず迂闊な人ですね…」

「ごっ、ごめんなさいっ!」

私はもう一度しっかりつまみなおした。

「くしゃん!」とくしゃみをしてずれたメガネを、指でクイッと正す小人さん。

「そいつは、“くしゃ李さん“と呼ばれておる」

メガネをかけ、薄茶の髪を束ねた小人はどう見ても李順さんそっくり。
くしゃ李さんと呼ばれる小人を床の上に下ろした。

「なっていませんね。あなた、やることが雑なんですよ。妃としての自覚が足りませんね。きちんと教育しなければ――」とブツブツ文句を言いながら、くしゃ李さんはまた「くしゃん!」とくしゃみした。
普段何事も整然と整っている印象の李順さんが、こんなすっごい顔クシャクシャにしながらくしゃみするんだ、というあたりが盛大に笑えた。

私は笑いをこらえながら再びツボの中に手を入れる。

ところが今度は「…遅いっ! いつまで待たせる!だいたいあなたは――」と、いきなりなじられた。
助けてもらう立場にありながら、轟轟と非難されるのも面白くない。目が合ったとたん、バチバチっと視線に火花が散った。
「そいつは”おこりん方(ぼう)”と呼ばれておる小人じゃ」
小さいくせに、眉間のしわがくっきり3本深く刻まれている。

(ほ、方淵、方淵だ、この小人!!)と思いながら、手ばやく床に降ろす。

「ふんっ!」

(ちょっと。礼の一つも言えないの?)
内心ムカムカしたけど、方淵の小人版なら仕方がない…(?)。

「方淵がいるんなら…この隅っこでうずくまってる小人さんは、もしかして…」
丸まっている小人を持ち上げた。

…やっぱり。
水月さんそっくり。

「おお、”ねぼ水(す)け”。そいつは小人族の大貴族の生まれのくせに、やる気がちーと不足しておってのう…。ごきげん殿と一緒の場所に居ると緊張しすぎて自閉モードにはいってしまうんじゃよ」
老子小人の説明。
ごきげん殿と同じフロアに降ろされて目をそらし、ガタガタ震える小さな背中をみて、だいたい想像がついた。

「おーい、おいらも早く引き上げてよー」

ぴょんぴょんとつぼの中でジャンプしている元気な小人。
つまみあげれば、やっぱり浩大そっくりで…。

「おお、そいつは隠密の”隠(おん)とぼけ”じゃ」

隠密のおとぼけ?…浩大じゃないの。ちょっと…

「有能なオレをしても脱出不可能なツボから出してくれて、ありがとなー、お妃ちゃん。ああ、でもおいらホントは有能だからさ。やるときゃやるよ?」

「…こんなツボから出られない癖に、有能な隠密とかあり得ないし」

とぼけた様子で頭を掻いてる様子は浩大そのもの。
隠(おん)とぼけって。

「こんなツボって…あんた知らないからそんな簡単に言うけどさー」

知らないと言われてちょっと悔しい。
でも、訳のわからないことがいろいろ起きてることは、認めるわ。

「そっか。浩大だったらそんなツボひとっ飛びだって思ったけど」

「…へえ?」
とぼけてニヤニヤ笑ってるミニ浩大を手から降ろす。

じゃあ、あと最後のこの小人さんは?と
好奇心にかられて思い当たる節を頭のなかで巡らせた。

まさか、周宰相?それとも克右さん?と思って持ち上げたら――

…あれ?

