SS 王様だもん


他人はもとより自らも厳しく律する狼陛下も人の子。
さあ、時にはお酒の力で理性の鎧を脱ぎ捨ててごらんなさいませ。
酔っ払いヘーカのおちゃめな暴挙を妄想。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

本誌設定、ネタバレを含みますのでコミックス派の方はご注意ください。

【原作沿い】【残念レベル▲▲△△△】
: : : : : : : : : : : : : :
 王様だもん
: : : : : : : : : : : : : :

ここは白陽国
冷酷非情の狼陛下にはたった一人のお妃様がいるだけ。

たった一人のお妃さまは
厳しい国王陛下の御心をもお慰めすることができるたいそうお優しい方。

広い心の持ち主の彼女は
いろいろなものを拾うのだそうだ――。

最近では、隠密
それから、お姫様。

「夕鈴は、拾った自分の責任だといって…」
盃を傾けながら、国王は机に突っ伏した。

「ふーん」
浩大はグイグイと飲めるうちに酒とつまみを詰め込むので忙しい。

「広い心を持つそんな夕鈴が好きだ…
だが
私を構う時間が減ったりするのは
少々納得できない」

ブツブツと独り言が漏れる。

「へーへー」

隠密は適当に相槌をうつ。
お腹も一杯、酒もたらふく飲んだ。付き合いとはいえそろそろ潮時だ。

「私を差し置いて、一緒に湯につかるなど、正直行きすぎだと思う…」

「そうですねー、新婚さんなのにねー」

机に伏せていた彼は突如ムクリと起き上がった

「新婚の妻が
夫以外の別の人物と
二人っきりで湯につかるなど、
――普通ありえんだろう?」

ドン、と両手で机を叩く。
酒瓶やら盃がカチャカチャと揺れた。

「まあまあ、へーか。
女同士だし、
お客さんなんだし」

浩大は押しとどめるが、なにせ体格差が大きいこともあり、タガの外れた陛下の暴発を食い止めるのは酷く困難だった。
(…だめだ、なんか目が座ってる)

毒にも酒にも耐性の強い彼。
普段酔っ払った醜態など見せることはほとんどないくせに…。

「女であろうと客人であろうと関係ない!
なぜわが妃が、他人と一緒に湯に?」

「へーへー」

「あのように、親密に――!」

「へーへー。
…親密って、どしてわかるの?」

「この目で見たとも!」

「ほーほー。
どこから?」

「専用設備」

「設備?」

「専用の湯殿にはそれなりに専用の用途と設備がだな」

「つまり、覗いたって?」

「王様だもん」
どや顔。

「どこどこ? おいらも覗ける?」
浩大も目を輝かせる。

「ばかもの。国王専用だ」

「ふーん、残念(苦笑)。
で、朱音姫はどんな?」

「目標はあくまで、ゆーりん」
プイッとそっぽを向いた。

(まあた、愛妻家ぶっっちゃって~)

(…こんな陛下も珍しー
笑えるけど正直もう限界ダヨな)

ずいぶん長い時間こんな陛下に付き合わされた浩大。
最初はおとなしく聞き役に回ってこらえていたが、何度もグルぐる巻き戻される愚痴には辟易としていた。

「そんなに悔しいんだったら
今から一緒に入ってくれば?」

「『もう寝るから』と、さっきフラれた」

「…。
あ、じゃあ。一緒に寝れば」

「それも
『いま姫から目が離せないからダメ』だと断られた」

「じゃあ3人で寝れば? 
ヘーカ、王様だもん。
そういうのもありじゃん?」

「え?」

「ほら、さ。
『三人で寝よ』って軽~く言ってみたら?」

「!」

「そもそも後宮全部がへーかのものでしょ?
王様が、なに締め出されてんのさ!
遠慮することないって!」

さんざん焚き付け、
陛下の顔色が変わるのを見て楽しんだ浩大。
だが、
ベロンベロンに酔っぱらった陛下が
いきなりガタガタと立ち上がったのには驚いた。

「まさか、行く気?」
こんどは浩大がポカンとする番。

「…」
鼻息荒く、小さくうなづく。

(目ぇマジじゃん、戦場の鬼神モード
…っ怖~!!)
浩大の涙がちょちょ切れる。

「いや、落ちついて。
へーか、今の冗談だって!」

「――そういうのも、あり」

「いや、ナイでしょ、ナシでしょ?
あのお妃ちゃんには冗談通じないと思うよ?
あー
へーか
ちょっと…

…あーもう。
――聞いてないし!」

ズシンズシンと足音を響かせて
強気になった国王は勇ましく後宮へと渡って行ったのだ。

しばし後

ものすごい叫び声が聞こえ
がったんがったんしたあげく…


叩き出された折、顔を直撃した妃の枕を抱きしめ
国王は寂しく王宮に戻ってくるのであった。

めでたし、めでたし。

*

ラビリンス(最終回)


こんにちは。
このお話も今回で最終回です。
少しでも楽しんでいただけたら、嬉しいです。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴、巨大化した姿で陛下と再会。
5)さてさて――?


ラビリンス(10)最終回

「分散した七人の小人を急ぎ集め、もう一度、わが妃のために音楽を奏でてもらわねば」

この期に及び冷静な国王の言葉。
夕鈴にすれば、陛下とけんかして、勝手に後宮から失踪し(じつは小人たちと出会って体が小さくなってしまったために身を隠したわけだが)、勝手に戻ったものの勝手に巨大化している状況。そのうえ巨人サイズの自分が流した大量の涙で陛下を溺れかけさせ、あまつさえ風邪をひかせかねないという現状は、不敬極まりない不始末。

「文字通り、きみに溺れる哀れな男だな」
と本人は笑ってるけど、
「バカっ、そういう話じゃないでしょう?」と
濡れて重い政務着を身に着けたまま震える彼をなんとか早く助けなければと夕鈴は焦るばかり。

巨大化した夕鈴の涙で水没しかけている執務室の中は大混乱。
事態収拾のカギを握る小人たちは驚いてそれぞれ隠れてしまって、
小人七人のうち五人までは見つけ出したものの、最後の二人が中々見つからない。

「ごきげん殿、でれすけ殿~っ
どこですか? 出てきて下さい」

夕鈴は涙の海をあてどもなくざぶざぶかき混ぜる。

その時、涙の海の底からぷくり、ぷくりと小さな泡が立ち上ってきた。

黎翔はそれに気が付いて、目を凝らすと青い細首の優美な花瓶が見えた。

「夕鈴! 落ち着いて。手を止めて」

夕鈴はピタ、と動きを止めた。
「あそこに花瓶が…」

黎翔は夕鈴の掌の上で濡れた政務着を脱ぎ捨てた。
身にまといつく重たい衣裳を矢継ぎ早にむしり取ると、たくましい背中がむき出しになる。

「…ちょっ――陛下!?」
巨大化した夕鈴があわてて手で目を隠す。

「そう恥ずかしがらずとも…いつも見ているだろうに?」

「いつも暗いし、それにそんなジッと見たり失礼なこととか私しませ――じゃなくて!!
今そんなこといってる場合ですか――!!」
夕鈴は赤面して叫んだ。

恥じらう妻を一瞬優しい瞳で見つめると、黎翔はくるりと振り返り、花瓶の沈む水底を凝視した。

「しばし待て」

黎翔は一呼吸、大きく息を吸い込むと、躊躇することなくしなやかな動きで夕鈴の掌の上から水中にダイブした。

「へーかっ!」

ざぶんと水しぶきをあげ飛び込むと、垂直に水底まで潜る様子はまさに水を得た魚のよう。
黎翔は水底でゆらゆらと揺れていた花瓶をつかむと、軽く床を蹴って、まっすぐ水面へと浮上した。

