SS 愛を告げる日によせて


ご無沙汰しております。
もうすぐバレンタインデーですね。

せっかくなので、おひとつ
短いですが。

本誌沿い設定

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愛を告げる日によせて
***********

シャランと鈴の音の先触れ。

――陛下が後宮にお帰りよ

いつものように支度を整え、袖を合わせぴしりと背筋を伸ばす。
しなやかな衣擦れの音、ふわりと漂うあの人の香り。

「おかえりなさいませ、陛下!」
うれしくてつい、2、3歩踏み出してしまう。

「…夕鈴」

そういうと、いきなり陛下は
カプリと私の鼻を咬んだ。

「――っ!?×◎△*★♪○…」
(へーかっ、な、なにを!)と言ったはずなのに
耳から入ってくる自分の声は、フガフガとなんとも情けない声とも音ともつかないものだった。

陛下に雁字搦めにされた私は
息苦しくて真っ赤になりながら押し戻すのだけど
私の力くらいでは、びくとも動じない。

見た目綺麗なくせに、陛下ってばすごい力…!

(っ、放してくださいっ!!)
そういってるつもりだけど、またフガフガへんな音が漏れている

コリコリ、モゴモゴひたすら鼻を舐られ、もうどうしてよいか分からない。

…息が止まりそうになって苦しくて目がグルグル回りだした。
ついにダランと力を抜いたら
ようやく
「――あ!」
といって解放された。

よろよろとたたらをふむ私は
申し訳なさそうに見つめる彼と少しだけ間合いをはかる。

「…ごめん」

困った小犬の、とろける笑顔がそこにある。

「…っ――!!」
御免じゃないでしょっ!!

「――だって。ゆーりんの鼻になんだかおいしそうなものが付いてたから…
お菓子、作ってくれてたの?
ご馳走様!」

あっ!!
しまった――

と思った瞬間、
かぁあぁっ と
顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。

今日という日は
ちゃんとしたかったのに
驚かせたかったのに。

それでも
陛下がニコニコとあんまり嬉しそうな顔をするから…

「…」

袂からそっと包みを取り出す。

「…今更ですが」

ううん、といいながら
優しく肯んずる彼。

頬をなでられるだけで、嬉しくて
どうしてこんなにも目の前のこの人のことが好きなんだろうって
自分が恥ずかしくなるばかり。

「う、上手にできたかどうか
分かりませんが…」

「夕鈴が作ってくれたんでしょ?」

彼の眼を見たら
ますます、もう逃げられないということだけが
…分かった。

すこし手を広げた彼に歩み寄り
そっと身を寄せる。

はやく
伝えたいこと
伝えないと。

辛抱できないこの人に
また食べられちゃうから――

「へーか
――大好き、です」

Happy Valentine’s Day!!


■近況報告

お手伝いしております合同誌「3つの恋のお題」の編集もほほほほぼ終わりですのほほほ(汗;)

「3つの恋のお題」事務局ブログ http://g3koi.blog.fc2.com/

送料あいのりサービスやってます。現パラアンソロ

白友のよゆさまのご助力をいただいて、合同誌協賛で既刊本現パラの自家通販を2月8日~2月22日受け付けることになりました。 詳しくは1つ前の記事をご覧くださいませ→ 合同誌と現パラアンソロのお知らせ

■花粉症、始まりました。
これはサービスじゃないんですが――個人的なお話ですみません、もれなく春に付いてきてます。


SS クリスマスプレゼントを一つだけ


いよいよ師走ですね

このところどんどんログイン率が落ちていてごめんなさい

これからまた忙しくなります
ときどき会えたら嬉しいですね

【現パロ】【微糖】
設定:お付き合いをはじめたばかりの二人
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クリスマスプレゼントは一つだけ
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「何がほしいですか?」

「――?」

目の前の彼はぽかんと口をあけてわたしを見つめていた。

私は汗ばむ手を握り締め、それでも果敢に攻めるのだ。

「なにがって、何で?」

「クリスマスだからですよ」

「えー? まだずっと先だよ」

ちっともピンときていないみたい

「…なかなか会えないし。
今から準備しないときっと大変だから」

会いたいのに、
あえなくて。

会えても、
一緒に居る時間は短くて…

「夕鈴の負担になるくらいなら、なくていいんだよ?」

違うってば!

まったくもう――。
綺麗な男(ひと)なのに、そんなふうにとろけるような小犬の顔で。

笑ってわたしを甘やかすばかり…。

 * * * * *

彼は院生で、
サークルの先輩だけど、サークルにはときどきしか顔を出さない
…すごく忙しいヒト。

彼の研究論文一つで天地が引っくり返すと恐れられる寵児。
破壊力のある実績を持つ彼には大学教授ですらも頭を下げるほどで、
大学では知らぬ者のない「狼陛下」と呼ばれるまさに王様。

冷酷非情の狼陛下はいつも王宮と呼ばれる研究室にこもり切りで
特別な頭脳を持つ人達としか交流を持たないと聞いていた

雲の上の、手に届かないヒトだったのに
ひょんなことから臨時彼女をやる羽目になり
それからまあ紆余曲折、本をかいたらたぶん13冊分くらいにはなるであろう様々な出来事がありまして、ようやく気持ちが通じて今では本当の彼女としてお付き合いしているわけであります。

お付き合い、といいながら
ほんとうに忙しい彼と会えるのはほんの一瞬
はぁ…(ため息)

それも仕方がない。
みんなのために強い役割を演じている王様だから。
陛下は陛下なりにすごく頑張ってるんだから…。

私だけが知っているあの優しい人。

ささやかなことでいいから彼女らしいことを何かしたいなぁと思いついたものの、何をしたらよいのかわからない。

『じゃあ、せめてプレゼントくらい?』と思ったけれど
地位も名誉も金品もなんでも持っている王様の彼のことだから
はじめての二人のクリスマスなのに
何をプレゼントしたらよいのか、皆目検討がつかない情けなさ。

調査しようにも、陛下の側近の人に聞けばきっと盛大に呆れた顔で突き放されておしまい、だろうし、研究棟の管理人の爺やさんは(以前も変な本すすめられたりした前歴ありだから)きっとからかわれるにきまってる。

これ以上余計なことで彼の足手まといにもなりたくない。

じゃあ!

素直に、聞くのが一番だという
結論に至ったのだ。

だから、手短に聞き出そう、と決めてきたものの
目の前のヒトは…。(頭痛)

「庶民の私にできることっていったら
たかが知れてるとは思いますけど
それでも
あなたを喜ばせたいから
…教えてください」

うん、とうなずくと彼はケロリといった。

「なんでもいいよ」

「なんでもいいだなんて
いい加減なことはできませんっ!!」

「ぼくは、君からもらえるものなら
なんでも嬉しいよ」

それじゃあ、ダメ?といいながら、彼はキューンと小犬の顔をする。

小犬陛下が困ったような顔をするから
私もますます顔が赤らんだ。

それだめ、ずるい
ヘーカを困らせたいわけじゃないのに…

それでも付き合い始めて初めてのクリスマスにプレゼントなしとか
そういうわけにもいかないじゃない?