「やだなーゆーりん。そんなに見つめたら、ぼく恥ずかし~」
もじもじしているその小人。

さっきの「ごきげん殿」とうり二つなんだけど…まさか

「その方は”でれすけ殿”。ごきげん殿の双子の兄君じゃ」

「――ほへえええっ? 陛下、二人?
分裂しちゃったの?」

「分裂?」

「あ、いえ。こっちの話です」

でれっとしたちっこい小人になったへーか…、か、可愛い。たまんない。

ドキドキしながらてれすけ殿を床に降ろす。
たしかにごきげん殿とそっくりで、双子の小人といわれれば納得もするけど
やっぱりどうみても、現実世界の陛下が二人に分裂したように見えてならない。

小犬陛下…ああ、耳や尻尾まで生えて見えるんですけど…。

7人の小人に囲まれた私。
「ありがとうございました」
「ここから助け出してくれて、ありがとなー」と口々に礼を言われたり
「フンっ!」と睨み返されたり、すり寄られたり、何がなんだかわからないうちに
「ささ、お妃様。まずは我々の感謝の合奏をお聞き下され」といわれて
(なんでこんなことになったの?)とかもうどうでもよくなって

7人の小人たちが奏でる小さな演奏を聞き惚れているうちに、
さっきまであんなにギスギスしていた気持ちも心地よくほぐれて行った。

陛下とうまくいかない小さないさかいで緊張していたのかもしれない。
小人たちのホンワカした姿とその演奏を見ているうちに、
なんだか気持ちよくて、ウトウトして…

—–
おさらい
<7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん

ハイホーなあたりから役柄を拝借です。

*

ラビリンス(2)


診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

(原作沿い)

ラビリンス(2)

困った顔で沈黙するの陛下を見て
こんどは私が困る番だ。

(…こんなことで、ガッカリしたような顔しちゃだめだ
ヘーカに心配かけちゃう――)

私は急に思い立って立ち上がった。

(そう、こんなときは、お茶!
お茶にしましょう!)

「あの、へーか、喉乾いてませんか?
私お茶でも入れてきます…」

陛下の横をすり抜けようとした途端、
後ろ手を引かれた。

「夕鈴」

「!…っとっとっと!!」
よろめきながら、ポスン、と陛下のお膝にしりもちをついてしまった。

「あの、お茶を――」

「今はいい」

「でも…」

「無理しなくていいから」

覆いかぶさるように背中から抱きしめられて
私は息が止まりそうになった。

私はグルンと向きを変えて
陛下の顔を見上げた。

「大丈夫です!
気を使わないでくださいってば。
せっかくヘーカが楽しみにして練った計画で
李順さんが珍しくOK出してくれたんですから
ヘーカががやりたいこと、行きたいとこを優先してください!」

私が必死になればなるほど、陛下は優しく笑う。
頭を優しく指で梳かれて、頬をなでられる。

「君が。
夕鈴が行きたいところは、どこ?」

「…え?」

「李順の奴の言うことも最もだから
今回は仕方がない。
いつか必ず、君の希望を叶えるから…
今回はその分も埋め合わせがしたい――
ねえ夕鈴。君はどこに行きたい?」

「――」

私は言葉に詰まった。

(…ほか の 場所?)

家。
ご近所さん、手伝いを頼まれた家、仕事先諸々…
あとは買い物で毎日行った繁華街の市場…
明玉の飯店、几鍔の店も品ぞろえはまあまあだった(…思いだすとムカつく)
父さんの仕事場、青慎の学舎にもお弁当届けに行ったっけ。
それから、母さんのお墓。

それから。
それから――

えっ と?

「……」

そうだった。
下町は、私にとって「生活」の場所。

「…あの。王宮以外ですか?」

「そうだよ、二人のお忍び旅行の話してるんだけど」

物心ついたときから、ひたすらあくせくと働いているだけだった。
ただ家族の笑顔だけが楽しみで、目の前のことだけを必死にやっていた。

「それって、つまり」

「夕鈴と下町で美味しいもの食べたり、のんびり遊びたいな」

だ・か・ら!

今更「下町で遊ぼう」なんて言われても、
ヘーカにお薦めできるようなお料理を出すお店なんか知らないし
どこでなにして遊べるかなんてちっとも思い浮かばないんです!