夕鈴は両手で大切に彼をゆっくり掬い上げる。指の隙間からザバと水滴が流れ落ちた。夕鈴の掌の中には、青い細首の花瓶を片手でつきあげる彼。

「…これか?」

夕鈴が応えるより早く、花瓶がカタカタと横に振れた。

見覚えのあるこの花瓶、執務室の国王の机の後ろに飾られていたものだ。

細首の優雅な青い絵付けが施されたえもいわれぬ高貴なたたずまいのこの花瓶、たしか李順さんが『この花瓶は代々白陽王家に伝わる国宝ですから』といいながら大切にしていたものだと夕鈴は思いだした。

張老子にそっくりの小人“先生”が声をかけた。
「ごきげん殿、でれすけ殿、そこにおられますのか?」

「……」
花瓶の中からくぐもった返事が。

「出てきてはくださらんようじゃな」
先生が腕組みをした。

「…ならば仕方あるまい」
黎翔は軽く腰の佩きものに手を触れた。

李順さんそっくりの小人“くしゃ李さん”が両手を広げて花瓶の前に飛び出した。
「まさか、その剣でこの花瓶を切るおつもりですか?」

「陛下っ? ちょっと、この花瓶、確か国宝とかじゃあ」
夕鈴も青ざめた。

黎翔はすらりと剣を抜き放ち構えた。

「おやめくださ…!」
くしゃ李さんが懇願する。

「君のため、花瓶の一つや二つ、惜しむ男ではない」

「陛下~~~っ!」
夕鈴の制止も効かず、黎翔は剣を振り下ろす。

キンッっと硬質な音と共に、花瓶はパカンと真っ二つ

青い花瓶の中には小人二人が仁王立ちに立っていた。

「ごきげん殿、でれすけ殿!」
夕鈴は叫ぶ。

二人の小人は傷一つ負った様子もない。

ニヤニヤ笑いながら、隠とぼけがヒュウっと小さく口笛を鳴らした。
「勇者だねぇ」

「この二人で最後か?」

黎翔が振り向くと、花瓶の真ん中にいた二人は白くぼんやりと輝きだした。
二人の小人が纏っていた衣裳は溶けて消え、目鼻の造作も消え、まるでてるてる坊主のようにただ白い姿に変わってゆく。

夕鈴はハッとした。

もうどっちがごきげん殿でどっちがでれすけ殿かも見分けがつかない。
先に集まった五人の小人たちも同様だった。

七人の小人たちは夕鈴の手から浮き上がり、フワフワと空中へ漂ったかと思うと、ぴょんっと手に手に楽器を取り上げ演奏を始めた。

♪ ♪♪~ ♪

夕鈴はスルスルと小さくなり
涙の海はバラ色の霞になって蒸散してゆく。

黎翔は夕鈴の掌から飛び降り、水が引いた執務室の床へ立つ。
あたりはこの上もなく優しい光で満たされ、夕鈴はゆっくりと縮んでゆく。

そして二人の視線がいつもの高さで交わると、音は静かに止んだ。

ついに元の姿へと戻った夕鈴。

見守っていた彼が彼女の方へ両手を広げた。
呆然とした彼女は急ぎ彼の元へ駆け寄り、その胸に飛び込むと頬を押し付け叫んだ。

「陛下――ごめんなさい
ずっと、私
謝りたかったんです」

せき込むように夕鈴は続けた。

「もちろん、青慎や父さんにも会いたいけど…
でも、陛下が一番だから。
陛下が今の私の家族だから。
だから私のために、無理しないでください。
陛下と一緒にいられれば、私はどこだって幸せなんだから…」

「…夕鈴!」

抱きしめる腕に力が入る。
二人は固く抱き合い、無言で互いを見つめ合い、引き寄せられるように唇を重ね

白い七人の小人が、一際明るく輝いた。

「願いはかなったようじゃな」

「みんな――行っちゃうの?」
夕鈴は寵愛の檻から這いだし、頬を染めたまま彼らを見上げた。

夕鈴は宙に浮かぶ小人たちを見上げるが
七人の小人たちは光の中に溶けて消えていくところだった。

もう誰が誰だかわからないほど、白くほんわりとした光の小人たち。

その中から突然、
二つの白い光がシュッ、シュッと、まるで流れ星のように飛び出し
夕鈴の身を貫いた。

黎翔は敵意がないと油断していた小人たちからの不意撃ちに動揺し
瞬間身を縮め腕の中にいた妃を抱きしめた。

「夕鈴っ! 大丈夫か?」

「へっ?」
彼の険しい表情や緊迫した声に逆に驚いて、夕鈴はビクッと身を固めた。

「痛みは?」

「――いえ? 特に」
何が起こったわけでもなさそうだった。

「大事ないか?」

それからゆっくり自らの体を見下ろし、手をニギニギしたり裾をめくって足をチラッと見たりしてみるが、特段変化もなさそうだと納得する。

「え、あ、はい。このとおりピンピン」

一瞬、何事かと夕鈴はポカンとしている。

「何、今の?」
夕鈴が尋ねても、元小人たちだった光は「くすくす」と笑いさざめきながら七色に光っているばかり。

「さようなら」
「さようなら」
「さようなら」
「さようなら」
「さようなら…」

「みんな…‼」

現実世界で見える室内の天井と、異世界が重なって見える。
高次元の世界の扉が開き、五色の光に彩られた楽土が垣間見え、えも言われぬ心地よさがあたりを包む。
その中に小人たちだった光の玉はクスクス笑いながら高く昇っていった。

やがてクスクスという声はどんどん小さくなって消えると、あたりの不思議な光の世界も霞のようにぼんやりと消えながら閉じて行った。

出会いも別れも突然で、不思議な縁に感謝しながらも
夕鈴はいつまでも袖を振って見送った。

消える直前、小人たちが最後に一言、祝福を投げかけた。

「おめでとう」

「は…?」

夕鈴はさっぱりわからないことばかり。

だが直後、陛下に息もできないほど抱きしめられたかと思えば、身も心もとりこまれてしまい、それどころではなくなってしまったのだ…。

—-
エピローグ

「あれだけ根回ししたのに
結局、下町行けなかったね――」

「すみません」
夕鈴は床に横になって青い顔でうなだれた。

狼陛下がこれ以上ないというニコニコ笑顔ですり寄った。

「謝ることじゃないよ、だって」

「でも陛下あんなに楽しみにされてたのに――
私のせいで」

「またいつでも行けばいい」

「そんなことおっしゃらずに。
せっかく休暇なんですから、へーかだけでも行っていらしたら?」

「――」
狼陛下の目の色が変り
夕鈴の背筋がぞくっと凍る。

「…まだ言うか?
この口は」

口づけが落ちる。
優しい口づけだった。

彼はゆるやかに態勢を変えると、妃にのしかかるようにその口づけの角度を深めて…

「――うっ 

ぷ!?」

長い口づけをさえぎったのは、妃の方だった。

国王の胸を押し返すと
妃はあわてて顔を背け、寝台の脇へ用意されていた甕を両手で抱えこんだ。

「…うっ」

この世のものは何もかも意のままといわれる国王といえど、なすすべなく蠕動を繰り返す妃の背中をゆるやかにさするので精一杯だった。

気配を敏感に感じ取ったお付きの侍女らが隣室からワラワラと飛び出す。
「お妃様っ、大丈夫ですかっ!?」
「ご気分がお悪いのですかっ?」
あっという間に妃を取り囲み、甲斐甲斐しく介抱する侍女らに締め出され脇へと追いやられる国王。