「へーか…」

「じゃあ
欲しいといったら
なんでもくれるの?」

小犬だった彼の目が
すうっと細くなる。

「…え?」

私はたじろいだ。

「ひ、ひとつだけですよ
たくさんは無理です」

「じゃあ、ひとつだけ」

「は…」

い、

と言う前に

「君を一つ、
まるごと全部」

と、耳元で囁きが聞こえた――。

(おしまい)

SS 創と病


お久しぶりです
織座舎のブログに入ろうとしたら、
ブログのページも
管理画面への入口も
なにもかも真っ白でびっくり(;゚Д゚)

(入れない)

雪?
雪の時期ですか??
春になって寝雪が解けるまでこのまま… ← ← ←

――気を取り直して

どうやらブログで使っているWordpressというソフトに組み込んでいるプラグインとやらのなにかとなにかが干渉しあっておきる現象だそうで、そのあたりの知識の薄い私にはまず入るところに四苦八苦でした

さて久しぶりに、
とりとめないSSですが

SNSにあげたものと同じです

よろしければ…

(おりしも
いい夫婦の日だったですよ、これが。)

——————–
創(きず)と病(やまい)
——————–

「あら、女官長さん。そういえば、いつもの侍女さんは?」

「…お妃様、大変申し訳ございません。風邪で熱をだしまして…」

「――えっ!? ひどいんですか?」

「いえ、たいした熱でもないのですが、お妃様に万が一うつしてもいけませんので」

「そうですか…はやく良くなるとよいですね」

胸を痛める妃の様子に、優しく女官長は微笑み返した

夕餉の打ち合わせで女官長が席を外した途端
一人になった夕鈴は考えた。

(侍女さんがはやく風邪がよくなるようなものでも…)

「そうだ!」
彼女は思い立ったようにこっそりテラスの窓から外に出た。

しばらくして

いつもより早い時刻に
チリンチリン…といつもの主の来訪を知らせる鈴の音が響いた。

はっと彼女は庭から部屋へ走り
部屋へ戻ると息を整え、夫を迎える

妃の前に現れた美丈夫の国王は「戻った」というなり、
妻を優しく抱きしめた。

「おかえりなさいませ!」

彼女の華奢な体ごと覆いかぶさるように抱きしめれば
いつもより紅潮した彼女の様子がおかしい。
そして、ゴツ…とした感触。

「?」

少し体を離し、確かめれば、何やら彼女の袖が膨らんでいる。

衣装の裾や袖には泥がついて
彼女の頬には少しだけスリキズがあった。

彼女の頬にある傷を見たとたん、
紅い瞳が曇り、鋭さを増す。

「…その、頬のきずは?」

「! へ?」

汗ばんだ指で、頬に触れるとちりっとした独特な痛みをともなった。
しまった、と夕鈴は顔を赤らめた。

「だ、大丈夫ですっ!
ちょっとこすっただけで――」

あわてて庭から戻った彼女は
ゆとりがなかった。

「…っ、きゃ」

彼はいきなり妃を抱き抱え
その頬の創(きず)を舐めた。

ゾロリとした熱い舌の感触と
ピリピリとした痛みが走り、
夕鈴は「逃げられない」と本能的に身をすくめ、観念した。

彼は彼女を長椅子の上に置くと
今度は遠慮なく彼女の検分を始めた。

「他に、怪我は?」

「…なっ…けっ、ケガなんて してませんってば」

袖からぞろぞろと出てくる
カリンにカキ、キンカン…。

彼は「ん」と眉をひそめた

「…これは」
彼女は真っ赤になって、収穫物を抱きしめた。

「ケガというか、こすっただけで
大したことは…」

くるりと振り向くと、彼は冷たい声で命令を下した。

「女官長、妃が怪我をしている
ただちに侍医を呼べ!」

「は!?」

晴天の霹靂の事態に、傍に控えていた女たちは固まり青ざめ
後ずさりして侍医を呼びに走った。

狼陛下の発するぴりっとした空気に満ちた後宮は
いつになく大騒ぎとなったが、
ようやく二人きりの静けさが戻る

妃の頬にはこれでもかというほど大仰な手当が施され
消耗した夕鈴はぐったりと眼をそらして座り込んでいた。

机の上には小さなカゴ

その中に、さきほど彼女の袖から出てきた果物が収まっていた。

状況的に
庭の果物をとったことは明白。

彼女の頬の手当が終わった布越しに
触れるか触れぬほどの繊細な指使いでそっとなぞった

彼の眼差しは厳しかった。

夕鈴はどう説明したものかと窮するも口を開かざるを得なかった。

夕鈴は、ショボンとした様子で申し開きをした。

「あの…ちょっと木登りして。
その時、ほっぺたを少しだけこすったかもしれません」

果実の入ったかごを取り上げ抱きしめ
夕鈴はさらに謝った。

「ごめんなさい。
庭の実を盗って…」

「かまわぬ、
この後宮にあるものは全て君のものだから」

そう言いながらも
彼の眼は厳しいままだった。

「その。
侍女さんが風邪で臥せっているというので
お見舞いにあげたくて…」

しどろもどろに顔を赤らめる妻の表情を意地悪げに睨んでいた彼は
唐突に「ぶっ」と吹きだした

そしてケラケラと笑い出した。

「その格好で。木に…登ったんだ」

「だって――」

夕鈴が質素を好むとは言え、
朝晩冷え込むこの時期の妃衣装は優雅で重たかった。

妃が木登りする様子を想像した彼は
またひとしきり笑い転げた。

あまりの様子にプットむくれてみせる夕鈴の様子をみて
彼は彼女の乱れた髪を指ですくと今度は頬に優しくくちづけを落とした。

「…君は優しいな」

彼の優しい仕草を受け入れ、ほっとした様子で夕鈴は緊張を解いた。

なのにまだ彼は怒っていた。

「誰かのために、君が傷つくのは許せない」

彼はまた拗ねた。

「ごめんなさい」
夕鈴はショボンとうなだれる

「君は私のものだという自覚が足りない」

「自覚?」

「…髪の一筋から、つま先に至るまですべて君は私のものであり、
私のためだけに存在するということを

もっと自覚して…」

「…へーか
あなたのために
私はここにいます」

耳元の呟きはため息のように小さかったが、曇りの欠片もなくきっぱりとしていた

影がおちるように
覆いかぶさると

息ができないほど
強く彼は彼女を抱きしめる

「私は君という病にかかってるみたいだ」

すべてを預け
まるで泣くように

低い声にこもる
迷子のような心細さ

傷ついているのは
私ではなく
この人なのだと

夕鈴は気が付く

「へーかは
私のことで、傷つかなくていいんですよ」

彼女は
軋むように彼の重みを受け止めて
その体に必死にしがみついた

「笑って」

「…はい」

微笑みとともに降ってくるのは
星くずの数ほどの口づけと。

*
(終)

