ラビリンス(3)


診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

SSを書けという「SS(ショートストーリー)」の大前提が既に崩れておりますよ。
そのあたり、まあどうでもいいよーって言ってくださる大らかな方はどうぞ。

ついでに↓ここ↓もなんだか怪しくなってきましたよ。

(原作沿い)→【パラレルファンタジー要素ましまし】

お伽噺やファンタジーが苦手な方、不条理が嫌いな方は無理なさらないでください。
パラレルな登場人物がいきなりドッサリ湧いて出ます。


ラビリンス(3)

「…陛下を、怒らせちゃった」

すごい罪悪感が一気に襲ってきた。

「せっかく下町に旅行に行こうって誘ってくださったのに…
私だって二人で楽しい旅行したかったはずなのに…」

一人っきりになった広い部屋の中で、
私はしょんぼりと椅子に崩れ落ちた。

国王が唯一の妃にとあてがったこの部屋は、後宮の中でも一番豪華な部屋だった。
家具も設えも一つ一つ職人の技巧が凝らされた何一つ不足のないはずなのに、心に吹くすきま風は何とも寒々しい。

シーンと静まり返った部屋。

その時、部屋の隅から小さな音楽が聞こえてきた。

♪ドンドンヒャララ、ドンヒャララ…。

「…え、何っ?」

私は思わず振り返る。
窓の方から、ではない。
楽師が招かれたという話も聞かない。というか、後宮の奥深く、おいそれと足の踏み込めない場所で、こんな呑気な音楽が聞こえてくるはずもない…。

私は混乱しながらも立ち上がり、部屋の中をぐるぐる歩き回り音楽の出所をたどった。

「――ツボ!」
部屋の隅に怪しげな壺を発見!!

(…このパターンは…)

…老子!
後宮管理人である張老子は、いつも私たち二人にイチャイチャしろだの早く世継ぎをだのあれこれ無茶を言い、時折変なところに潜んでは私たち二人の様子を覗いている(前歴がある)。

私はつかつかと部屋の隅に置かれた大きなツボめがけて歩を進めた。

ツボめがけて、勢いよくズボっと一気に腕を差し込んだ。

ドンドンヒャララと鳴っていた音楽が止んだ。

ぐにゅっ、と何かに掌が触れる。
…暖かい。

細いところをつかんだみたい。

「よおし、尻尾はつかんだわよ。もう逃げらえないから!」

私は手に触れたところを握り締め、一気に引っ張り上げた。

想像以上に軽すぎる手ごたえに、うっかり尻餅をつきそうになった。
後方によろめきながら、手につかんでいたそれが喋った。

「ぎゃぁぁっ! なにをするんじゃ~っ!!」

小さな…体!

