狼のーかの花嫁(30)最終回

こんばんは。
最終回です。

ギャグでパロディでファンタジーで、
ほかにもいろいろ踏み外して難点はありますが
細かい事は気にしない、そんなあなたに贈ります。

勝負の結末は―――?

【現パラ】【パロディ】【ファンタジー】【最後は甘く〆?】
(ちょっと長いです。もし、エピローグまで見られない方いらしたらお知らせください)

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(30)最終回
* * * * * * *

評議員と陛下との一対一の真っ向勝負。
一の勝負は「形」

クワっと両眼を見開いた柳大臣は
「はああああああああぁぁぁぁっ!!」と大声を上げ、全身全霊をかけた一撃を繰りだした。

ゴゴウと大地が唸り声をあげ、評議上の中央の舞台を中心に、すさまじい圧力が生まれる。

柳義広大臣の体全体から緑色の靄が立ちのぼり、束ねられた緑の靄は眩しいほどの光となって陛下の手にあったカボチャへと一直線へと走った――

勝負は一瞬だった。

「じゃぁあぁんむぅっ けぇぇーん ぽぉおぉぉぉぉぉ~~~っ」
ゴゴゴゴゴゴゴ…
鬼気迫る気迫と共に打ち出された
柳大臣の拳は、グー

一方
真っ向から受け止める陛下は左の手は、パー

夕鈴(ウサギ姿)は、顎が外れたように、ポカーンとした。

(―――えっ?
えっ?
なに、
まさかの
ジャンケンポン―――?)

鬼瓦のように顔をゆがめた柳義広が、スローモーションのように床に崩れ落ちた。

「ぐぐぅ…
さすがは陛下にございますな」

「いや、さすがは柳大臣。
素晴らしい一撃だった――」

「ははぁあっ!
有難きお言葉」

辺りにはキラキラと木漏れ日のように大地からの祝福が降り注ぎ、人々は大きく深呼吸をし、大きなため息を吐き出した

陛下の身を案じ『さぞ壮絶な戦いになるのだろう』と覚悟し固唾をのんで見守っていた夕鈴は、あまりにあっけなく「グーにはパー」で勝負がついた試合を目の当たりにして、二の句が継げない。

柳大臣の体からほとばしった緑色の光は魔カボチャに命中したが、それは陛下の魔カボチャに何ら影響を与えることなくはじけるように雲散霧消していった。

膨大な大地のエネルギーは散り散りになり、評議会議場となっているドーム天井に反射してキラキラと木漏れ日のように降り注ぐ。

「一の勝負、珀 黎翔陛下の、勝ち」

周康蓮がモニターに大写しになり、陛下の勝ちを宣言した。

客電が入ると場内が明るくなり、場内アナウンスが流れる。

『ただいまより、10分間の休憩を戴きます。どうかチャンネルはそのままで、引き続き試合をお楽しみください―――』

人々のざわめきが戻ってきた。
戦い内容を互いに解説試合、拳を振るって説明をしあう興奮した声。

そんな周囲の反応は、ちっともピンとこなかった夕鈴にも
『何となくすごかった』と感じさせる。

(じゃあ、素人目には分からなかったけど、あの今のって、実はすごい戦いだったわけ?ただのジャンケンにしか見えなかったけど――)

瑠霞姫がフフと笑って、つぶやいた。

「お見事だこと。
柳大臣の邪無拳法(じゃむけんぽう)…よく練り上げられた熟練の大技をここで見られるとは思わなかったわ。
悪の力を用いる邪な魔法使いには、あの柳大臣の拳は受け止めきれなかったことでしょう。だけど、やはり陛下の魔力の方が一枚上手だったようね。
…さすが兄上の子」

瑠霞姫、解説、ありがとうございます。

(にしても、なにかしら。
あたり一面、森の香りが…?)ウサギの夕鈴がクンクンと鼻を鳴らすと

「うふふ、なんて素敵な森の香りなのかしら。
柳大臣は土と緑の魔法を使いこなす第一人者。その術を打ち破ったときには大地の恵みが広がるの」

(へぇ…)

「この国で今年収穫されたランタンカボチャに、その恩恵は届くのよ…。
この議場の真下には広大な地下倉庫があって、そこに今年収穫された全ての退魔カボチャが集められているのだから」

(ランタンカボチャに?)