SS あがない


こんにちは。
ほんとうにご無沙汰しております。申し訳ありません。

さて久しぶりですが短い他愛もないSSです
よろしければどうぞ。

個人的には新婚編のスタートの、陛下のささいな一言が未だに気になっておる私でございました。

夕鈴目線で。

【原作沿い】

*********
あがない
*********

陛下はいつもわからないことをいう。

「君も
隠し事をするんだね」

そう言って陛下は静かに笑った
そしてその言葉はすぐ煙のように霞んで消えた。

それ以来
陛下は二度とそんなこと言うことはなかったけれども
その言葉は小さな針のようにわたしの胸に突き刺さったまま
時折チクンと微かな痛みを与えるのだ。

私はとても怖いのだ。

ふたりっきりの時にしか見せないとびきり甘い陛下が
ふとしたときみせる表情が。

焦点を結ばない紅い瞳のその先に広がる虚空の
わたしの見えない何かに引き寄せられて
あのひとがどこかに行ってしまうんじゃないかと
漠然と心に影を落とす

陛下のために
陛下のことだけ
いつも考えているのに。

どうして、うまくいかないんだろう。

幸せを手に入れれば
今度は、その幸せがもろく見えて
怖くなる。

私はとても落ち込んだ。

さら…と流れる薫りを感じた途端
「私の妃は何を憂いているのだ」
背中から抱きしめられて陛下の袖に包みこまれた。

「…あ、っと。おかえりなさいませ」
私はハッとして振り返った途端にあの人の笑顔が広がっていた。
包まれた暖かさにそれが幻ではないことを確証して
なぜか涙がこぼれた。

「何、考えごと?」

「ごめんなさい」

「…涙。泣いていたの?」

「え、あの。
これは」

陛下は指先を伸ばすと私の目尻を触れた。
濡れた感触の後、彼は私の額と目尻にやさしく唇を落とす。

「君を泣かせるとは
罰せねばならぬかな」

陛下の腕の中にいられるという安堵感につつまれ
涙が次から次へとこぼれる

「いえこれは。
安心して――」

「安心?」

「はい、こうしてあなたが
私のもとに帰ってきてくださることに」

嬉し涙です、と付け足すと
陛下はキョトンとすると今度はとびきりの笑顔で
「なんだ」と破顔し、わが妃は可愛いことをいう、と今度はもう少し力をこめて私を抱きしめた。

「では
君を泣かせたのは私ということか。
ならば
罰は私が受けねばならぬな」

嬉しそうに擦り寄りながら
そんなことをいう陛下に
私はおもわず抗議の声をあげるのだ。

「陛下に罰だなんて
とんでもありません!」

(でも…)

私は思い切って
心に引っかかっているあのことを
口にした。

「君も、って」

「?」

「君も、っていうのは
私のほかの誰のことですか?」

「――は?」

陛下は眼を丸くした。

「陛下が以前私に。
『君も隠し事をするんだね』とおっしゃったあの言葉です」

…陛下はしばらく複雑な表情をして動きを止めた。

「…なんの こと?」

陛下の眼は、分かっていないんじゃなくて
言いたくない、っていう眼をしていた。

「あの。
…隠し事をしたのは確かに悪かったと思います。
そのことは、謝ります」

私はぺこりと頭を下げた。

「もう何のことだったか忘れてしまったよ。
気にしなくていい。
…そんなこと、なぜ謝るの?」

「あの…。誤解されるのは悲しいですし。
でも、私の行動がこうして陛下に悲しい思いをさせているのなら
謝りたくて。
あの。
君も隠し事をする、というのなら
私の他にも陛下に隠し事をする人がいて
悲しませているってことでしょう?
だとしたら、私にできることは何かありますか?」

…陛下は眉尻を下げて
すこし悲しそうに哂った。

「君はいつも前向きだな」

「え」

「もう

忘れてしまったよ」

「あの」

「君が今
こうして
私のそばにいてくれるから」

「…」

陛下の悲しみが何なのか
私にはまったくわからないけど。

「それで、いいんですか」

「そばにいて」

その一言は
今の私がここにいる理由として
十分すぎるものだった。

(おしまい)

七夕SS「雨天中止」【挿絵あり】


こんばんは。今日は七夕ですね。
おかげさまでこちらは晴れております。

白友の某絵師様の素敵絵にインスパイアされまして、短いお話をひとつ…。

(追記)
千花様のご好意にイラスト掲載ご快諾いただきましたので、こちら紹介させていただきます。

絵:千花 「雨天中止」

絵:千花 「雨天中止」

【本誌設定】【本物夫婦】

~千花さまへ捧げます~

* * * * * * * * *
雨天中止
* * * * * * * * *

挿絵:千花
文:おりざ

七月七日の宮中行事、乞巧奠(きこうでん)。
織女星が輝く夜、機織りや裁縫の上達を願う女性が祭壇に針を供え星に祈りを捧げる。

この国の王は冷酷非情の狼陛下と呼ばれ、その後宮は即位以来長らく空っぽであった。
王は一切の女を寄せ付けず、寄せられる縁談はすべからく薙ぎ払った。

――だがついに、後宮は開かれた!
その孤高の王がついに一人の妃を一人めとったものだから、これを機にあわよくば二人目三人目の妃として娘を献上しようという野心を持つ者たちで王の周囲はあふれていた。

女が主役の宮中行事ならば好機と、今年の乞巧奠は美姫麗人であふれかえった。

「さあさ、今年の織姫は誰に決まるのか」
まるで新たな妃が選ばれる運びであるがごとく、周りは浮きたっていた。

「狼陛下は次に誰をお選びになるのだろう」
そんなくだらない噂は妃も聞き及ぶところなった。

実際、七月七日の朝から行事の一端は始まり、行事が行われる宮には次々と淑女たちを引き連れた貴族が集まった。

夕鈴は内心モヤモヤしていた。

…後宮の本来あるべき姿。
後宮とは花々で埋め尽くされた天上の園。
星々であふれかえる天の川のようだとも聞いた。

「君はいつまでも君のままでいいんだ」
いつも陛下はそういって、彼女の目を覆い塞いだ。

『君は、見なくていいもの』と、陛下が見せようとしなかった現実。
王は何人でも妃を持てる、ということ。

乞巧奠に集まった女性たちは皆『教養も地位も持つ王に相応しい娘』たちだった。
彼女たちは最高に美しく自分を見せるすべを心得ていたし、矜持を胸に圧倒的な輝きをを放っていた。
煌めく艶やかな存在。