「はあっ!? 」
行天した私は、今手に掴んでいるソレを目玉が飛び出そうになるほど凝視した。

「あたたたたたっ!そんなにギューギュー、つかむでないっ」
シャガレているくせ、ハイトーンな小さな声。

「…あっ、ご、ごめんなさいっ!」
私は思わず握り締めていた指をパッと開いた。

「わわわっ!あ、あぶないじゃろ!」

親指に辛うじてつかまってブラブラしていたそれは、
よいしょ、よいしょと私の掌の上によじ登ってきた。

「まぁったく、乱暴じゃのう。
はぁ…この様子では、お世継ぎはまだまだ先かのぅ」

ため息を盛大につかれてしまった私はクラクラしながら、掌の上にたつ「ソレ」を眼前に近づけた。

いくら『例の』ご老体が小柄とはいえこれはあまりにも小さすぎる!!
身の丈約三寸(約9.1cm?)、尋常ならざる小ささだ。

「…ろ、老子!? いつのまにこんなに縮んじゃったんですか!
はっ!? 急に老化が進んだ、とか――私、そんなに心配かけちゃいました?」

あまりの罪悪感にダーッと背中に汗をかいた。

「――老子? だれのことじゃ?」
わしゃもとよりこのサイズじゃわい、失礼な。
老化のせいじゃないわいっ!」

小人はやっぱり子供のような高い声でキーキーと返事をした。
私は、手のひらの上に立つ小人老人をまじまじと見つめた。

「張老子、じゃ ないんですか?」

…顔は、似てる。というかそっくり。でも小さい。
どう見ても、老子が小さくなっただけに見える。

「わしゃ、ふだんは“先生”と呼ばれておるんじゃ」

その時、ツボがガタガタ揺れた。
先ほどこの小人をつかみ揚げた例のツボだ。

「すまんが、他の者も出してやってくれんかのう。
実はわしら、ここから出られんで困っておってのう。
誰かに見つけて助けてもらうと思って、演奏しておったんじゃ」

「…はい?」

意味がさっぱり分からない。

だけど、『先生』が言う通り、ここにもし他の小人がいるのなら…

そぉっとツボの中を覗き込んだ。
思った以上に深くて底の方は暗くてよく見えないけれど、
何か動いているものが見えた。

小人…!
「…1、2、3、――6人!?」

「そうじゃ、わしら実は『7人の小人』と呼ばれるチームなんじゃよ。
それよりほかの皆をここから早く出してくれんかの?
…ああ、皆が持っておる楽器を壊さぬよう、気を付けてくれんかの」

私は慎重に、小人たちをゆっくりつまみだした。

「待ちわびたぞ。わが妃はいつも愛らしいな」
ご機嫌な口調のくせに、なぜか鋭い赤い目が印象的な小人…。

「ごきげん殿、御無事でしたか?」先生と呼ばれる老子そっくりの小人が丁寧な口調で膝を折って迎えた。
どうみても陛下そっくりに見えるこの小人、陛下そっくりだけあってなんとなく身にまとうオーラがすごくい。7人の小人チームの中でも偉い存在なのかもしれなし。

「ごきげん殿は実は小人族の王族なんじゃよ」

「ああ…つまり、陛下?」

「ごきげん殿はごきげん殿。
我々小人はそれ以外でお呼びすることはないがのう」

…ちょっと頭痛くなってきた。

「でもその方のごきげんはオンオフが激しいのでなぁ、
良いか、おぬし気を付けて粗相のないように」

「このままずっと君と二人だけでいたいが…」

小さいごきげん殿は、いきなり私を口説き始めた。

「しょ、少々お待ちください!」

そそくさとごきげん殿を床に降ろし
「私、まだ残り小人さんを助け出す仕事が残ってますから。
そーゆーのは、後にしてくださいっ!」
といいながら、私はビシっと一線を引くことにした。

ごきげん殿の背中に黒く渦巻く何かが広がった感じがしたけど、いまはややこしいのでとりあえず見えないフリをした。

次につまみ上げた小人さんは「くしゃん!」くしゃみをしたので、思わずつるっと落としそうになった。

「ああもっと丁寧に!
あいかわらず迂闊な人ですね…」

「ごっ、ごめんなさいっ!」

私はもう一度しっかりつまみなおした。

「くしゃん!」とくしゃみをしてずれたメガネを、指でクイッと正す小人さん。

「そいつは、“くしゃ李さん“と呼ばれておる」

メガネをかけ、薄茶の髪を束ねた小人はどう見ても李順さんそっくり。
くしゃ李さんと呼ばれる小人を床の上に下ろした。

「なっていませんね。あなた、やることが雑なんですよ。妃としての自覚が足りませんね。きちんと教育しなければ――」とブツブツ文句を言いながら、くしゃ李さんはまた「くしゃん!」とくしゃみした。
普段何事も整然と整っている印象の李順さんが、こんなすっごい顔クシャクシャにしながらくしゃみするんだ、というあたりが盛大に笑えた。

私は笑いをこらえながら再びツボの中に手を入れる。

ところが今度は「…遅いっ! いつまで待たせる!だいたいあなたは――」と、いきなりなじられた。
助けてもらう立場にありながら、轟轟と非難されるのも面白くない。目が合ったとたん、バチバチっと視線に火花が散った。
「そいつは”おこりん方(ぼう)”と呼ばれておる小人じゃ」
小さいくせに、眉間のしわがくっきり3本深く刻まれている。

