SS どんな姿をしていても、君はわたしの。

【ハッピー・ハロウイン!】
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どんな姿をしていても、君はわたしの。
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内緒だけど、私の名前は汀夕鈴。
今は別の名前を名乗っている。

イメチェンして、姿も異様。
誰も私のことに気づくはずもない。

なんでここに居て、こんなことしてるのかとかいえば
――そもそもへーかが悪いのよ!!

*

「――なに? 妓楼?!」
…はぁ
と、深いため息をついて国王は隠密の報告を聞き終えた。

「どうして彼女はそんなとこに…」
こめかみに長い指を当てたまま、国王はまた深いため息をついた。

「なーんか、
ヘーカに連れ戻されないよう、
意表をついたバショにセンプクするんだ!って息巻いてたヨ~?」
隠密は笑いをかみ殺しながら答えた。

*

「…仮装業?」

「そう。元々は異国の万聖節の前夜祭の行事の一つらしいんだけど、
ここの妓楼では昔っから異人さんもよくお見えでしょ。
異国の行事なんてよく分からないから随分ヘンチクリだなーとは思うけど、
この妓楼では毎年こうやって仮装業でお客様をお迎えする日になってるの」

下働きに潜り込んだ妓楼の女中部屋の同僚はそう言って説明をしてくれた。

「へー」

「あのね。仮装業の日は特別なの!
身分の上下のへだたりなく、無礼講の日。
お客さんにおねだりしてもいいんだって!」

彼女は目をキラキラ輝かせて話に熱中している。
私は身を隠してる身だから、おねだりとかには興味はない。ただ人眼を避けられればそれでいいから、仮装業は持ってこいの行事だと思っただけ。

「ふうん」

「でね。あんたはこれ!」
バーンと目の前に広げられたのは、骸骨を模したコワイお化けのお面と薄汚れた長衣だった。
「お、ば、け?」
私は目を丸くした。

「妓女の御姐さま方はみーんな華美な仮装をしたがるから、
こういう地味~な仮装はわたしら下っ端に押し付けられるの」
ブツブツいいながら、彼女は自分用に蝙蝠のような真っ黒な仮装をヒラヒラさせた。

ふーん。ま、いっか。
華美な仮装はいつもやってるようなものだから
ヘーカに見つからないようセンプクする身としては
こういう地味な仮装はむしろ願ったりかなったり。

「分かったわ、任せて!」と私は胸を叩いた。

「よかったー! おりん。あんたのノリがよくて。
さぁ、早く仮装して、お客様をお迎えしなきゃ!」

りん、というのは、私の偽名。
同僚の女中さんは私の背中をポンと叩いて支度にとりかかった。

*

仮装業は楽しかった。

人を驚かせたり
イタズラしてもいいし、おねだりもできるとは聞いていたけど、

お化けの格好でお客さんを驚かすと、中にはすごいリアクションする人もいて
ヘーカとのけんかでモヤモヤしていた気分が結構スッキリした。

また、入口の扉の窓越しに男性が立つ影が見えた。

「あ、次のお客さんがお見えよ!
おりん、行きなさい!」

蝙蝠の装束の彼女に、アゴで指示される。

私は扉の脇の影に身をひそめ、
扉が開いた途端「バア!」とお客に襲い掛かった。

(…あれ?)
腕を軽くひねりあげられ、私は軽々と持ち上げられた。

「…なんだ、この店は」

聞き覚えのある声に
汗がダーッと吹き出す。
(ん、な、な、なんであなたがここに来るのよっ!?)

驚いて声も上げられなかった私の代わりに
蝙蝠の彼女が威勢よく二の句を継いだ。

「いいものくれなきゃ、イタズラするぞー!」
私の視界の斜め下で
ピョンピョンと足元を黒い蝙蝠の影が横切った。

「いた ずら?」
私を担ぎ上げている主は動じる様子もなく
もちもちっと私の腰回りをさすって、感触を確かめた。

「えっちーーーー!」
私は思わず大声で悲鳴を上げてしまった。

店に入ってきたばかりの客人は
その声を聴いて、やっぱり、という表情を浮かべた。

「ふうん。
…じゃ、君だけにいいものあげよっか――」

そういいながら、担いでいた私の姿勢を変えると、
左手でそっと私の骸骨の仮面をずらし

「――夕鈴」
と私の名を呼び、口づけた。

おしまい

*


One thought on “SS どんな姿をしていても、君はわたしの。

  1. んもぉ~ヘーカったら(〃▽〃)
    いつ如何なる時にも通常営業なお二人にホッとさせられます(^∇^)

    地味な仮装・・・ 先週、職場で点けてるラジオから。どこぞで地味ぃな仮装をやっているとか言っていて
    『 その地味な仮装ってどんなの? 【駅前でアンケート録ってるオバサン】とか【交通量調査してるお兄さん】とか、誰が気付くの?!って仮装』
    なんだって。
    てな話を家でしたら、娘がネットで調べて大爆笑。わかり安いトコだと【スタ○の店員】【コンビニ店員】
    地味だけど派手なトコだと【全部忘れた子どもを追いかけてる朝の小学生ママ】とか。
    もはや素では?!な【駅のベンチで寝ちゃった酔っぱらい】とか。とか。
    コスプレではなく、あくまでも『仮装』なんですって。
    では私は『夜中に包丁研ぐ人』にでも成ろうカナ?←

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