自分は陛下に釣り合っていないのでは、と
夕鈴はちくりと胸を痛めた。

「あの人達は煌めく天の川の星々。
私は――」

夕鈴は妃という立場にひけめを感じるばかりだった。

昼を過ぎ、粛々と行事は進んでゆく。
ところが夕刻過ぎに雲行きが怪しくなった。

ぽつり、ぽつりと雨が降りだした途端、
夕鈴の心はなぜかホッとした。

織女星が輝く夜、祭壇での祈りのクライマックスを待たずしての、雨天中止。

「もう彦星は、織姫に会わなくていいんだ。
二人は巡り合わない――」

夕鈴の心の中に広がる闇空に、細いさざ波が広がっていった。

* * * * * * * * * *

「ほらほら、正装が濡れてしまいます」
屋外の祭壇の前に居た国王と妃はそそくさと控室に押し戻された。

「お風邪を召されますよ」
濡れた髪を拭かれていると
「お前たちは下がれ」と国王は静かに人払いを命じた。

人の気配がなくなると、とたんに狼陛下の表情は和らぐ。

「ねえ、夕鈴。疲れた?」
黎翔は優しく微笑んだ。

「…いえ、これくらい」
夕鈴はハッとして、慌てて「陛下のお世話をしなくちゃ」と布を手に取った。

濡れた体をぬぐおうとした夕鈴の手を握り、黎翔は彼女の顔を覗き込んだ。

「じゃあなんで今日はそんな顔してるの?」
重ねて問う。

「…へんな顔なんて」

「そっかなぁ…」
陛下にほっぺたを両側に引っ張られた夕鈴は「いた!」と小さく声をあげた。

「ごめん!」
両頬をやさしくつつみこまれ、すぐさま頬に口づけが落ちてきた。

「――へいか」

口づけは頬から口元へ。

「…ん?」

「陛下には、輝く星々がお似合いです」

「…なに、それ?」
黎翔はキョトン、と行為を停めた。

「つまり――天の川の星全~部がへーかのものってことで…」

黎翔はクス、と笑って。

「…あのさ。夕鈴。
空の星は誰のものでもないし…。

たとえそうだったとしても
――僕は君だけでいい」

「――へ?」

「無限の星がこの世にあっても
私は迷わず、君という星を見つけるから」

「…ん!」

そう言いきれば黎翔はもう遠慮なく、
彼の愛しい人を腕に抱き、接吻の雨を降らせるのだった。

(おしまい)

絵:千花 「星合」

絵:千花 「星合」

キリリクSS「骸と生」


SNSのキリ番御礼として書かせていただきました。
キリリクを受けるのは本当に久しぶりですのに随分御待たせしてしまいました。すみません。

「辺境軍時代の陛下のイラストを見て、お話も読みたいなと思っていたんですが、可能ですか?」とキリリクをいただきました。

(※実際はイラストと申しますかイメージボードのような素描ですので、深追いはご容赦ください)

「是非是非、皆様にも公開してくださいませ。」とお言葉をうけて、SNSと重複になります。

yawayawaほっぺ様へ捧げます。

【原作沿い】
【辺境軍時代の殿下・捏造】

※注意 死の香りと残酷表現あり

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━━━━━━━━
骸と生
━━━━━━━━

彼女は私の前に立っていた。

必死なその姿は
健気で、愛おしかった。

「陛下!」

愛しい人は、その目に涙を溜めて私をなじる。

「――どうしてっ?」

「どうして、と」

私は嗤う。

沈黙が答え。
…理由がないわけではない。
ただ、君に聞かせたくはないだけ

君の瞳を曇らせ、君の耳を汚す――そのようなこととは一切無縁で居てほしいだけだ。

「私が、怖い?」

気丈な君は私を睨み、哀しみをぶつける。
行き場のない哀しみは私がすべて呑み込むよ。

孤独も恐怖も闇すらも
わたしは貪欲にむさぼる術(すべ)をしっているから――。

私が哂うのは、彼女への賞賛。

私は彼女に口づけする。

君は強い。
きみは曲げない。

――そんな君を壊すのは私か?

彼女の瞳一杯の涙は行き場を失い、揺れて、こぼれる。

怒ってるのに
泣いてるのに
君は私から逃げない。

まるで自らを供物として差し出す兎のようだ
私はその喉元に、牙をたてる。

白いうなじ

暖かい血潮がトクトクと脈打つ
このまま噛み砕けば
華奢なこの獲物の命など、たやすく手折ってしまえるのに。

「――君も、
逃げないんだ」

*******

母上は私に仔犬をくださった。
それからほどなくして、母上は静かに息を引き取った

仔犬はあっというまに大きくなって、どこまでも私についてきた。
北の地の夏は短いが、彩に満ちた季節は美しかった。

辺境暮らしの私に口うるさく構うのは李順くらいのもので
何をしても誰からも顧みられないことは気楽でむしろ清々としていた。

そんな私を『誰か』が構うのは『何か理由がある』のだと
子どもの私ですら理解するようになったのは
母親違いの兄が私に手向けた数々の教練のたまものかもしれない。

犬が毒で苦しみもがいて死んだとき
私は
私は何も持たないし
何も望んではいけないことを知った。

もとより幸せなどという陳腐な言葉は欲してなどいなかったけれど、
それでもわたしはこどもだったのだろう
砂が積もるように、いつのまにか季節は色を失っていた。

冬は寒く長く
遅い春は一瞬で通り過ぎ
短い夏をすごした虫は
秋には地に墜ちみじめに朽ちていった。

私は一人で
生きていても死んでいても同じことだったが
私の命を狙う兄へのせめてもの『嫌がらせ』として
生きてるのかもしれなかった。

淡々と時は過ぎ、
それはそれで気楽だった。

勝手に髪が伸び、背が伸び、声が変わるように
私の周りには小さな変化も生じた。

経緯はさておき
14歳のとき私は辺境軍に加わることになった。

軍人になった私が最初に覚えたことは人の命を奪う技術だった。

幸いなことに、私にはその方面の才能に長けていた。

毎日毎日が果てしなく続く戦いの日々。
「なにが正義で、なにが悪か」――戦場の混沌はそんな面倒くさいことを考えさせる暇も与えてはくれない。
剣を握り、くたくたになった体を引きずり
ただ泥のように短い眠りをむさぼった。