「ヘーカにお薦めできるような場所とか
私、あんまり知りませんし…」

口ごもると、陛下は柔らかく笑いながら私をなだめるように背中をなでた。

「私のことなど気にしないで。
で、
君は、どこに行きたいの?」

陛下をないがしろにできるわけないのに。

相変わらずご自身を粗末にされるような物言いに、
反論したい気になった。

「下町のドコっていっても。
小さいころから父さん助けながら家事に追われていたから、今更改めて『どこに行きたい』って聞かれても…正直、よく分かんないですよ。
むしろ、ヘーカのほうが、ずっとご存じだと思います!」

即位後、陛下はちょくちょく下町に下りていたっておっしゃってたっけ。

…そういえば、私が一度王宮から出されて、陛下と下町で再会したとき。
あの時、陛下は綺麗なおねーさんと遊ぶ場所にも手慣れた様子で…。

想像したその瞬間、思わずプクッと頬が膨らんだ。

「――ずるい」

「…は?」

陛下はキョトンとした。
それから「何、どうかした?」と、急に慌てた様子で困り顔をしてみせた。

(ふんっ!!
無邪気な顔をして、ごまかしてもダメですよーだ!)

いかにも馴染んだ様子だったじゃない。
ヘーカはあんなとこや、こんなとこ、楽しいところを一杯ご存じなんでしょ?

「そうデスよ。
…ヘーカが楽しめるところに、行けばいいんですよ。
どうせ父さんにも青慎にも会えないし、それ以上に行きたいとこなんてありませんよーだ。
私は行くの止めておきますから。
どうかぞんぶんに下町を満喫してこられたらいかがですか?」

せっかく陛下が私のために無理して通した企画だということは十分に分かっていたのに。
ヒネクレた自分が嫌になりそうだったけど
でも、
口からこぼれてしまった。

そう言ってしまったとたん
それまで優しかった陛下の目の色が変わった。

…ぞくっと背中が凍る。
狼の眼。

(え、怒っ…?)

優しい人としりながら、こんな陛下の眼を見ると
未だに本能的に背筋が凍ってしまう。

「…その言葉は
本気?」

彼の腕の中にとらわれた状態。
至近距離でその視線に射すくめられて
まるで脅迫されている気分がするけれど

だからこそ
私も引けない。

口からつい強がりがこぼれてしまった。

「私がいたら、ヘーカの足手まといになるだけですよ。
綺麗なお姉さんがいるとことか行けないし
どうせお邪魔でしょう!――」

自分で自分の言葉を信じて、妄想はどんどん膨らんで
綺麗に着飾った妓女とイチャイチャ羽目を外している
陛下の妄想が脳裏に展開されていく。

まるでそれが事実であるかのように――。

こうなると、今度は無性に腹が立ってきた。

陛下は怖い顔をして、私の肩をそっと両手で押し戻し
二人の間に距離を取った。

「君が、行きたいところに
二人で行きたい、と私は言っているのだが?」

「ですから、私なんか気にせず
陛下が行きたいところに行って、
ぞんぶんに羽を伸ばしてくださいと――」

その瞬間
ピシっと空気にひび割れたような気がした。

陛下はゆっくり立ち上がると
「…では君の好きにするが良い」
と言い放った。

そして一度も振りかえらず
部屋から出て行ってしまったのだった。

*

もはや、SSじゃなくなりそうです。
短期連載?
(短期で終わるか分かりませんけど…)

見切り発車、
どこに行こうとしているのかまだ見えておりません~(笑

ラビリンス(1)


お久しぶりです^^
お元気ですか? いつのまにか春ですね。

気が向いて、診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) というのをやってみました。

「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」

行き当たりばったりですが、とりあえず書いてみましょう。

(原作沿い)

SS ラビリンス(1)

