SS 重陽の高みに

めずらしくノコノコ3連チャン。

某SNSにあげたお話の移植です。
同じお話ですがすみません。

(9月9日夜9時にあがるように予約投稿です)

【夫婦設定】【原作沿い】
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SS 重陽の高みに
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九月九日といえば五節句の一つ、重陽の節句。
一月七日の人日(じんじつ)、三月三日の上巳(じょうし)、五月五日の端午(たんご)、七月七日の七夕(たなばた)、九月九日の重陽(重陽)の節日(せちにち)に避邪(ひじゃ)の行事が行われたことが元で節会(せちえ)を催すのが宮中での年中行事のならいであった。

前夜から菊の着綿(きせわた)の行事に引き続き、長寿を願い邪気を祓う菊の花びらを浮かべた酒を酌み交わして祝うのが前王まででは常のこと。
ところが孤高の狼陛下と呼ばれる若き王、珀黎翔が王位に就いての数年は国庫の安定、国内平定を優先し、節会の宮中行事は執り行われなかった。

「陛下、畏れながら」
狼陛下の背後から、どよどよとした空気を纏った宰相が声をかけた。

「なんだ」

「そろそろ頃合いかと」

「なんだ、はっきり言え」

「宮中行事、重陽の節会復活を望む声が高まっております」

「…くだらん」
重陽の節句は菊花を愛で酒を飲む雅やかな大宴会がメインで、それは宮中の大臣間がとりしきるのが常であった。

「七月七日の節会、星まつりは優先して復活したこともあり」

「あれは星離宮でのささやかな行事だからな」

周宰相は星離宮の祭祀と浅からぬ縁有り、星まつりは優先して復活したこともあり、他の大臣の希望も取り入れないわけにも行かない。

「お妃様をお迎えになったこれを機に。時に民に息抜きとして、華やかな余興を与えるのも大事では」

「――」

宰相の進言もあり、今年行事が再開することになった。

*

「――めんどくさいよね」
彼は小犬の表情で笑った。

「それって
私は出なくていいってことですか?」

「だって、ゆーりん、つまらないでしょ?」

「でも、それがお仕事なら、面白いとかつまらないとか言ってられませんし」
真面目な夕鈴は、彼を見つめた。

「…やっぱり、必要ないよ」

陛下のきっぱりとした言葉に、夕鈴は内心(正式な宮中行事に、下っ端妃はお呼びじゃないんだ)とちょっぴり肩をおとした。

「君が居て楽しいわけないよ」

(何が楽しいか楽しくないか分かってもいないくせに)

――へーかのバカっ!!

夕鈴はプーっと頬を膨らませた。
「わかりましたっ!」

夕鈴はくるりと後ろを向くと、ツカツカと歩き出す。
「え、ゆーりん?」

「では、わたしはわたしの楽しいとこに参りますっ!」

*

「おやどうした」
老師の部屋にズンズンと歩み入る夕鈴の目はつり上がっている。

「いえっ、べつにっ!」

妃の目から涙がダーッと滴り
一転して彼女はベソベソ泣き出した。

「下っ端妃に御用はないそうですから」

「…ちいと、そこに座ったらどうじゃ?」

老師の差し出すお茶碗を受け取り、夕鈴はボロボロ涙をこぼした。
事情を一通り話すうち彼女の心も少し落ち着いてきた。

「ちゃんとした行事でお役に立てないのは…なんだか悔しいです」

「そうかのう」
張老師はあいまいな受け答えをする。

「もともと五節句の重陽の節句は、貧しい村を覆った疫病の病魔を退治しようと、一人の若者が大仙人の元に訪れ、そこで厳しい修行をし、故郷の民を救ったといういわれからきておるのじゃ」

「そうなんですか」
夕鈴は涙を拭いて
ふうん、とうなづいた。

「再び病魔が村を襲うと予言された日に、その若者は故郷の民と高みに上り、茱萸(しゅうゆ)を皆の身体につけ菊花酒を一口ずつ飲ませる邪気祓いで民を守り、大仙人から与えられた青龍剣をふるい病魔を見事討ち取ったという」

「そうだったんですね」

「今では三日三晩の飲めや歌えやの宴会じゃがな」
老師は笑った。

「陛下が守りたいのは、お前さんじゃないのか?」
「え?」

夕鈴がキョトンとしたその時。

「…っ。陛下!」

「え?」
ぎょっとして後ろを向くと、背後に大きな影が立っていた。

「それで話は終わりか?」
憮然とした狼陛下。
夕鈴はぎくりと硬い表情に戻る。

「…それはもう」
張老師が頭を下げる。

狼陛下はコツコツと近づくと、夕鈴の肩にそっと手を添えた。

「君も十分楽しんだだろうか」

紅い瞳にじっと見つめられて、
夕鈴は気まずそうにコクとうなづいた。

「では、行こう」

ヒョイと妃を抱え上げると、陛下は何事もなかったように歩き出す。

「ええつ? なんですかっ!
ちょ、ちょっとへーか! どこ行くんです」

「…高みに、でも」

「へ?」
夕鈴は思いもよらぬ返答にキョトンとする。

「老師」
「は!」

ピリっとした緊張感が走る。

「…ご苦労」

コツコツと
足音は一直線に廊下を遠ざかった

*


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