血の詰まった皮袋。
ヒトはなんと簡単に壊れるものか。

壊すか
壊されるか

死に理由はない。
私も、敵も
なにも違わない。

ただ互いが、目の前に在ただけだ。

一夏を必死に生き、死ぬ虫けらとなんらかわらぬ。

腹を満たすため喰らい
短い命をつなぎ、
いずれは土に還る存在だと知っていた。

罪悪感も感傷もとうにない。

私は
殺して
殺して
殺して
…殺した

深紅の霧にけぶる戦場は日が照っていても闇そのものだ。
腐臭を吸い
皮を割き、骨を砕く。
その鈍い手ごたえだけが私に与えられるこの世に生きている証だった。

飢えた狼のように貪欲に獲物を屠った。

骸の山がうずたかく積まれようとも
私の渇きは決して満たされることはなかった。

あるとき、殺伐とした戦場に
一匹の手負いの野うさぎが迷い込んだ。

その日の戦いでも多くの味方と敵が命を手放し
私はクタクタで
もう指を動かす気力もなかったはずだった。

なのに私は無意識のうちに
迷い兎がピョコピョコと動く影を眼で追っているのだ。

「敵ではない」
第一印象はそんなところ。

私は思い直した。
「たいした肉でもない」

食料としても頼りない。

とりたてて気にする存在ではなかったのだが
ただ猛スピードで突拍子もなくジグザグに迷走する姿に興味がわいた。

私は立ち上がった。
不思議なことに、あれほど疲れきっていた体がそのときは軽かった。

「楽しませてくれ」

逃げるから、追う。

それは余興の一つにすぎぬことで
ほどなくして私はうさぎを捕らえた。

片手で持てばあまりの軽さに拍子抜けするほど。

「…つまらん」

私はドサリと腰を落とす。

――そうか、私は疲れていたんだ。
その時思い出した。

このままこの小さな命を握りつぶそうと、なんの感傷もない――はずだった。

私の手にはドキドキとした鼓動が手に伝わってきた。
柔らかく、生暖かい動物の匂いがした。

怯えるうさぎのガラス玉の瞳に世界が反射して
疲れた顔が映って見えた。

私は苦笑してしまった。

「…なんだ、ボロボロじゃないか」

…もう遊びは終わりにしよう。

私は、柔らかそうなその兎の首筋に
牙を立てた。

ドキドキ跳ねるうさぎの血脈が
私の歯に伝わり脳を震わせる。

緊張しすぎて、動けない小動物が
供物のように己の身を差し出しながらも
魂は屈服していないと――悟らされた。

*******

「――君も、逃げないんだ」

白いうなじの弾力が歯に伝わる。

私に噛み付かれた状態で硬直していた君が
ふいにプルプルと震え始める。

「――君、『も』?」
かすれた声で喘いだ。

「?」

「…へ、へーかのバカぁ!
女ったらし――!!」

わなわなと顔を赤らめる君が
今はもうさっきとは『別のこと』で怒っていることに
人の気持ちに鈍くて疎い私もようやく気がつく。

わたしは呆気にとられ
暴れる君をなだめる愚かな僕に一瞬にして成り下がった。

君は屈しない。
君は壊れない。

またとない変な顔の君のふくれっ面が
どうしてこんなに愛らしく見えるんだろう。

私は、笑った。

だが
君はますます怒るばかりだね。

困った。
どうしよう。
私は困ってるはずなのに、おかしくて、笑いが止まらない。

ねえ、夕鈴。
もっと私を困らせて。
もっと教えて。
君のいろいろな姿を見せてほしい。

生き生きと景色は色を取り戻し
一瞬で君は私の世界を塗り変える。

愛しい君。
君ほど私を楽しませてくれるものも他にはないと
今更ながらに
わたしは思う。

(おしまい)

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SS 王様だもん


他人はもとより自らも厳しく律する狼陛下も人の子。
さあ、時にはお酒の力で理性の鎧を脱ぎ捨ててごらんなさいませ。
酔っ払いヘーカのおちゃめな暴挙を妄想。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

本誌設定、ネタバレを含みますのでコミックス派の方はご注意ください。

【原作沿い】【残念レベル▲▲△△△】
: : : : : : : : : : : : : :
 王様だもん
: : : : : : : : : : : : : :

ここは白陽国
冷酷非情の狼陛下にはたった一人のお妃様がいるだけ。

たった一人のお妃さまは
厳しい国王陛下の御心をもお慰めすることができるたいそうお優しい方。

広い心の持ち主の彼女は
いろいろなものを拾うのだそうだ――。

最近では、隠密
それから、お姫様。

「夕鈴は、拾った自分の責任だといって…」
盃を傾けながら、国王は机に突っ伏した。

「ふーん」
浩大はグイグイと飲めるうちに酒とつまみを詰め込むので忙しい。

「広い心を持つそんな夕鈴が好きだ…
だが
私を構う時間が減ったりするのは
少々納得できない」

ブツブツと独り言が漏れる。

「へーへー」

隠密は適当に相槌をうつ。
お腹も一杯、酒もたらふく飲んだ。付き合いとはいえそろそろ潮時だ。

「私を差し置いて、一緒に湯につかるなど、正直行きすぎだと思う…」

「そうですねー、新婚さんなのにねー」

机に伏せていた彼は突如ムクリと起き上がった

「新婚の妻が
夫以外の別の人物と
二人っきりで湯につかるなど、
――普通ありえんだろう?」

ドン、と両手で机を叩く。
酒瓶やら盃がカチャカチャと揺れた。

「まあまあ、へーか。
女同士だし、
お客さんなんだし」

浩大は押しとどめるが、なにせ体格差が大きいこともあり、タガの外れた陛下の暴発を食い止めるのは酷く困難だった。
(…だめだ、なんか目が座ってる)

毒にも酒にも耐性の強い彼。
普段酔っ払った醜態など見せることはほとんどないくせに…。

「女であろうと客人であろうと関係ない!
なぜわが妃が、他人と一緒に湯に?」

「へーへー」

「あのように、親密に――!」

「へーへー。
…親密って、どしてわかるの?」

「この目で見たとも!」

「ほーほー。
どこから?」

「専用設備」

「設備?」

「専用の湯殿にはそれなりに専用の用途と設備がだな」

「つまり、覗いたって?」

「王様だもん」
どや顔。

「どこどこ? おいらも覗ける?」
浩大も目を輝かせる。

「ばかもの。国王専用だ」

「ふーん、残念(苦笑)。
で、朱音姫はどんな?」

「目標はあくまで、ゆーりん」
プイッとそっぽを向いた。

(まあた、愛妻家ぶっっちゃって~)

(…こんな陛下も珍しー
笑えるけど正直もう限界ダヨな)

ずいぶん長い時間こんな陛下に付き合わされた浩大。
最初はおとなしく聞き役に回ってこらえていたが、何度もグルぐる巻き戻される愚痴には辟易としていた。

「そんなに悔しいんだったら
今から一緒に入ってくれば?」

「『もう寝るから』と、さっきフラれた」

「…。
あ、じゃあ。一緒に寝れば」

「それも
『いま姫から目が離せないからダメ』だと断られた」

「じゃあ3人で寝れば? 
ヘーカ、王様だもん。
そういうのもありじゃん?」

「え?」

「ほら、さ。
『三人で寝よ』って軽~く言ってみたら?」

「!」

「そもそも後宮全部がへーかのものでしょ?
王様が、なに締め出されてんのさ!
遠慮することないって!」

さんざん焚き付け、
陛下の顔色が変わるのを見て楽しんだ浩大。
だが、
ベロンベロンに酔っぱらった陛下が
いきなりガタガタと立ち上がったのには驚いた。

「まさか、行く気?」
こんどは浩大がポカンとする番。

「…」
鼻息荒く、小さくうなづく。

(目ぇマジじゃん、戦場の鬼神モード
…っ怖~!!)
浩大の涙がちょちょ切れる。

「いや、落ちついて。
へーか、今の冗談だって!」

「――そういうのも、あり」

「いや、ナイでしょ、ナシでしょ?
あのお妃ちゃんには冗談通じないと思うよ?
あー
へーか
ちょっと…

…あーもう。
――聞いてないし!」

ズシンズシンと足音を響かせて
強気になった国王は勇ましく後宮へと渡って行ったのだ。

しばし後

ものすごい叫び声が聞こえ
がったんがったんしたあげく…


叩き出された折、顔を直撃した妃の枕を抱きしめ
国王は寂しく王宮に戻ってくるのであった。

めでたし、めでたし。

*

SS何処も彼処も


こんばんは。気楽なSSです。

原作沿い・夫婦設定

*************
SS何処も彼処も
*************

うららかな昼下がり。
後宮の一室で妃が一人。

「――頭を冷やすのは…どっちよ!?」
誰もいない窓に向かって、ぶつぶつ愚痴を吐き出していたその途端、ひょこっと窓からぶら下がる影。

夕鈴は久しぶりに見たその笑顔に、ちょっとホッとしたものの、別の腹がおさまっていない様子だった。

「よー、お妃ちゃん、景気悪い顔しちゃって」

「なによ、そっちこそ。最近顔見せなかったくせに」

「わりぃわりい。ちょっとさ。用事を言いつかって外出てたもんで」

「ふうん――元気にしてたならいいけど」
夕鈴はプイッと他所を向いた。

「あー、元気元気。心配させちゃった?
それより、何。またへーかと喧嘩でもしたの?」

「喧嘩っていうか、ヘーカが一方的に」

「一方的?」

「たまたま官吏の一人が熱を出したから早退したいっていうから
どれどれって、いつもの調子でおでこに手を当てて熱を測ってあげたんだけど
たまたまその時にヘーカが通りがかっちゃって…」