「お妃ちゃんが、消えた――!」

浩大の声に、
私は嵐のように扉を放ち部屋へ踏み込む。

部屋の中には誰もいなかった。

突然、彼女は失踪した。

「頂き物のこの砂糖菓子。ほんの少しだけ、持っていってもいいですか?」

頬を染めて小さな砂糖菓子をつまみ
「これは青慎に。これは父さんに」と選ぶ彼女の姿は本当に可愛かった。

「下町に降りたら、どこか行きたいとこある?」

このところはいつも私が無茶ばかりすると諫める賢婦でありながら
今回の企画ばかりは彼女も楽しみにしていたようだ。

「ええっと、まずは家によって。
次に明玉のお店にも顔出して――」

「私も行っていい?」

「ええ――っ? 明玉のお店に、へーか、来るんですか?」

「君のゆくところなら、どこだって」

「ダメです!」
キッパリと断られた。

「ええー?」

激しくしょんぼりしてみせると、困った顔をした君はおずおずと指を差出て、私の髪をなでてくれた。

「…だって。女同士で話がしたいし――」
モゴモゴと口ごもる彼女の唇を優しくふさぐ。

しばらくして、ようやく口をつぐんだ彼女に、もう一度ねだる。

「だって二人の。これ実質、新婚旅行でしょ?」

「…だって。へーかモテルから。
こんなカッコよくて綺麗な人、下町になんか一人もいなくて
お店なんか連れてったら目立って――心配なんです…」

なんだ、可愛いやきもち。

もうどうしていいんだかわからないほど。
君は可愛すぎる――

「…っ!」

抱きしめて。
力いっぱい抱きしめて。
耳元に囁く
「大丈夫、君だけだ」

「だから!
お店には来なくていいんですーっ」

ジタバタともがく愛おしいウサギの温もりを、腕の中に閉じ込める。
柔らかい君の肌に触れている瞬間、私は今心底ホッとしているんだ。

そんなふうに、私たち二人は浮きたって計画をしていた。
本物夫婦になって初めての二人だけのお忍び計画。

正直、李順を説得するのには骨が折れた。

だが最終的には奴は折れた。
「危ない橋を渡らないのなら」それが条件だった。

つまりそれは
「夕鈴が住んでいた地区には決して足を運ばない」ことを意味していた。

王宮勤めのバイトに出かけた下町娘の汀夕鈴こそが狼陛下の唯一だなどと世間に漏れるのは今はまだあまり得策ではない。
「氏素性の知れない唯一の妃、夕鈴の対面上の意味あいもありますが
それよりなにより汀家のリスク管理面での問題の方がずっと重要なんですよ」と
李順は強調した。

「お妃様の出自は表には出ておりませんし、知っているものもごくわずか。
陛下と私、宰相、隠密の浩大、そして軍部の克右といった、信頼できるほんの数人だけの極秘事項です。
お妃様の出自、つまり汀家の警備にもし人員を割けば、当然お妃様の背後を探る者達に事情が漏れる機会も増えましょう。
かといってこの人数で秘密裏にお妃さまと汀家のご家族を守るのは至難の業ですよ」

弱みを握ろうとする悪い輩に事情を知られれば夕鈴の家族に危害が及ぶ、と断言されては
夕鈴も承知せざるをえなかった。

夕鈴は李順からの説明を聞きながら、うなだれた夕鈴は小さくため息を吐いた。

「――わかりました」

君は私が守るといいながら
李順のいうことももっともだった。

堅苦しい公務続きだったから、妃の細い方にのしかかる王宮の重圧から一時でも開放したくて、お忍びを計画したのに。

こんなにしょんぼりした彼女を目の前に、私は正直どうしてよいのか戸惑った。

二人きりになった途端。
彼女は小さくつぶやいた。

「父さん。
青慎…。
会いたかったな」

「青慎の塾とか――家からはなれた場所で。
ちょっと物陰から覗くだけでも…だめですか?」

いい、とも
だめ、とも
その場では言えなかった。

私の無言に、彼女は肩を落として静かに目を伏せた。

*