サラリと前髪を書き上げふぅと苦笑する。

「――続きは、つわりがおさまるまで、お預けにしておく」

それを聞き咎めたのは女官長。

「とんでもございません!
『つわりがおさまるまで』ではなく、晴れて身二つにおなりあそばされるまで
お妃様のお身体には指一本お触れになっていただいては困ります――」

「…は?」

(ちょっと、待て?)
国王陛下の目が点になった。

居場所がなくなって回廊に出れば、さっそく李順につかまる。

「ヘーカ
どうしてよりによってあの花瓶を割ったんですか?
…いくら夕鈴殿のため仕方がないとはいえ、
あれは国宝のなかでも随分値の張るもので――」
眼鏡の側近はシクシクと涙を流しながらずっと背後に付き従い、延々と愚痴を垂れる。

「それより、私は後宮から追いだされたのだが?」

「懐妊したばかりの妃に陛下が一方的にイチャイチャするから追いだされたのでは?
それより例のお割りになった国宝の花瓶ですが…」

「…はぁ…」
黎翔は目をつぶって目を伏せた。

複雑な心の迷宮。

彼を救うのは
願いをかなえるという小人たちなのか
はたまた
リスクを顧みぬ勇者となって武功をあげるのか――

ここ白陽国の戦場の鬼神の二つ名を持つ狼陛下も悩みは尽きず、深い迷宮へと落ちてゆくばかり。

*

(おしまい)

ラビリンス(9)


こんにちは。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴、小さかったり、大きかったり、忙しい。
5)あわや青慎との再会を果たそうかという時に、またもやツボに引きこまれて迷宮へ逆戻りした夕鈴と7人の小人たちは…というとこからです。

さあ、いよいよお話も終盤へ。


ラビリンス(9)

夕鈴が真っ赤になってうつむいた途端、グラッと世界がゆがんだ。

グルグルかき混ぜられるようにあたりが揺れたかと思うと、
夕鈴はポイっとどこかに放り出された。

「…ここは?」

見上げると、見慣れた天井。

机の上にはきちんと揃えられた筆と白い紙。硯には墨液がたっぷりと湛えられ、脇には水差し、手元には途中まで書きかけられた書が。

ほんの今しがた主が筆をおいて席を立ったか、黒々とした端正な墨痕はいまだ乾ききっていない。

それはまさに陛下の手跡、ここは陛下がいつも執務を取っている部屋だった。

いつ陛下が部屋に戻ってくるかわからない状況と思われたから、夕鈴は慌てた。
キョロキョロと見回すと7人の小人はあちこちバラバラに墜落して転がっている。

「ちょ、ちょっとみんな大丈夫?」

「ありゃ、ここは…」

「とにかく、急いで隠れないと!
陛下がいつ戻ってくるかわからないの、みんなの姿を見たらきっと大騒ぎに…!」

「なら、おぬしをはやく元通りに」
先生が言う。

「なるほど。夕鈴殿が元の大きさに戻れば…」

「じゃあ、早速――」

小人たちは懐から楽器を取り出すと
「ではみなさん、逆譜で弾いてみましょう。
少々難しいですが…」とねぼ水けさん。

「やってやれないことはない!
ともかくやるぞ!」おこりん方。

ごきげん殿の紅い瞳で視線を送ると、でれすけ殿がコクリとうなづく。
くしゃ李さんが

「では――くしゃんっ!!」

6人の小人たちはガクっと緊張が抜けた。

「おや、失礼」

くしゃ李さんはずびずびと鼻を拭きあげ再度楽器を構えた。

「改めてまいりますよ
さんっ、はいっ!!」

夕鈴は祈るように手を合わせ、その周りで小人たちが音楽を奏で始める。
♪♪ ~♪ 
~♪ ♪ ♪♪~ ~♪

ピクリ 夕鈴に変化が…

「成功じゃ!」

太鼓を叩きながら先生が叫ぶ。

「もっと大きく、もっと心を込めて弾くんじゃ!」

ぐんぐん夕鈴は大きくなり始めた。

「…あっ!」

夕鈴は驚いた。

「やめ、やめ、やめてくださ~~いっ!」
くしゃ李さんがグルグル腕を振り回し、ついでに大きなくしゃみも発射した。

音楽が止み、シーンと静まり返ったその中。

夕鈴の視界の中で、どんどんと小人たちが小さくなっていくのだ。
どんどん小さくなって

小人たちが豆粒のように――

「さあて、どうしたものじゃろうか…」
先生が見上げる。

「――ちょっとやりすぎちゃった?」
隠とぼけが、へへへと笑った。

夕鈴は背中を丸めて必死に天井を壊さないよう手足を突っ張っていた。

「ちょっと、これどういうこと――?」

王宮の高い天井を突き破らないよう腰をかがめて足を踏ん張っている彼女――大型巨人サイズになった夕鈴が叫んだ。

「これじゃあ、大きくなりすぎよ!!」

その途端、廊下から声がした。

「――その声は…夕鈴っ!?」

バンと音と共に夕鈴の足元にあった扉が開く。
陛下が部屋に戻ってきたのだ。

突然の狼陛下の登場に、小人たちは慌ててピュッと身をひるがえし、あちこちのツボや花瓶に飛び込んで身をひそめた。

「夕鈴、どこだ!」

「…」
夕鈴は返事ができなかった。

陛下が、小さく見える。

(へいか、だ――)

夕鈴は声も上げられず、唇を噛んだ。
頭上はるか上の天井から陛下を見下ろしている自分が情けなくてしかたがない。

(こんなに、会いたかったのに。
会って謝りたかったのに――)

ポロリと涙がこぼれた。
涙のしずくは夕鈴の頬を伝うとあっという間に滑り落ち
それが陛下の頭に直撃した。

いきなり頭上からバケツ一杯に等しい水(塩水)浴びせかけられた陛下は驚いた。

「なっ――!?」
と見上げればそこには…

「…ゆ う り  ん?」

瞳孔が開き切った彼の顔。

夕鈴の胸はドクンと音を立てる。

情けない
情けない
情けない
情けない、情けない――!