それを聞いた途端、浩大は複雑な顔をして青ざめた。

「あーーーーー。
それは…


こっ・・・ええぇ~~~~」

「そうかしら?
浩大ったらちょっと大げさななんじゃない?」

「いやそれ、マジ、怖え状況だってば」

「そんなことないってば」

「なんでそんなヘーカ怒らすようなことするのさ。
お妃ちゃん、ヘーカのこと、怖くないの?」

「なんで怒るわけ?
一生懸命働いていらっしゃる官吏のみなさんの健康管理面を気にするのだって内助の功だし、それ以前に人間として病気の人の心配するのは当たり前のことでしょ?」

(はぁあああ…
いくら天然ってってもさー
そりゃ、へーかも気の毒だって)

浩大は盛大にため息をついた。

「よー。
じゃあお妃ちゃんさー
へーかのどこが好きなんだよー」

「そ、それは――
優しくて、強くて
私には勿体ないくらいで…」

浩大はあははと笑って

「そーじゃなくって、さ」

浩大の声だけが聞こえた。
クルリと窓枠を越え、すでに逃げの一手を打った彼の姿はなかった。

「陛下の
――手は、好き?」

「…手?」

――手…!?っ

その途端、彼の手に睦まじく触れられた感触を思いだし
夕鈴は真っ赤になってワナワナと震え出した――。

(おしまい)

*

SSS 気圧配置


こんにちは。

すごく短いです。
気分的にはリハビリ中で思うように筆もうごきませんが。

【本誌沿い】ネタバレというほどではありませんが、近々ネタを含みますのでコミックスはの方はご注意下さい。

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SSS 気圧配置
**************

「まことに面白くない」
小さなつぶやきがあたりを震撼させる。

周囲のことなど一切目に入る様子もなく、机上一点を見つめたまま黎翔は顎に指を添えた。

黎翔の脳裏には
もじもじと頬を染め、いじらしい妃の
まこと愛らしい笑顔、仕草が次々と泡のように浮かんでは消える。

(あれが、全て…)

黎翔は目を閉じ、小さく首を振った。

「私(の浮気)を疑って、だなど――!!」
再びカッと見開いたその瞳は、燃えるように紅い――。

山を揺るがす雷鳴が轟きゴゴゴゴと足元が崩れ落ち、辺りの空気は耳元でビリビリと振動した(ような気がした)

辺りの面々にとっては、これほど居心地が良い悪いこともない。

命の危険を感じるレベルの寒さに一瞬で背中が凍り付いた官吏らは、避難場所を求めソソクサと忙しそうに目を背けるしかなかった。

ここは政務室。

部屋の奥に鎮座まします主人のご機嫌が、すこぶる悪い。

…なにをどうしたものか

(こういうときの理由は一つないでしょう。
犬も食わぬ何とやら、そんなときのうっぷん晴らしといば――)

側近は主に気取られないよう、重たいため息を時間をかけてゆっくり吐き出す。

「――陛下」
李順が押し殺した低い声をかけた。

「なんだ」

周囲でギャ!と小さい悶絶がおきた。
黎翔の噛みつくような返事に官吏ら全員心臓が握り潰されたように感じ、数人がその緊張のあまり卒倒したのだ。

黎翔は一切関知しない。
ギラギラとただ赤い目を側近に向けた。

「――軍部のご視察の時間では?」

「…む?」
そうだったか?
そうお伝えしましたのに、お忘れですか。
ボソボソと問答が交わされる。

「このところ平和で、軍部も少々たるんだ雰囲気が流れております。
炎波国も我が国の軍備に内々視察の興味を示している様子。
諸外国の面々に侮られぬよう、
ここはひとつ陛下御みずから活をいれていただきませんと――」

そういえばそんな気もするが、炎波国の客人を迎えている今、面倒事を孕んでいなくもない。

(今取り込み中でそれどころではなく、むくつけき男どもの顔を見る気にならんのだが)
黎翔は渋面のまま肩にかけた外套を引き寄せ立ち上がった。

「では、ゆかねばならんな」

軍務は閲兵の準備を整えていたが、その折にさる筋からチラリと「陛下・天気予報」がもたらされた。

「大型低気圧、接近中!?」

「今日は――荒れる」
小さな嘆息をもらす大将軍の様子に、居並ぶ将軍らは身を引き締めた。

──────────────

おらおらおらおらおららららららぁ

──────────────

その日、思いのほかさっぱりした表情で
黎翔は後宮を訪れた。

ジト目の嫁が、涙を浮かべて出迎えた。

「――陛下。やっぱり
浮気してるんですね…」

(おしまい)

*

聖誕節の贈り物


お久しぶりです。

クリスマスにせめて1本、と細々と書いていたんですが
なかなかまとまりつかなくてイブギリギリになりました。すみません。

柳家の若君となかまたち(?)
一応原作沿いのつもりだったんですけど
時代考証無視でよく分からない設定です。
宜しければどうぞ。

* * * * * * * * * *
聖誕節の贈り物
* * * * * * * * * *

床は冷え冷えと硬く、廊下を行き交う人々の息が白く凍る。
カツンカツンと響く足音に紛れるようにヒソヒソと交わされる会話。
「……………」
「…………」

何気なく耳に入った一言に耳がそば立った。
セカセカとせわしく仕事にいそしむその男はおもむろに足を止めた。

「…聖誕節、だと?」

ピタリ、と歩を止めた男は、ひとくくりにした長い髪をブンと振り回し、柱の影の男たちを注視した。

言葉尻を捕らえられ、仕事をサボって駄弁を交わしていた二人の官吏はギョッと動きを止めた。
険しい視線でにらみつける若い男が、偉い大臣の息子であると即座に気が付いた二人。

慌てて両手を組み礼をとる官吏。キュッと身を縮め叱責を覚悟してうなだれた。
ところがもう一人の男は優雅に礼をとりながらも、華やかにニコリと笑ってこう言った。

「おや、柳の若様も聖誕節に興味がおありと?」

「…」
挨拶にしてはいきなり嫌味ったらしい口調で『柳の若君』と呼ばれた柳方淵。
眉間にしわを寄せ、ムっとした表情で立ち止まった。

柱の陰でくっちゃべっていたその男は金で成り上がった家の出で、金にものをいわせことあるごとに出しゃばる実にいけ好かない官吏だったのだ。

「そう我々は決して仕事をサボっていたわけではございません。
聖誕節についてこの男が知らぬというから、私が教えてやっておりました。
当然あなたほどの高貴なお家柄の方であれば、聖誕節のことなど何から何まで知っておいででしょう?」

成り上がり貴族の息子は勿体をつけた口調でニヤニヤといやらしく笑った。

聞いたことがない、知らぬといったら『それみたことか』とからかうつもりなのだろう。

方淵の眉間にはシワが盛大に生まれ深く掘りこまれていった。

(聖誕節。聖なる誕生を祝う祭り、となれば――偉大なるわが君のご生誕日を祝うことにほかならぬ。
そういえば、あの御方のお誕生日がいつなのか、私は知らない。
高貴なる唯一無二のお方はとても慎重で、生まれ日等の個人情報などを一切公にしていらっしゃらない。それはそうであろう。生まれた場所日時は、その御方の運命を司る。場合によってそれを呪術に用いかれない。
ということは、聖誕節とはまこと一部の信頼厚き者たちのみに祝うことを許される、密かな行事なのであろうか?)