「そう。魔法は大地から生まれるエネルギーだから♪」

魔法というのは何かしら奥深いものだと夕鈴は思った。
きょろきょろしながらフンフン夕鈴が鼻をならすと
「ああん、くすぐったいわぁ、夕鈴ちゃん♪」と瑠霞姫が甘い声を出すものだから、思わず夕鈴は赤面して首をすくめた。

「でも、ちょっとあっけなさ過ぎたかしら。過去の公開評議にはもっと見どころはあったと聞いているわ。先制攻撃で相手の力量を見極め(さいしょはグー)、続く第二波(ジャンケンポン)、第三波(あいこでしょ)と交わしあうものだと聞いていたけれども…
そんなファンサービスとか、あの子ったらお構いなしね」
瑠霞姫はコロコロと笑い転げた。
「何を焦っているのかしら? ねえ…ウサギちゃん?」
瑠霞姫はウサギ姿の夕鈴を構い、頭や耳の付け根に指を這わせ、毛の流れに沿ってスルスルと撫でる。

(―――?)
瑠霞姫は何をいいたいのだろう?
と、夕鈴が疑問に思ったとき

「それにしても…まあ、それにこれはまた清らかなフィトンチッド・ミストシャワーだこと」と瑠霞姫は話題をそらし「ねえ、そう思いませんこと?」と振り向きながら後ろに群がる少女たちに声をかけた。
その中でも感極まり涙を流しながら惜しげもなく拍手を送っていた一人の少女が立ち上がった。

「瑠霞姫様、ほんとうに。陛下の御技は素晴らしいものでした!
なんという美肌効果でございましょう!効き目抜群の恩恵を民に分け隔てなく与えるとは―――私、感動しておりますっ!
マイナスイオン効果のおかげで、執筆で溜まった疲れまで癒されていくようですわ♪」

鈴を鳴らすように美しい声の主は―――
(…紅珠!?)
夕鈴は、今の今まで、気が付かなかった。
(方淵の温室で、1つ目のカボチャの種を育てる時に紹介された、水月さんの妹さんじゃない――)

「執筆?
あら紅珠。あなた、何か書きものをされるの?」

「ええ、先日、私陛下のお妃様にお会いする栄誉を賜りましたの…それからもう、寝ても覚めても素晴らしいお二人の愛について考えずにはおれなくて―――それでつい。このような巻物をしたためておりますの」

(…えっ?!)
瑠霞姫に抱きしめられているウサギ姿の夕鈴はぎょっとした。

紅珠は頬染めて、そっと袖の下から巻物を取り出した。

「…勿論、他愛のないわたくしの想像の産物なのですけれども」

はらり、と巻物をほどかれ中を見せられる。
あわてて目で文章を追った夕鈴は次第に青ざめていった―――

それはモデルが非常に分かりやすいある青年と少女の物語の話のようで…
(ひえーーーー?!)
紅珠が差し出した巻物を、後ろから令嬢たちが我も我もと身を乗り出して覗き込んだ。
「まああっ、紅珠さま!
わたくしにも読ませてくださいません?」
「まだ本当にさわりだけなのですけれども…宜しいかしら?」
「ええっ!」
「是非、読ませてくださいませっ!!」
令嬢の間で引っ張りだこで巻物はあっという間にあたりに一大センセーションを巻き起こす。

(ギャぁぁぁぁぁぁ…!!)

夕鈴の叫びは誰にも届かなかった。
紅珠の作家活動がこの日を境に大プロジェクトへ発展していくなど…この時どうして知り得ることができたであろう…

さて、そうこうしているうちに、場内に予鈴が鳴り響いた。
再び場内アナウンスが入る。
「大変長らく御待たせいたしました。間もなく二の勝負が始まります。どなたさまもお席へお戻りください―――」

紅珠作品の回し読みはアナウンスを機に一旦区切りが付けられたようだったが、夕鈴は穴を掘って潜りたい気分であった。

先ほどよりは若干目の下の隈が薄らぎ、やや健康的になった(?)周康蓮がモニターに大写しになると、あたりは水を打ったように静まり返った。

下手の評議員席の優し気な男性をカメラが捉える。
氾史晴大臣、とスクリーンいっぱいに顔が映し出されると、一部熟年女性からきゃあアーと黄色い声が上がった。

「ふふ、さすが氾大臣。女性に人気だわね。
あの優しげなマスクの下に隠されてる恐ろしさも知らず――」意味深な瑠霞姫の言葉に夕鈴は首をひねる。

周大臣が「宜しいか」と対戦両者に声をかければどちらもうなづく。
周康蓮が声を張り上げ(でもボソボソ)宣言した。

「これより、二の勝負。色つやの審議、はじめ」

「お父様! がんばって」
手を祈るように重ね、紅珠がおもわず立ち上がる。

氾史晴は、評議員席の手すりに優雅に手をついたまま微笑んでいた。

「色ツヤは魔法の影響力…攻撃力、と言っても良いかしら。
同じ魔力でも効き目のあるなしが分かれる大切な要素よ。
国の中でも一二を争う実力者同士の対決―――さあ、どうでるか」
と瑠霞姫の言葉に、夕鈴はハッとなった。