夕鈴はボロボロと泣くばかり。
絨毯の上にザバア、棚の上にザバア、と涙は滝のように降りかかる。
あっという間に政務室の中は大雨に降られようにびしょ濡れになった。

陛下は「はぁ」と息を絞り出すと、仁王立ちのまま夕鈴を見上げた。
この素っ頓狂な状況を彼は冷静に受け入れ努めて落ち着いた声で話しはじめた。

「君には…いつも驚かされる」

「ひっく、ひっく!」
(へーか、そんな落ち着いてる場合じゃないでしょ――!)
夕鈴はパニック寸前だ。

「夕鈴、探したよ。
そんなとこで何してるの?」

「へっ…へーかぁ――あああああぁん!」

堰を切ったようにあふれる夕鈴の涙は執務室を水浸しに。
水位は増し、陛下の膝を濡らし、ついには腰へと達した。

「夕鈴、落ち着いて」
動じることなく、ジッと紅い瞳で彼は巨大な彼女を見つめている。

「ごっ
ごっ


ごめんなさい…」

夕鈴は必死に謝った。

「君がいなくなったと知って、私の心臓が止まりそうだった。
無事帰って来てくれたのなら、それだけでいいんだよ」

「無事、じゃあ ありません…」

夕鈴は情けなくてますます泣く。

「何があったの? どうしてそんな風になっちゃったの?」

あちこちに筆や紙がぷかぷかと浮き、調度品がガチャガチャ音を立てながら渦を巻く。
陛下は肩まで水に浸かって、軽く手で水を掻きながら立ち泳ぎをしている。

「何がって…急に小さくなって、ようやく元通りに戻れるかと思ったら今度は大きくなって…」

「――ふうん」

陛下は小人たちの話を聞かされても
何事にも動じず、落ち着いている。

夕鈴は夕鈴で、陛下が何を考えてるのかますます不思議になったりもしたけれど。

一通りの事情を聞いている間にも水位はいや増すばかり。
陛下の顎が、鼻が、水に浸りはじめた。

「ダメ。このままじゃ、ヘーカ!」

夕鈴はとっさに彼を片手で掬い上げた。
夕鈴の掌の上で陛下は水を飲んだのか、せき込みながらも夕鈴についての対策を講じている。

「君の言う通り
小人 たち の
逆譜弾きの 曲で、 
き み が
大きくなったのなら
小 人  を探して
元 通り に なる
音楽、を」

「音楽?」
夕鈴は掌にのった黎翔を顔に近づけ、陛下を見つめた。

「君の話のとおりなら
…カギは、小人の音楽では――?」

そのあと彼は苦しそうにせき込んだ。
カタカタと軽く肩が震えている様子が見て取れる。

(びしょ濡れで、体温が下がってる…
このままお風邪でも召されたら――)
夕鈴は泣きながら焦った。

「小人さんたちっ――出てきて!
助けて――」

夕鈴は必死に叫んだ。

夕鈴の鼻先にプカプカ浮いてきた甕の縁にもぞもぞと動く小さな…
「先生っ!
くしゃ李さんっつ、隠とぼけ、無事だったのね?」

甕の縁には、3人の小人がつかまっていた。
「おお。わしらは無事じゃぞい」

「…にしても妃たる者、そのようなガニ股で――全く気品というものがありませんねっ…っくっしょん!!」
水にぬれた前髪をかきあげながら、くしゃ李さんは盛大なくしゃみをした。

「今そういう状況じゃないだろってば」
ニシシと隠とぼけが笑う。

机の上にあった水差しが斜めに水面を漂ってきて
そこからも2人の小人が顔をだした。

「ねぼ水けさぁんっ
おこりん方!」

「池は嫌いではありませんが、私は魚ではありませんので
自分が泳ぐのはどうも…」
それでもふんわりとした笑顔のねぼ水家さん。

「…くそっ!貴様が流れそうになったから助けてやったのを忘れたか?」
おこりん方が彼をグイグイと押した。

夕鈴は5人の小人を指で掬い上げた。

小人を目の当たりにして、陛下は動じるどころか、
なぜか厳しい目つきで5人の小人たちをジロリと睨みつけた。

掌の上の上は濡れそぼった5人の小人と陛下が対峙し、今まさに冷たい嵐が吹き荒れた。
ねぼ水けがガクリと意識を失ったように夕鈴の手の上で伏せて固まった。

だが夕鈴はそれどころではない。

「…あと二人。
ごきげん殿!
でれすけ殿ぉっ」

プカプカ部屋中のものが浮かぶ政務室の中で
夕鈴は二人の小人を探して絶叫した。

*

(次回、最終回)

2016/4/22 拍手御礼


Fullむんっさま

拍手コメント、いつもありがとうございます。
お尻叩き李順さん役は無理でも…とのことで応援ありがとうございます

おかげさまで10/9のスパークスでSNSさんのコミュで企画してるアンソロへの参加と
本も若干委託受け入れしていただけそうなので
そのあたりを目指して頑張ってみようかと思っています。

某SNS内某コミュのほう、ほんとう温かく優しい方ばかりなので癒されて、萎えきってた萌え心や創作意欲もすこし元気になってきました
そんなわけでいろいろ甘えさせていただいちゃってます。
波及効果で
最近コミュのデジ絵隊に入ってムラムラとお絵描き気分が高まってきております。

…といっても。古い絵を掘り返してデジ絵加工で遊んだりするだけなんですけどね(笑

放置で錆びきってますけど、挿し絵受注もいただいたので
お絵描きもちょっと復活したいと思っております。

「ラビリンス」
カスカスに心が枯れきってたので、ネタがない。のでお題ったーを利用したところ
まあたぶん書く気するようなネタは振られないだろうなんて眉唾だったりもしたんですけど
いきなり一発で「書けそうな気がする」3つのお題と遭遇。

それでこれまた久しぶりにSS書いたら、
むくむく構想が膨らんで、短編では収まらなくなりそうに。

結局連載のGoサイン出しちゃったんですが、いろんな意味で「書けるかな」と不安でした。

続けてもいいのよみたいなコメもいただいたので尻馬に乗ってシリアスパートからいきなり7人の小人さんが出してみました。

この辺りでたぶん読み手さん二極化「あー、またこの人。ついてけない、さいならー」と思われるかなとは思ったりもしたんですけど
書きたいこと書くのが一番のリハビリかなと思って10回位でまとめてみようかと辛抱していただいております。

次の次で最終回です。

久しぶりに書けて楽しいなあと思ったら
途中、SSも浮かぶようになってきました。

精神的にちょっと一山超えたような気がします。

辺境のこの地にわざわざ足をお運びくださるみなさまの応援にいつも感謝です。

ありがとうございました。

 おりざ拝

SS何処も彼処も


こんばんは。気楽なSSです。

原作沿い・夫婦設定

*************
SS何処も彼処も
*************

うららかな昼下がり。
後宮の一室で妃が一人。

「――頭を冷やすのは…どっちよ!?」
誰もいない窓に向かって、ぶつぶつ愚痴を吐き出していたその途端、ひょこっと窓からぶら下がる影。

夕鈴は久しぶりに見たその笑顔に、ちょっとホッとしたものの、別の腹がおさまっていない様子だった。

「よー、お妃ちゃん、景気悪い顔しちゃって」

「なによ、そっちこそ。最近顔見せなかったくせに」

「わりぃわりい。ちょっとさ。用事を言いつかって外出てたもんで」

「ふうん――元気にしてたならいいけど」
夕鈴はプイッと他所を向いた。

「あー、元気元気。心配させちゃった?
それより、何。またへーかと喧嘩でもしたの?」

「喧嘩っていうか、ヘーカが一方的に」

「一方的?」

「たまたま官吏の一人が熱を出したから早退したいっていうから
どれどれって、いつもの調子でおでこに手を当てて熱を測ってあげたんだけど
たまたまその時にヘーカが通りがかっちゃって…」

