キリリクSS「骸と生」


SNSのキリ番御礼として書かせていただきました。
キリリクを受けるのは本当に久しぶりですのに随分御待たせしてしまいました。すみません。

「辺境軍時代の陛下のイラストを見て、お話も読みたいなと思っていたんですが、可能ですか?」とキリリクをいただきました。

(※実際はイラストと申しますかイメージボードのような素描ですので、深追いはご容赦ください)

「是非是非、皆様にも公開してくださいませ。」とお言葉をうけて、SNSと重複になります。

yawayawaほっぺ様へ捧げます。

【原作沿い】
【辺境軍時代の殿下・捏造】

※注意 死の香りと残酷表現あり

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骸と生
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彼女は私の前に立っていた。

必死なその姿は
健気で、愛おしかった。

「陛下!」

愛しい人は、その目に涙を溜めて私をなじる。

「――どうしてっ?」

「どうして、と」

私は嗤う。

沈黙が答え。
…理由がないわけではない。
ただ、君に聞かせたくはないだけ

君の瞳を曇らせ、君の耳を汚す――そのようなこととは一切無縁で居てほしいだけだ。

「私が、怖い?」

気丈な君は私を睨み、哀しみをぶつける。
行き場のない哀しみは私がすべて呑み込むよ。

孤独も恐怖も闇すらも
わたしは貪欲にむさぼる術(すべ)をしっているから――。

私が哂うのは、彼女への賞賛。

私は彼女に口づけする。

君は強い。
きみは曲げない。

――そんな君を壊すのは私か?

彼女の瞳一杯の涙は行き場を失い、揺れて、こぼれる。

怒ってるのに
泣いてるのに
君は私から逃げない。

まるで自らを供物として差し出す兎のようだ
私はその喉元に、牙をたてる。

白いうなじ

暖かい血潮がトクトクと脈打つ
このまま噛み砕けば
華奢なこの獲物の命など、たやすく手折ってしまえるのに。

「――君も、
逃げないんだ」

*******

母上は私に仔犬をくださった。
それからほどなくして、母上は静かに息を引き取った

仔犬はあっというまに大きくなって、どこまでも私についてきた。
北の地の夏は短いが、彩に満ちた季節は美しかった。

辺境暮らしの私に口うるさく構うのは李順くらいのもので
何をしても誰からも顧みられないことは気楽でむしろ清々としていた。

そんな私を『誰か』が構うのは『何か理由がある』のだと
子どもの私ですら理解するようになったのは
母親違いの兄が私に手向けた数々の教練のたまものかもしれない。

犬が毒で苦しみもがいて死んだとき
私は
私は何も持たないし
何も望んではいけないことを知った。

もとより幸せなどという陳腐な言葉は欲してなどいなかったけれど、
それでもわたしはこどもだったのだろう
砂が積もるように、いつのまにか季節は色を失っていた。

冬は寒く長く
遅い春は一瞬で通り過ぎ
短い夏をすごした虫は
秋には地に墜ちみじめに朽ちていった。

私は一人で
生きていても死んでいても同じことだったが
私の命を狙う兄へのせめてもの『嫌がらせ』として
生きてるのかもしれなかった。

淡々と時は過ぎ、
それはそれで気楽だった。

勝手に髪が伸び、背が伸び、声が変わるように
私の周りには小さな変化も生じた。

経緯はさておき
14歳のとき私は辺境軍に加わることになった。

軍人になった私が最初に覚えたことは人の命を奪う技術だった。

幸いなことに、私にはその方面の才能に長けていた。

毎日毎日が果てしなく続く戦いの日々。
「なにが正義で、なにが悪か」――戦場の混沌はそんな面倒くさいことを考えさせる暇も与えてはくれない。
剣を握り、くたくたになった体を引きずり
ただ泥のように短い眠りをむさぼった。