(ほ、方淵、方淵だ、この小人!!)と思いながら、手ばやく床に降ろす。

「ふんっ!」

(ちょっと。礼の一つも言えないの?)
内心ムカムカしたけど、方淵の小人版なら仕方がない…(?)。

「方淵がいるんなら…この隅っこでうずくまってる小人さんは、もしかして…」
丸まっている小人を持ち上げた。

…やっぱり。
水月さんそっくり。

「おお、”ねぼ水(す)け”。そいつは小人族の大貴族の生まれのくせに、やる気がちーと不足しておってのう…。ごきげん殿と一緒の場所に居ると緊張しすぎて自閉モードにはいってしまうんじゃよ」
老子小人の説明。
ごきげん殿と同じフロアに降ろされて目をそらし、ガタガタ震える小さな背中をみて、だいたい想像がついた。

「おーい、おいらも早く引き上げてよー」

ぴょんぴょんとつぼの中でジャンプしている元気な小人。
つまみあげれば、やっぱり浩大そっくりで…。

「おお、そいつは隠密の”隠(おん)とぼけ”じゃ」

隠密のおとぼけ?…浩大じゃないの。ちょっと…

「有能なオレをしても脱出不可能なツボから出してくれて、ありがとなー、お妃ちゃん。ああ、でもおいらホントは有能だからさ。やるときゃやるよ?」

「…こんなツボから出られない癖に、有能な隠密とかあり得ないし」

とぼけた様子で頭を掻いてる様子は浩大そのもの。
隠(おん)とぼけって。

「こんなツボって…あんた知らないからそんな簡単に言うけどさー」

知らないと言われてちょっと悔しい。
でも、訳のわからないことがいろいろ起きてることは、認めるわ。

「そっか。浩大だったらそんなツボひとっ飛びだって思ったけど」

「…へえ?」
とぼけてニヤニヤ笑ってるミニ浩大を手から降ろす。

じゃあ、あと最後のこの小人さんは?と
好奇心にかられて思い当たる節を頭のなかで巡らせた。

まさか、周宰相?それとも克右さん?と思って持ち上げたら――

…あれ?

「やだなーゆーりん。そんなに見つめたら、ぼく恥ずかし~」
もじもじしているその小人。

さっきの「ごきげん殿」とうり二つなんだけど…まさか

「その方は”でれすけ殿”。ごきげん殿の双子の兄君じゃ」

「――ほへえええっ? 陛下、二人?
分裂しちゃったの?」

「分裂?」

「あ、いえ。こっちの話です」

でれっとしたちっこい小人になったへーか…、か、可愛い。たまんない。

ドキドキしながらてれすけ殿を床に降ろす。
たしかにごきげん殿とそっくりで、双子の小人といわれれば納得もするけど
やっぱりどうみても、現実世界の陛下が二人に分裂したように見えてならない。

小犬陛下…ああ、耳や尻尾まで生えて見えるんですけど…。

7人の小人に囲まれた私。
「ありがとうございました」
「ここから助け出してくれて、ありがとなー」と口々に礼を言われたり
「フンっ!」と睨み返されたり、すり寄られたり、何がなんだかわからないうちに
「ささ、お妃様。まずは我々の感謝の合奏をお聞き下され」といわれて
(なんでこんなことになったの?)とかもうどうでもよくなって

7人の小人たちが奏でる小さな演奏を聞き惚れているうちに、
さっきまであんなにギスギスしていた気持ちも心地よくほぐれて行った。

陛下とうまくいかない小さないさかいで緊張していたのかもしれない。
小人たちのホンワカした姿とその演奏を見ているうちに、
なんだか気持ちよくて、ウトウトして…

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おさらい
<7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん

ハイホーなあたりから役柄を拝借です。

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