それを聞いた途端、浩大は複雑な顔をして青ざめた。

「あーーーーー。
それは…


こっ・・・ええぇ~~~~」

「そうかしら?
浩大ったらちょっと大げさななんじゃない?」

「いやそれ、マジ、怖え状況だってば」

「そんなことないってば」

「なんでそんなヘーカ怒らすようなことするのさ。
お妃ちゃん、ヘーカのこと、怖くないの?」

「なんで怒るわけ?
一生懸命働いていらっしゃる官吏のみなさんの健康管理面を気にするのだって内助の功だし、それ以前に人間として病気の人の心配するのは当たり前のことでしょ?」

(はぁあああ…
いくら天然ってってもさー
そりゃ、へーかも気の毒だって)

浩大は盛大にため息をついた。

「よー。
じゃあお妃ちゃんさー
へーかのどこが好きなんだよー」

「そ、それは――
優しくて、強くて
私には勿体ないくらいで…」

浩大はあははと笑って

「そーじゃなくって、さ」

浩大の声だけが聞こえた。
クルリと窓枠を越え、すでに逃げの一手を打った彼の姿はなかった。

「陛下の
――手は、好き?」

「…手?」

――手…!?っ

その途端、彼の手に睦まじく触れられた感触を思いだし
夕鈴は真っ赤になってワナワナと震え出した――。

(おしまい)

*

ラビリンス(8)


こんにちは。

赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。

いよいよ青慎と再会――?


ラビリンス(8)

「…ヘーカに。会いたい
会って、謝りたい――」
夕鈴はグッと唇をかみしめ堪えるものの、そのうちヒックヒックと嗚咽がこぼれ始める。

「ちょっ、――ゆーりんっ!?」
でれすけ殿はギョッとして飛び上り、小人たちは慌てて夕鈴を取り囲む。
ごきげん殿は手をこまねいた様子で、彼女の周りをオロオロ歩き回るが夕鈴はますますしゃくりあげるように肩を揺らすばかり。

「ゆーりん、大丈夫?ここはぼくが」
「いや私が」
ごきげん殿とでれすけ殿が夕鈴の抱っこ権を争い小突き合いを始める。
ごきげん殿に抱っこされたままの夕鈴も二人の様子に思わず涙が引っ込む。

「ちょ、二人とも、止めてくださいっ!
私はちゃんと立てます、独りで大丈夫ですからっ――」

まさにその最中、家の外の木戸がギイイと軋む音が聞こえた。

ジャリ、ジャリと足音が家屋に向かって近づいてくる。

「…弟君、帰ってきちゃったんじゃなーい?」

隠とぼけの言葉に、あっという間に鋭い顔つきに戻ったごきげん殿。
警戒の色を深めサッと夕鈴をでれすけ殿から奪い取り抱きかかえた。

「…」
その人物は扉を開けようとガシャガシャ音を立てた。

ガラリと扉が引かれ、明朗な声で「ただいまー」と声がする。

青慎の声だ――。

「皆、いそいで甕へ戻れ!」
ごきげん殿の鋭い一声。
「あっ、ちょっ、青慎…!?」

7人の小人は今しがた出てきたばかりの迷路の出口、甕に向かってポンポンポーンと飛び込む。
夕鈴を両脇から抱えたごきげん殿とでれすけ殿、そして5人の小人たち全員が甕へと戻ったその途端、甕の口はすううっと暗くなる。あたりを見回すと、そこは暗い迷路に元通りだった。

「…ああ、青慎…!」
夕鈴は手を伸ばすが、もう汀家の懐かしい台所の様子は掻き消え、目の前には闇と迷路だけが広がっていた。

「…違ったのじゃろうか?」
先生が口火を切る。

「そのようですね」

はぁ…
とため息をついたくしゃ李さん。続いてくちゃん、と顔をゆがめたくしゃみ。
いかにも残念そうに、ハンカチを取り出し顔をぬぐう。

先生がチョコチョコと走り回り、先ほどまで甕の出口だった辺りを見て回る。
「だめじゃ、
完全に閉じてしまったわい」

「…え? 閉じたって、どういうこと?
青慎、帰ってきたんでしょ?
そこに居るのに。
会えなくてもいいから、様子だけでも見られないの?」

夕鈴はジタバタと手足を動かした。

「わしらではどうにもできん」
先生の言葉に夕鈴は納得できない様子だった。

「だって、せっかくここまで来たのに――」

夕鈴を抱きしめていたごきげん殿が応える。

「そう、せっかく来たけど。
たぶん『下町に帰って家族と会いたい』っていうのは
君の一番じゃなかった、ってことだ」

ごきげん殿は夕鈴を覗き込むように顔を近づけた。

端正な笑顔。陛下とそっくりな…
夕鈴の胸はまたもチクンと痛んだ。

でれすけ殿がぎゅーっと顔を摺り寄せてくるから
思わずその胸の痛みも遠のく。
ぎゅうぎゅうと二人を押し返しながら夕鈴は文句を言う。

「家族や、弟には会いたいですよ?
今だって、すぐそこに青慎が帰って来て
もう少しで会えたっていうのに――」

「会えなくて、残念?」
ごきげん殿の真面目な顔。
その表情も赤い狼の目まで何もかも怖い陛下にそっくりで、夕鈴の胸はドクンと音を立てる。

少々うろたえつつも気丈に応える夕鈴。
「それは…残念ですよ!」

「君の胸が痛む理由は、本当に、それ?」

「――え?」

夕鈴はドキリとした。

「――あーあ。
つまんね」
隠とぼけは頭の上で腕を組み辺りを見回した。

おこりん方は眉間にしわを寄せ、夕鈴に向かってブツブツと文句を言う。

「これで我々も解放されるかと思ったのに――
願いが幾つもあるなど…実に面倒くさい女だ!
付き合わされる身にもなれというのに」

「まあまあ、おこりん方」
ねぼ水けさんがとりなした。

「…どういうこと?」

「つまり、あなたはご家族と会えないから困っていたわけではない、ということです」

「…」
夕鈴はハッとした。

「家族には会いたいが、会えない。
だけどさらに深いところに、
あなたが困っている原因があるのではないでしょうか?」

「会えない原因?
私が困っていること?」

「ええ。何か思い当たることはありませんか?
あなたが大切にしていること、とか」

「大切に」

「あなたが一番大切だと思っている人とか」

「一番大切な、ひと…」

(陛下――!)