血の詰まった皮袋。
ヒトはなんと簡単に壊れるものか。

壊すか
壊されるか

死に理由はない。
私も、敵も
なにも違わない。

ただ互いが、目の前に在ただけだ。

一夏を必死に生き、死ぬ虫けらとなんらかわらぬ。

腹を満たすため喰らい
短い命をつなぎ、
いずれは土に還る存在だと知っていた。

罪悪感も感傷もとうにない。

私は
殺して
殺して
殺して
…殺した

深紅の霧にけぶる戦場は日が照っていても闇そのものだ。
腐臭を吸い
皮を割き、骨を砕く。
その鈍い手ごたえだけが私に与えられるこの世に生きている証だった。

飢えた狼のように貪欲に獲物を屠った。

骸の山がうずたかく積まれようとも
私の渇きは決して満たされることはなかった。

あるとき、殺伐とした戦場に
一匹の手負いの野うさぎが迷い込んだ。

その日の戦いでも多くの味方と敵が命を手放し
私はクタクタで
もう指を動かす気力もなかったはずだった。

なのに私は無意識のうちに
迷い兎がピョコピョコと動く影を眼で追っているのだ。

「敵ではない」
第一印象はそんなところ。

私は思い直した。
「たいした肉でもない」

食料としても頼りない。

とりたてて気にする存在ではなかったのだが
ただ猛スピードで突拍子もなくジグザグに迷走する姿に興味がわいた。

私は立ち上がった。
不思議なことに、あれほど疲れきっていた体がそのときは軽かった。

「楽しませてくれ」

逃げるから、追う。

それは余興の一つにすぎぬことで
ほどなくして私はうさぎを捕らえた。

片手で持てばあまりの軽さに拍子抜けするほど。

「…つまらん」

私はドサリと腰を落とす。

――そうか、私は疲れていたんだ。
その時思い出した。

このままこの小さな命を握りつぶそうと、なんの感傷もない――はずだった。

私の手にはドキドキとした鼓動が手に伝わってきた。
柔らかく、生暖かい動物の匂いがした。

怯えるうさぎのガラス玉の瞳に世界が反射して
疲れた顔が映って見えた。

私は苦笑してしまった。

「…なんだ、ボロボロじゃないか」

…もう遊びは終わりにしよう。

私は、柔らかそうなその兎の首筋に
牙を立てた。

ドキドキ跳ねるうさぎの血脈が
私の歯に伝わり脳を震わせる。

緊張しすぎて、動けない小動物が
供物のように己の身を差し出しながらも
魂は屈服していないと――悟らされた。

*******

「――君も、逃げないんだ」

白いうなじの弾力が歯に伝わる。

私に噛み付かれた状態で硬直していた君が
ふいにプルプルと震え始める。

「――君、『も』?」
かすれた声で喘いだ。

「?」

「…へ、へーかのバカぁ!
女ったらし――!!」

わなわなと顔を赤らめる君が
今はもうさっきとは『別のこと』で怒っていることに
人の気持ちに鈍くて疎い私もようやく気がつく。

わたしは呆気にとられ
暴れる君をなだめる愚かな僕に一瞬にして成り下がった。

君は屈しない。
君は壊れない。

またとない変な顔の君のふくれっ面が
どうしてこんなに愛らしく見えるんだろう。

私は、笑った。

だが
君はますます怒るばかりだね。

困った。
どうしよう。
私は困ってるはずなのに、おかしくて、笑いが止まらない。

ねえ、夕鈴。
もっと私を困らせて。
もっと教えて。
君のいろいろな姿を見せてほしい。

生き生きと景色は色を取り戻し
一瞬で君は私の世界を塗り変える。

愛しい君。
君ほど私を楽しませてくれるものも他にはないと
今更ながらに
わたしは思う。

(おしまい)

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とらの取寄「子犬ファミリー・青の庭 総集編」


とらさんの取寄予約販売に「小犬ファミリー・青の庭 総集編」と「あいつとオレWPストリーム」を出させていただきます。

子犬ファミリー・青の庭(表紙)

子犬ファミリー・青の庭

あいつとオレWPストリーム

あいつとオレWPストリーム

予約期間: 2016/06/11 ~ 2016/06/26
期間で集計し、こちらからとらさんに送って…となるシステム上、みなさまのお手元に届くまでしばらくお時間かかると思いますがご容赦ください。

少部数で申し訳ありませんが、手元にある最後(小犬ファミリー6冊、あいつとオレ8冊)を出します。
よかったら覗いてみてください。


子犬ファミリー・青の庭(表紙)

子犬ファミリー・青の庭 総集編

タイトル 小犬ファミリー・青の庭 総集編
注文番号 040030328662
価格:1,980円(+税)

サークル 織座舎
主な作家 おりざ
発行日 2015/08/15
サイズ 新書版 360p (カバー付)

カテゴリ / サブカテゴリ 狼陛下の花嫁
メインキャラ 珀黎翔×汀夕鈴

<内容>
初出2013年にブログで公開したお話をまとめ、加筆修正を加えた総集編です。
原作沿い。オリキャラの登場有り。
結ばれた二人のその後のお話、子だくさん狼陛下「小犬ファミリー」、織座舎既刊「王の環」の番外編にあたる「海棠の郷」、「王の環」の続編にあたる官吏になった青慎視点で国王夫妻下町お忍びツアーを綴る「青の庭」、中編「ギャラリー」完結版を収録した、お得な一冊。
[女性向]
[R15]※軽い残酷表現を含むため自主規制R15とさせていただいております。


あいつとオレ WPストリーム

あいつとオレ WPストリーム

タイトル あいつとオレWPストリーム
注文番号040030234269
価格:650円(+税)

サークル 織座舎
主な作家 おりざ
発行日 2014/08/24
カテゴリ / サブカテゴリ 狼陛下の花嫁 / 黒執事
サイズ A5 36p
メインキャラ 几鍔×汀夕鈴
[女性向]

<内容>
幼馴染の几鍔と夕鈴のお話し。『狼陛下の花嫁』のお話のなかに『黒執事』の『設定』がちょっと紛れ込んだWパロディ、現パラのSS3本再録です。
(設定のみで、黒執事のキャラは一切出てきません)
書下ろしマンガ、小説はオリキャラが出ます。
愛や恋という感情が芽生えるよりもっと純粋無垢な子どもの時代を生きる几鍔と夕鈴の二人をちょっぴりノスタルジックに。
甘味料無添加。
几鍔をこっそり応援したい方にお薦めです。