腕組みをする彼の背中の後ろをそっと横切る陰に彼は気が付き、即座に顔をめぐらせた。
「水月――どこへ行く気だ!?」

嫌味ったらしい成金官吏らから離れ、柳方淵は水月の後を追った。

「いや、私はそろそろ今日はこれで…」

「また仕事をサボるつもりか!?」

「サボるだなんて。大事な用事があるんだよ」

「用事とは、庭の池の魚に餌やりか、それとも妹君の原稿の手伝いか?」

首をすくめた水月は達観した声で答える。

「家の用さ」
「家の?」
「…ほら、その。聖誕節の準備だよ」

水月はいかにも面倒だといわんばかりに肩をすくめた。

いつもならここで方淵の罵声がガミガミと続くわけだが、今回は静かだった。
異変に気が付いた水月が方淵の方を見ると、彼はカッと瞳を見開いたまま直立不動で硬直している。

方淵はショックで青ざめていた。
(こいつも、秘密の行事のことを――しかも、氾家としての行事…?!)

知りたい…聖誕節のことを――方淵の胸に火がともった。

水月は知っている。
というか彼はそれに係わっている…!?

いつの間にそのような行事が画策されていたのだ?

陛下の忠臣と自負する自分だけれども、まだまだ信頼が得られていないのか…
一瞬自信を失いかけた。

(…知りたい!)
方淵は胸を掻きむしられる思いだった。

『知らない』とは口が裂けても素直には言えないが、
知らねばならぬ――。
彼は熱い眼差しで水月を見つめた。

水月は思いつめた表情の方淵が、やおら自分を熱く見つめたことに戸惑った。
自主早退を責める、いつもの彼の冷たい表情とは違う。

方淵の憧れや熱意が入り混じった眼差しに、なぜ彼はこんな顔をするのだろう、と
いつになく水月は興味を引かれたのだ。

水月からすれば『まさか彼がクリスマスだ何だと外国の浮かれた行事に興味を持つとも思えないのだけれども。もしかして方淵も、クリスマスに独りぼっちは寂しいのかな。誘ってほしいという意思表示、自己アピール?』と気を回し、水月は誘ってみたのだった。

「…君ならいいか。
じゃあ、明日なんだけど。くるかい?
聖誕節、君も知ってるだろう?」

方淵にすれば『知らない』と答えるのは癪だった。
それで素直に『聖誕節とは何か、教えてくれ』と唯一の友(?)に訊くチャンスを逸してしまったのだ。

水月はもうずいぶん方淵と長い付き合いだったから、当然いつものように『ハっ、馬鹿な』と木で鼻をくくったようにそっけない返事が返ってくるものとばかりと思いたら

方淵は考えた末、腹の底から絞り出すように答えた。
「行く――」

これに水月は表面は平静を保ちながらも、内心少なからず動揺した。

「…ほ、本気かい?」

「あたりまえだ」

方淵のキッパリとした返答に、逆に水月は目を丸くした。

『…それほど、来たかったんだ…。
柳と氾といえば、誰もがかたき同士の家柄と思っているけど、意外に方淵という奴はきさくなんだな。…それともそういうのを乗り越えるほどに彼をつき動かす、何か彼なりの理由でもあるのかしらん』

彼の真剣味を帯びた熱い眼差し。

(もしかして――紅珠?)

水月はピンと来て、慎重に方淵に尋ねた。

「…なんていうか、その。
それほど一緒に祝いたい…人が?」

「当然ではないか」

そのてらいない潔い答えっぷりに、水月はあっけにとられつつ、口をつぐんだ。

「…許されることだろうか?」

(極秘の行事。
一部の最も信頼厚き臣下にのみ参加が許されるのか…。
ならば陛下御みずからに招かれざる私が行ってもよいのだろうか)
――方淵は少し気弱になる。

「…さあ。いろいろ障害もあるだろうけど。
こういうのは気持ちが一番大事じゃないの?」

(水月の言葉はいつもながら捉えどころがないが…そうか!
祝賀というのは、命令されておこなうものでもない。
臣下としての敬愛をあらわしたくて行うものなのだから
祝いたいと思う気持ちが大切だと奴が言うのも道理だ)
方淵は水月の言葉を噛みしめた。

「私の気持ち、ということか?」
方淵は顔を上げた。

「そもそも…君の気持ちは伝えてるの?」

敬愛する陛下に対し、これまで数々の出来事において、自分はやる気のある家臣であることをアピールしてきたつもりの方淵。
「当然、私は申し上げているとも!」
自信を持って拳を振るう。

水月は強気すぎる方淵の言動にやや戸惑いつつも、慎重に話を聞きだそうと続きを促す。

「…で、相手は?」

「私に対し、少なからず好意は示していただけている…と思う」

(へえ、紅珠のやつ、年末年始のイベント向けの執筆に夢中で、浮いたそぶりの一度だって見せたこともないのに。…まさか、いつの間に?)

水月は思いもよらぬ展開に目を白黒させるばかり。

「きみ自身は?」

陛下への忠誠を疑いようもないではないかとばかり、方淵は力強く言い切った。

「心から信奉している。
…私は真剣だ!」

方淵が真っ赤になって拳を握ったのを見て、『やはり方淵は紅珠のことが…』と深く納得した水月。
一方の方淵は『陛下の御ため、一の臣下として立ち働くべきであろう』と気負い、珍しく紅い顔をしてやる気を見せていたものだから、水月にますます誤解を深めてしまったのだ。

(………)

水月はその美しい顔立ちのまま、務めて表情をかえないようにして考え込んだ。

水月の妹、紅珠は国王陛下への妃候補として育てあげられたまさに父の掌中の珠。

だが紅珠本人は陛下と夕鈴妃のお二人の信奉者で、二人の愛を賛美し守る姿勢を貫き、二人の障害となることは望んでいない。

王妃になることを紅珠自身が望まぬのなら、いずれどこかへ嫁ぐとして。
大大臣家の柳の次男がお相手というのは家格的にも決して悪い話でもない…。

だが氾家の家長である父、氾史晴の意見は無視できない。

なにしろ、目にいれても痛くないほど溺愛している一人娘の大切な縁談話なのだから。

「ううん…、でも。
そうなると私の立場は難しいなぁ。
うかつに君を家に誘うわけにもいかない。
やっぱり今回の話はなかったことに」

「――は?」

「やっぱり招待は無し、だよ。
その代わり、君は君で聖誕節を祝えば?」

「私が?」

「そう。最低限、常緑樹を飾り付け、粑(ケーキ)に火を灯せば形は整う。
…君に出来ないわけないだろう?
そもそも万民が祝うのに咎められるいわれはないよ」

(…常緑樹に、飾り付け? 粑に火?
訳が分からん。そもそも何のために…)