「…その御方のために、困っていらっしゃるのでは?」
狼陛下そっくりの“ごきげん殿”と小犬陛下そっくりの“でれすけ殿”の二人が
間近から自分をジッと見つめていることに夕鈴はハッと気が付いた。

「…っ!?」

夕鈴はボッと顔を赤らめた。

*

ラビリンス(7)


熊本地震で被災された皆様、眠れぬ夜をお過ごしの皆様のご無事と一刻も早い支援の到達をお祈り申し上げます。
赤十字 平成28年熊本地震災害義援金

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。

さて、下町におりた夕鈴と7人の小人たち。


ラビリンス(7)

シーンと静まり返った薄暗い台所。
小さな窓からわずかに差し込むのは、お昼過ぎのうららかな日差しだ。

夕鈴は甕の口からはい出し辺りを見回した。
小人たちはポンポンと次々に飛び降り、台所の棚の上から部屋の中を見下ろす。
ごきげん殿が「私が抱いて下まで連れてゆこうか」というから「冗談言ってないで、先に行ってください!」と背中をドンと押す。
続いて夕鈴も甕の口を伝い降りようと身を起こしたところ、手がツルっと滑り落ちかけた。
あわててでれすけ殿が抱きとめる。
「…ゆーりん、危ないから僕と一緒に行こうねー」
ぎゅうぎゅと抱きしめられて真っ赤になってしまう。
何とか甕の口から出てきた夕鈴。
「もうっ!一人で大丈夫ですっ!!」とでれすけ殿を突き放す。

彼女は大きく息を吸い込んだ。
懐かしい家の香りがする。
小人サイズの夕鈴にとって、それはとても新鮮な気分だった。

「家がこんなに広く感じたのは初めて」

仕事に出る父さんの背中を見送り、姉弟肩を寄せ合って慎ましく暮らしていた家。
清潔に保たれているようには見えるが、小さな夕鈴の視点ではどうしても細部がクローズアップされるから、あちこちくたびれた感じがするのは否めない。

「青慎はまだ学問所かしら?
もうすぐ帰る時間よね、早く会いたいわ」

夕鈴がつぶやくと、ごきげん殿がちょっと拗ねた表情をした。

「ゆーりんったら、本当に弟君のことが大好きなんだね」

「あたりまえでしょ、大事な弟なんですから!
ヘーカったら、何、やきもち妬いて…」

夕鈴はごきげん殿の方を振り返り、見返した。
その切れ長の赤い目にジッと見つめられ、夕鈴はフッと寂しさを感じ、不意に胸が痛んだ。

(そうだ。この人は小人さんで、へーかじゃない んだっけ…)

くしゃんっ!!
大きなくしゃみが響き渡り、夕鈴はビクッと肩を震わした。
後ろに居た李順さんのそっくりさんだ。“くしゃ李さん”は鼻をフキフキしながら夕鈴に向かって声をかける。

「いつ弟君は戻られると?」

「あ、はい。いつもなら夕刻前に戻るはずなので。
もうそろそろしたら」

「では我々も対策を練らねば」

「対策?」

「あなたの願いが家族に会いたいというのであるのは承知しています。
ですが、今もし弟君が帰ってこられ、小さくなった夕鈴殿や我々の姿を見たら、さぞかし驚かれるのでは?」

夕鈴はハッとわが身を顧みる。
(そうだっ、私、今、小人サイズだった――!)

今の姿で家族との再会というには、あまりにも無理がある。

(っていうか、会えないでしょ、こんな格好じゃ)

「じゃあ、早く元どおり大きく戻して頂戴」

「大変申し上げにくいことですが…我々願い叶え隊7人、小人業は長くしておりますが。
願い主が小さくなるという今回のようなケースには初めて遭遇いたしましたので」

「――え?」

老子そっくりの“先生”が懐から書を取り出してペラペラめくった。

「しかしまあ、古くはそういうケースもあったようじゃぞ?」

「さすが先生!やるじゃん!
で。どうしたらお妃ちゃんは元通りに戻れるのさ?」

浩大そっくりさんの“隠とぼけ”が横から尋ねる。

「かれこれ相当古い話のようじゃ。心配事で気鬱を病んでいた一人の願い主が、小人族と等しい身の丈まで小さくなったという話がこの書物には書かれておるが――どうやって戻ったかは書かれておらんなぁ…これはもう少し詳しく調べてみんと」

「はっ! まったく。このような自分勝手で面倒な妃など、放っておけばよいのだ」
方淵そっくりの“おこりん方”は相変わらず辛辣な物言い。

「ではその方法とやらが分かるまで、私はそろそろ疲れたからちょっと休もうかな」

ねぼ水けさんは端に掛けてあったお玉を見つけ、その丸い柄杓部にスイっとおさまると、居心地よさそうに丸まって静かな寝息を立て始めた。

「ええい、今、お妃の弟が帰ってきて我々を見て驚いたらどうするという話をしていたばかりではないかっ! 貴様は~~っ!」
おこりん方が吠える。

「そもそも、我々の7人の音楽を聞いて小さくなったのだから、もう一度音楽を聞かせたらどうじゃろうか?」
先生が言うので、みんなは懐から早速楽器を取り出した。
お玉の中で寝ていたねぼ水けさんも叩き起こされて、最初は渋々という感じだったけれども合奏をすると聞いた途端目がキラキラして嬉しそうに楽器を取り出した。

夕鈴は7人の小人にぐるりと周りを囲まれ、神妙に音楽に耳を傾けた。

~♪ ♪♪

みんなは楽しそうに演奏を続けるが一向に夕鈴に変化は現れない。

「もっと元気に演奏せんか、心を込めるんじゃ!」

いつまでたっても夕鈴は小人のままで、結局大きくも小さくもならなかった。

「――もしかして、逆をすればよいのではないでしょうか? っくしゃん!」
くしゃ李さんが思いついた。

「逆? どんなふうに?」
隠とぼけがとぼけたふうに尋ねる。

「おしまいから頭に向けて音譜を逆に演奏する、とか――?」

「…それで効果があるのか? はっ、そもそも曲にならんのではないか」
すぐさまおこりん方に突っ込まれ

「やってみなきゃわからないさ」
ねぼ水けさんが難しそうに顔をしかめた。

「どう逆にするのか…それが分かれば苦労はありませんが、やってみる価値はあるのでは? ――っくっしゃん!!」
くしゃ李さん。

「でもさー。そろそろ弟君、帰ってきちゃう時間じゃない?」
と隠とぼけ。さっさと自分の楽器の吹き口の手入れをして、片付け始めた。

「そうじゃな。そろそろタイムリミットじゃ」
先生も残念そう太鼓の撥をしまい始める。

「とりあえずはこのままの姿で、こっそり会って願いを叶えればよかろう!」
おこりん方は眉間にしわを寄せて、私を睨む。

「…だからどうして怒った口調なのよ!?」

「文句があるなら、さっさと願いを叶えて、我々を解放するんだな!」

「…解放?」

(なんて嫌味を言うのかしら)

7人の小人が頭を寄せ合って相談した結果、今すぐ私の体を戻す時間的余裕はないから、まずは「家族に会いたい」という願い事を叶えようということになった。
つまりこのまま家族が帰ってくるのをこっそり傍から見るということらしい。

「弟君にあえるの、楽しみだね」
でれすけ殿に小犬の笑顔で笑われた。

「うん」

その笑顔はあの人にそっくりで…夕鈴の胸はチクンと痛んだ。

(無理なこと言って困らせて
ケンカして陛下を傷つけて。

勝手に飛び出してきちゃった形になってしまった。
後宮から失踪だなんて、みんなに迷惑がいってないかしら?
私を心配して探したり、まさか今頃大事に―――)

