七夕SS「雨天中止」【挿絵あり】

こんばんは。今日は七夕ですね。
おかげさまでこちらは晴れております。

白友の某絵師様の素敵絵にインスパイアされまして、短いお話をひとつ…。

(追記)
千花様のご好意にイラスト掲載ご快諾いただきましたので、こちら紹介させていただきます。

絵:千花 「雨天中止」

絵:千花 「雨天中止」

【本誌設定】【本物夫婦】

~千花さまへ捧げます~

* * * * * * * * *
雨天中止
* * * * * * * * *

挿絵:千花
文:おりざ

七月七日の宮中行事、乞巧奠(きこうでん)。
織女星が輝く夜、機織りや裁縫の上達を願う女性が祭壇に針を供え星に祈りを捧げる。

この国の王は冷酷非情の狼陛下と呼ばれ、その後宮は即位以来長らく空っぽであった。
王は一切の女を寄せ付けず、寄せられる縁談はすべからく薙ぎ払った。

――だがついに、後宮は開かれた!
その孤高の王がついに一人の妃を一人めとったものだから、これを機にあわよくば二人目三人目の妃として娘を献上しようという野心を持つ者たちで王の周囲はあふれていた。

女が主役の宮中行事ならば好機と、今年の乞巧奠は美姫麗人であふれかえった。

「さあさ、今年の織姫は誰に決まるのか」
まるで新たな妃が選ばれる運びであるがごとく、周りは浮きたっていた。

「狼陛下は次に誰をお選びになるのだろう」
そんなくだらない噂は妃も聞き及ぶところなった。

実際、七月七日の朝から行事の一端は始まり、行事が行われる宮には次々と淑女たちを引き連れた貴族が集まった。

夕鈴は内心モヤモヤしていた。

…後宮の本来あるべき姿。
後宮とは花々で埋め尽くされた天上の園。
星々であふれかえる天の川のようだとも聞いた。

「君はいつまでも君のままでいいんだ」
いつも陛下はそういって、彼女の目を覆い塞いだ。

『君は、見なくていいもの』と、陛下が見せようとしなかった現実。
王は何人でも妃を持てる、ということ。

乞巧奠に集まった女性たちは皆『教養も地位も持つ王に相応しい娘』たちだった。
彼女たちは最高に美しく自分を見せるすべを心得ていたし、矜持を胸に圧倒的な輝きをを放っていた。
煌めく艶やかな存在。

自分は陛下に釣り合っていないのでは、と
夕鈴はちくりと胸を痛めた。

「あの人達は煌めく天の川の星々。
私は――」

夕鈴は妃という立場にひけめを感じるばかりだった。

昼を過ぎ、粛々と行事は進んでゆく。
ところが夕刻過ぎに雲行きが怪しくなった。

ぽつり、ぽつりと雨が降りだした途端、
夕鈴の心はなぜかホッとした。

織女星が輝く夜、祭壇での祈りのクライマックスを待たずしての、雨天中止。

「もう彦星は、織姫に会わなくていいんだ。
二人は巡り合わない――」

夕鈴の心の中に広がる闇空に、細いさざ波が広がっていった。

* * * * * * * * * *

「ほらほら、正装が濡れてしまいます」
屋外の祭壇の前に居た国王と妃はそそくさと控室に押し戻された。

「お風邪を召されますよ」
濡れた髪を拭かれていると
「お前たちは下がれ」と国王は静かに人払いを命じた。

人の気配がなくなると、とたんに狼陛下の表情は和らぐ。

「ねえ、夕鈴。疲れた?」
黎翔は優しく微笑んだ。

「…いえ、これくらい」
夕鈴はハッとして、慌てて「陛下のお世話をしなくちゃ」と布を手に取った。

濡れた体をぬぐおうとした夕鈴の手を握り、黎翔は彼女の顔を覗き込んだ。

「じゃあなんで今日はそんな顔してるの?」
重ねて問う。

「…へんな顔なんて」

「そっかなぁ…」
陛下にほっぺたを両側に引っ張られた夕鈴は「いた!」と小さく声をあげた。

「ごめん!」
両頬をやさしくつつみこまれ、すぐさま頬に口づけが落ちてきた。

「――へいか」

口づけは頬から口元へ。

「…ん?」

「陛下には、輝く星々がお似合いです」

「…なに、それ?」
黎翔はキョトン、と行為を停めた。

「つまり――天の川の星全~部がへーかのものってことで…」

黎翔はクス、と笑って。

「…あのさ。夕鈴。
空の星は誰のものでもないし…。

たとえそうだったとしても
――僕は君だけでいい」

「――へ?」

「無限の星がこの世にあっても
私は迷わず、君という星を見つけるから」

「…ん!」

そう言いきれば黎翔はもう遠慮なく、
彼の愛しい人を腕に抱き、接吻の雨を降らせるのだった。

(おしまい)

絵:千花 「星合」

絵:千花 「星合」


コメントを残す