「いや、急に家を上げての大行事など
お前の家のようにはできないが――」
方淵は戸惑った。

(そうだよね、いきなり敵家の娘を
正式に家に呼ぶわけにもいかないだろうし…)

「…簡単なことだけでもいいんじゃない?
ちょっとしたプレゼントを渡すとか。
要は一緒に祝う気持ちがあれば」

ニッコリと笑い、水月は頬を上気させ赤らめた方淵をにこにこと眺めた。

「…何を用意すべきなのだ…プレゼント――礼物とは。
ちなみに、貴様は何を用意した?」

「それは…もちろん内緒だよ」

「ケチな男だな」

ケチと言われて水月はむっとした。

「君にケチと言われるのは不本意だなあ。
…勿論私も最初は花とか菓子とか考えたけど、ありきたりなものじゃあ満足しないだろうし…」
水月は目をつぶって語る。
プレゼントを選ぶ時間は楽しい。
なにしろこの世に一つとばかりの美しい工芸品でもあり珍品の楽器が手に入った経緯は実にスリリングだったのだ。愛する妹にその美しい楽器をプレゼントすることを誰かに自慢したくてうずうずしている水月だが、やはり渡すまでは内緒にしておきたい。
そのとき、水月はハッとした。
『まさか方淵、紅珠の好きなものを聞きだそうというのか?』

「…でもさ方淵、君は君のサプライズを考えなよ」

「サプライズ?」

「不意打ちで喜ばせるんだよ。
相手を思う気持ちを表現するモノと驚きが最高の喜びに繋がるんじゃないかな。
まあ正直、行き過ぎは難だけどね。
…今年うちではトナカイを4頭も用意する力の入れブリでね」

「となかい?」

「枝分かれした大きな角が生えた、馬よりも大きな動物さ。
鯉の餌やりや好きだけど…あれはちょっと」

はぁ…と水月はため息をついた。

「不意打ち。…つまり、意外性か」
方淵は考え込んだ。

「あとは匿名性かな。
山ほどのプレゼント配る時は、白い髭と赤い外套の老人。いかになりきるか、ここは絶対ハズせないね。
めり~いくりすます、ほっほっほぉぅ~って。
親父まで練習させられてるよ…。」

「めりいくり…」
「だから、もっと大きな声で恥ずかしがらずに。
『めり~いくりすます、ほっほっほぉぅ~』って」

水月は驚くほど別人のように大きな声で叫ぶので、方淵は目を丸くし、
「…そ、そこまでやるのか」
さすが氾家のやることはスケールが違うと驚いた。

「そこまでの大規模な行事ともなれば、私一人ではどうにもならぬ…」
方淵は腕組みをした。

(トナカイとかいう大きな動物に、白い髭、赤い服の老人が重労働をし、大きな掛け声を?
…だがたしかにあの陛下のこと。当たり前のものではつまらぬと喜んではくださるまい。
思いもよらぬサプライズを演出できる企画力こそが臣下に求められる力なのだ)

腕組みをして方淵が考え込んでいる間に、水月はソソクサと立ち去りかけていた。

「…おい水月! もっと詳しく――」

水月は首を振った。
「方淵。君は君らしくしが一番さ」
水月は軽やかに微笑んで手を振った。

* * * * * * * * * *

その日、朝早く政務室の前に来た国王。
なにやら部屋の中が騒然としている。
「何事か」
と部屋に足を踏み入れれば、見慣れないものが部屋の中央に置かれていた。

「…あれは何だ?」
国王は後ろに控えていた側近に尋ねた。

それは大ぶりな松の盆栽だった。
白や赤の餅が枝に刺され、あちこちに赤い爆竹の束が結び付けられている。

「報告をしなさい!」

「朝きたらこれが置かれておりまして…
どうしたらよいのかわからず」

オロオロする官吏。

「松に飾り餅と爆竹? …よくわからんな」

「危ないですね。すぐに撤去しましょう!」

「いや、まて。様子を見よう――」

その時、政務室のドアがバタンと開いた。

ジャンジャン、ダンダンと打ち鳴らされる打楽器音に、ビクリと反応した者らは素早く陛下の盾となった。
狼陛下は無言のまま腰の佩きものに手をかけ、仁王立ちになって客を迎えた。

「めり~いくりすます、ほっほっほぉぅ~」

一際大きな声でその場にいたものは皆振り返る。

李順はメガネを指で押し上げ、目を細めた。

「――何事ですか!?」

赤い鼻を持ち、角の生えた恐ろしい形相の猛々しい動物の張りぼてを担いだ男たちが鈴や太鼓を打ちならし、その後ろから今度は鮮やかな赤い袍をまとった一団が現れた。
長い白髭を蓄えた老人たちが次々と重そうな沢山の荷物を担ぎやってきたのだ。

ドサリと降ろした荷物の敷布を剥げば、極上の硯石、銘墨、漉紙、筆などが山と積まれた盆。

だが、当の狼陛下の形相はすさまじく、その様子を見ていた側近の李順の背筋にゾクリと冷たいものが走った。

だが闖入者たちは『これが作法』とますますにぎやかに打楽器を打ちならしにぎやかに国王を祝うのだった。

冷たい視線で国王は太刀を振りあげた。
その時。

闖入者の一団の最後尾から
可愛らしい声が聞こえたのだ。

「めり~いくりすます、ほっほっほぉぅ~」

みな一様に、釘づけになった。

ピク、と反応した国王。
辛うじて刀を振り下ろすのを止めた彼の目の前にクルクルと飛び出してきたのは
白いフワフワの柔布で縁取りをした真っ赤な衣裳を身に着けた愛らしい妃。

真っ赤な頬はまるで衣裳に染められたよう。

陛下のために頑張る意欲満々の彼女は、方淵に教わったとおり『サプライズ』『役に徹する』とブツブツつぶやきながら、覚えたての異国の言葉を精一杯張り上げた。

「めり~いくりすます、ほっほっほぉぅ~
陛下、お誕生日おめでとうございます♪」

美味しそうな手作り菓子を携えた妃は
「聖誕節とかいう行事のお菓子は見たことないし、
はじめてであんまりうまくできてないと思いますけど
…ここで、火をつけましょうか?」と小首をかしげた。

火――?

(も…だめ。可愛すぎ)

火が付いた国王は
チンと目にもとまらぬ速さで刀を納めるやいなや
バッと彼女を抱き抱え、大股で部屋から退出をしていった。

「このような贈り物をもらってしまったのでは
今日はもう…仕事になりませんね
…それにしても。
誕生日、違うから――

いや、まさか。お世継ぎの…とか」

李順が吐いた言葉など誰も聞いてはいなかった。

end

ちなみに、氾家のその後ですが
紅珠は年末イベントで忙しく
水月さんは「方淵もシャイな奴だから」とその後の展開がなかったことにあんまり気に留めてなかったそうです。