せっかくこれから下町の家族に会えるというのに
嬉しいどころか
胸いっぱいの罪悪感で泣きたい気分になってきた。

夕鈴は思わずつぶやいた。

「…ヘーカに。会いたい
会って、謝りたい――」

*

ラビリンス(6)


しばらくお休みをいただき、再開に間があきすみませんでした。

診断メーカーの「1日1SSお題!!!」(https://shindanmaker.com/612794 ) より
「おりざさんは[失踪]と[音楽]と[勇者]でSSを書いてください!」で。

1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい
5)舞台は下町へ。


ラビリンス(6)

後宮の片隅の怪しげなツボから現れた7人の小人とともにツボに飛び込めば、そこは延々広がる迷路だった。
困っている人の願いを叶えるのが仕事という7人の小人たちとともに夕鈴は願いを叶える旅に出た。

狼陛下そっくりの小人さんと小犬陛下そっくりの小人さんに両側から手を繋がれ、ことあるごとにイチャイチャ攻撃を受ける現状は、本当の陛下とケンカ中の自分にとってなんともバツが悪い夕鈴であった。

「あなたたち、いい加減にしなさいっ!」
腕を振り切って必死に逃げれば、狼陛下そっくりの小人“ごきげん殿“はその様子が可愛すぎると嬉しそうに笑いますますご機嫌になるし、小犬陛下のそっくりの小人“でれすけ殿“はゆーりんったらそんなに照れなくてもいいのにとますますデレる始末。そんな二人を見ながら苦虫をかみつぶしたような顔をする李順さんそっくりの“くしゃ李さん“が大きなくしゃみとともに鼻を垂らし、浩大そっくりの“隠とぼけ“がひっひっひと笑う。
…自分の体が小さくなっていなければ、まるでいつものような風景だと錯覚してしまうほど。
小人たちは夕鈴のよく知る人たちとそっくりだった。

「どうして、みんなそんなに
私の知る世界の人たちと
そっくりなんですか?」
夕鈴は思わず口にした。

「それがわしら7人の小人の仕事じゃからよ」

張老子そっくりの小人“先生“の言葉は分かるようで分からない。

「そろそろのようですね、あちらが明るく見えてきました」
水月さんそっくりの“ねぼ水け“さんが指差す方を見れば、たしかにそれまで薄ぐらく延々と続いていたトンネルの先がぼんやりと明るく見えてきた。

「はあ、では私はこれで」
ねぼ水けさんが軽やかに手を振って立ち止まり、一人くるりと向きを変えようとしたとたん、方淵のそっくりさん“おこりん方“がねぼ水けさんの袖を引いた。
「貴様、どこへ行くつもりだ」
「目的地も見えて来たことですし、私はこれで少し休ませていただこうかと」
「相変わらずやる気のない奴だな。7人揃ってことに当たらねば、我々の仕事が果たせぬではないか!!」

「とにかく、こっちこっち!」

明るい方向目指して手を引かれ、7人の小人たちといつのまにか小走りになって夕鈴はドキドキしながらついて行った。

「見える?」

「ここかな?」
「ここだね!」
明かりの差し込んでいる出口はよく見ると甕(かめ)の口元のようだ。背丈の倍以上ある、高さを小人たちはぽーんと飛び上がり、口元から当たりを見回している。

「ゆーりんもおいでよ」
夕鈴はごきげん殿に手を引かれ、いきなり跳ねあがった。

「えっ、ちょ…」
戸惑っている間に、甕の口元にぶら下がっていた。

すすけた天井が高く見える。
薄暗い室内に差し込むくすんだ日差し。
スケール感はずいぶん違うが、見慣れた台所のまな板が見えた。

「…ここは?」
夕鈴は呆然と当たりを見回した。

「ここが、ゆーりんの願いの場所じゃないの?」
7人の小人たちの視線が夕鈴に集まった。

張りっぱなしになっている見慣れた暦。
たなに並んだいつも使っていた食器や保存食の樽。
少し離れたところに水場が見える。
あの刃がちびた包丁はいつも丁寧に研いでいたもの…。

「わたしの家?! ええっ!?」

*

[日記] にっき


こんにちは

このような侘しい辺境までご足労いただきすみません

先週は平日5日連続でアップして
週明け さあ来い、あれ?ジリジリ…という方もいらっさるのか?
やぶさかではございませんが、
今ちょっと小さめの山と雑務に囲まれて追い込まれてます
ごめんなさい

花見にうかれて浮上したのに
これでは溺死ですね
それも、スプラッシュなネズミ―ランドじゃなくて
静かにデキシーランド 
ジャズじゃなく、ここはシェイクスピアか
ああ、おふぃーりあ
哀れ、美しい歌から泥まみれの死の底へ引きずり下ろされるのですね

ああ、そんな美しくも悲しいシーンが目に浮かびますけどね
夕鈴…いやここは、陛下の方が似合うかも

いつか短編かければよいな。ネタ、メモメモ。
(とここに書いた時点でもう成就かも)笑

煩悩で悩殺中です

というわけで、
今日はラビリンスの続きアップは無理っぽいので
先にお詫びまで。

どうかみなさまお元気で…

ラビリンス(5)


とりあえず予約投稿で連載毎日続けられてホッとしました。
もしかしたら土日はお休みになるかもしれませんが、お許しください。

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1)SS→連載になってます。
2)原作沿い→パラレルファンタジー
3)登場するオリキャラ?
<ツボから現れた7人の小人>
・先生:いわゆる老子のそっくり小人さん
・ごきげん殿:ごきげん度のオンオフが激しい狼陛下のそっくり小人さん
・くしゃ李さん: くしゃみをする李順のそっくり小人さん
・おこりん方(ぼう):おこりんぼうの柳方淵のそっくり小人さん
・ねぼ水(す)け:デフォルトで無気力な氾水月のそっくり小人さん
・隠(おん)とぼけ:とぼけた隠密浩大のそっくり小人さん
・でれすけ殿:でれてる小犬陛下のそっくり小人さん
4)夕鈴も、小っさい


ラビリンス(5)

後宮の片隅におかれていた怪しげなツボ。

何かの気配がすると思って引っ張りだせば、
それは7人の小人さんたちだった。

小人さんたちの合奏を聞きながらウトウトしているうちに
いつのまにか私の体は小さくなってしまっていたらしい。

お昼ごはんの知らせを聞き、慌てて人目を避けて隠れようとした途端、
7人の小人さんたちは私をつれて再びツボに飛び込んだ!

ツボだと思っていたのに、中は真っ暗で、徐々に目が慣れてくるとそこは広い迷路だった。
入り組んだ迷路は先へ先へとつながっており、細長くクネクネと折れ曲がってたくさんの岐路へ枝分かれをしている。

トンネルの中を、私たちは一列に進んでいた。

「どこ、行くの?」

「君の望むままに」
狼陛下そっくりの小人、ごきげん殿はにこっと笑い、繋いでいた私の手をきゅっと握り締めた。

「ちょっと、今そういう冗談言ってる場合じゃなくて…」

「冗談じゃないよ、ぼくたちみんなで、君の行きたいところに連れてくから」
今度は反対の手をぎゅぎゅっと握られて、あまつさえ脇から密着してくる小犬陛下そっくりのでれすけ殿。

私は両手をごきげん殿とでれすけ殿に各々引っ張られ
狭い通路がますます狭くて歩きにくい。

「…あの。ひとつお願いが」

「なあに?」でれすけ殿。
「なんだ?」ごきげん殿。
二人はシンクロして私を覗き込む。

「愛しい君からのたっての願いとは?」

両側から4つの紅い瞳に見つめられ、ドギマギしながらも
私ははっきりと自分の意見を言うしかない、と思った。

「あの、――手を離してください」

「え?」
拍子抜けをした二人は、慌てふためいた。

「一人で歩けますので――っていうか、両手繋がれると歩きにくいっていうか…」

「では抱っこしよう」

「ごきげん、それはぼくの役目だよ」

「いえ、でれすけ兄上より私の方が適任かと」

「そんなことないよー。ゆーりんはぼくのおよめさんなんだからー」

「いつ誰が誰のお嫁さんに?」

「え、だって! そういう設定なんでしょ?」

「何の設定なんですか?」
とにかくあの陛下が二人になったようなものだから、口を挟むのも大変だ。

「だから、小人の言い伝えの…」

「それを言うなら、夕鈴は私のお嫁さんでは!」

「もぉお~、なんでもいいから!
とにかくっ、手を離すっ!!」

私は叫び、二人から手を振りほどくと
カニ走りで横っ飛びにすっ飛んだ。

その様子をみて、
「――ぷっ!」と吹き出した二人。

「…いまっ見た?」
「見た見た!」
「すっごい変な顔して横っ飛び…かっ、かわいい~っ!!」
「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

このあと二人は腹を抱えて大笑いが止まらなくなってしまったので
寸刻の休憩をとることになった。

「ここでしばらく、休みましょう…っくしゃん!!」
メガネをかけた小人のくしゃ李さんが、テキパキと指示をだしてくれた。

「はぁ…」
腰をおろしながら、ため息をついた。
いろいろ奇想天外なことが続いたけど、案外順応性が高い自分に驚いている。

「お疲れでしょう?」
お茶を優美に差し出す、水月さんそっくりのねぼ水けさん。

「…ありがとうございます」
お茶たくをうけとり、口許に運び、コクリと飲み下す。

「…美味しい」

「それは、ありがとうございます」
ふわりと笑うねぼ水けさん。

「そもそも何があったのですか?」
くしゃ李さんが私に向かって問いただす。

「は?」

メガネをクイッと指で押しながら、くしゃ李さんに真正面から質問されると、ついついこちらも背筋がビシッとなってしまう。

「我々小人族は困っている人の願いに引き寄せられるのです。
…あなた、何か相当困っているのでしょう?」

「…困ってるっていうか――」

「宜しかったら、そのあたり詳しくうかがえませんか」

「…はい」

李順さんそっくりの小人さんに尋ねられれば
気分はアルバイト妃の頃のようになって
素直になにもかも洗いざらい報告せざるをえなかった。

「――なるほど。
そういういきさつがあっ――へっ へっ へっくしゃんっ!!」
くしゃ李さんの豪快なくしゃみがさく裂した。

私が話すあいだ、すでに27回のくしゃみが放たれたが、今回のが一番大きかった。

くしゃ李さんがずびーっと鼻をかむ間、
(普段いつも端正にしている李順さんも、プライベートな時間ではもしかして
こんなふうに顔くしゃくしゃにして鼻をかんだりするんだろうか、などと想像してしまう。

「…つまり、陛下とけんかをなさったと…。
なんと恐ろしいことを」

青ざめ、魂が抜けかける水月さんそっくりのねぼ水(す)けさん。

「恐ろしい? 陛下は怖くはないですよ…というか、
そんなお顔をさせてしまった私の方が悪いんです」

「いーや、あの人怒らすなんてそんな怖ろしいこと
お妃ちゃんしかできねーことだよー?
相変わらず、大物だなぁ」

「怖すぎます
…わたし。そろそろ帰っていいですか?
早退します」
ねぼ水けさんは、いまにも倒れそうな顔つきで早退を願い出た。

「貴様、早退するとは何事だ!」
眉間にしわをよせた方淵そっくりのおこりん方(ぼう)がギリっとにらみつける。

「や、でもさー。仕事だろ?
困ってる人を助けて願いをかなえるために、オレら小人族がいるんだからさー。
ちゃーんとお妃ちゃんの願いを叶えないうちは7人の小人はどこにも行けないし。
当然、早退もできないヨ?」

浩大そっくりの隠とぼけが、とぼけた口調でいなした。

「え? 私の願いを叶えないと、どこにも行けない?」
私は問い返した。

「まっ、そーゆーことになるなー」

老子そっくりの小人、先生が話をまとめた。
「つまり、わしらは『願い叶え隊』で、
困っている人の願いに呼ばれ、引き寄せられるんじゃ」

「それで、私のところに?
みんなは私の願いを叶えに来たの?」

「そういうことになるのう」

「そう言うわけじゃから。じゃあ早速働くとするか!」


はーいよー♪

張老子もとい“先生”が大声を張り上げた。

すると、みんなが

♪は~~いよぉ~~♪
と応える。

そこから合奏と合唱が始まった。

♪はいよー
はいよー
仕事が好き~~♪

「♪仕事、は…だめ…」
ねぼ水けさんは、フラフラっと通路の隅に引きこもった。
小さくつぶやいたねぼ水けさんに、おこりん方のハリセンが飛んだ。

「ねぼ水け!
現実逃避せず、
貴様も力いっぱい働かんか!」

おこりん方が、ねぼ水けさんの背中を再びハリセンでバシバシ叩いた。

ハリセンでシバかれるねぼ水けさんに同情してしまう。
と同時に
(あんなに大きなハリセン、いったいどこから出したんだろう)
と疑問を持った。
「けどま、いっか」←

「おい、ねぼ水け、行くぞ!」
おこりん方にずるずる引きずられるように立ち上がるねぼ水けさん…。
私のために無理やり働かせてしまって、ちょっとかわいそうな気もする。

一向はふたたび迷路の先へ先へと進み始めた。

(でもなぜいつの間に?)
こんどはでれすけ殿に抱っこされている自分に気が付いて
再び愕然としてしまう。

「でれすけ兄上、お疲れでしょう。私が変わろう」

「大丈夫だよ」

「いや、ずいぶんと足元もおぼつかないが…」

そういわれてみると、でれすけ殿はデレデレしてるのか、左右に揺れながらふわりふわりとした感じがある。

「そんなこと言っても、代わってあげないよーだ」

「ケンカしないでください!
降ろしてください、私自分で歩きますからっ!」

「いいから」
「いいから」

(へーか…
言いくるめられるのは、いつも一緒。
暖かいへーかの手を私には拒めるわけなんて、ないんだから…)

しんみりして陛下の腕を思いだした途端、
ふと別の考えが頭に浮かんだ。

(って、これ。浮気とか言われる?)
私はギョッとして、でれすけ殿、ごきげん殿の二人を、慌ててキョロキョロ
見回した。

そのとたん、先生が大声で叫んだ。

「おぬしの願い、叶えてしんぜよう。
行く先に路は開かれん。
いざゆかん、下町の旅!」

*