「これはこれは陛下、ご機嫌麗しく――」

「…構わぬ、こい」

黎翔がジロリと睨みつける。
ああ、またなんと愛想のない…と思いながらも氾史晴は笑いながら指先をダランと下げ、寂しそうなそぶりで微笑みながら会場に流し目を垂れまくる。

きゃあああああと熟女たちが叫び、バタバタと卒倒するものまで出始めた…。

「氾史晴…やっぱり食えない大臣だこと。
まだまだ衰えない男の色香は、さすがね」
…でも私はダーリン一筋なの、うふふ、と瑠霞姫はウサギの夕鈴にチュッと軽くキスを落とす。

夕鈴は訳も分からず赤面するばかり。

「では、遠慮なく―――」氾が先に仕掛けた。

シュッと氾大臣の指先から何かがほとばしった。

狼陛下は意にも介さぬように、微動だにしなかった。
美しい陛下の頬に、一筋の赤い筋がでて、そこから血がつつぅとにじんだ…

(――え? 陛下、お怪我っ!?)
夕鈴は蒼白になって、じたばたした。

「夕鈴ちゃん、慌てないで。あれは――水」

(水?)
夕鈴は瑠霞姫を見上げる。

「氾は――水を操る魔法使い…。まさかそれ位で済むはず、ないわよね?」
瑠霞姫がゴクリと喉鳴らすと、氾史晴は爽やかに目を細め、端正な指先をくるりと回し、両腕を優美に大きく広げた。
あたかも極上の音楽で舞うがごとく、その指先からあふれ出たのは、水の奔流。
何万トンという水量の水が天井から、床から、ありとあらゆる方向から吹きだし、観客はわぁわぁと声をあげ逃げ惑う。議場はあっという間に水没しそうな勢いだ。

「いかがですか? 陛下―――」

観客席は水浸し。水に足を攫われ溺れる者、アップアップとあえぐもので辺りは阿鼻叫喚の様相を呈していた。
史晴はあたりの惨状など気にとめる様子もなく、他人事のように、ただ少しだけ寂しそうに笑った。

「お前のことだ。議場を水没させることを楽しむだけが趣向でもあるまい?」
狼陛下が睨み返すと

「ははは、お見通しですかね。では…」
と今度は指先を翻すと、水の中から大きな水龍が現れた。

大きな口を開け、黎翔に襲い掛かる水龍。

「あっ、陛下ぁあああつ―――!」

思わず夕鈴が叫んだ瞬間、黎翔がおもむろに手で制すと、水龍は狼陛下に従って動きを止めた。
そのままギンっ、と音がするほど水龍を睨みつける。

睨む、という行為に、これほどまでの威力があろうとは―――

まるで陛下の眼から光線が発射されたかとみえるほどの勢いだった。
世に云う「他を威圧し屈服従させる狼陛下の眼光」はウワサ以上の圧巻ぶりであった。

水龍は凍り付き、ほとばしる水流もそのまま氷柱オブジェと化し、議場の内部は美しくも冷たい氷の装飾で彩られた――

「こんどはこちらからも行くぞ」
フッと片方の口角をあげた狼陛下は、腕を一薙ぎした。
ガラガラガラ…と氷柱は次々砕かれ、辺り一面粉砕された氷の粒が吹雪のように巻き上がった。圧縮された冷気が一気に爆発し、耳をつんざく爆音とブリザードが一面吹き荒れ、全てのものが凍り付いた。
「れ、冷凍ビーム?!」
VIP席は観客席の一番上のバルコニー席だったので運よく氷漬けにはならなかったものの、議場の気温は氷点下。
観客席の半分の民はカチンコチンに凍り付いている。残りの半分はシャーベット並みに凍っていた。

瑠霞姫は健在で、あたりの毛皮を掻きよせ、ウサギの夕鈴ごとぎゅっと抱きしめ暖をとった。

「…氾、観念しろ」
氾の指先までも凍らせ、身動きを取れなくしたあげく、
狼陛下はフワリと飛び上ると、氾史晴の肩を軽くトンとつま先で触れた。

その途端、氾史晴は氷の破片となって砕け散った。

「―――おっ、お父様ぁああああ!?」
絹を引き裂くように紅珠が叫んだ

「勝負、あり!」
周康蓮の声が響く。

「…なんだ。つまらん」

狼陛下はため息をついて今度はマントを翻した。

毛皮で縁取られたマントの端から炎の奔流が生まれ、
あたりは火で舐めつくされ、あっというまに氷は解け、蒸発した。

――それなのに、誰一人として傷ついてなどいなかった。

砕け散った氾史晴の氷片は、水にもどると表面張力で床の上で盛り上がり、繋がり、その中からにょきにょきと透き通った人の形が再生する
――氾史晴はものの数分もたたぬうちに、元の姿に戻った。

「お父様…よかった」紅珠は安堵の吐息を漏らした。

「おやおや…これくらいでは歯が立ちませんでしたね。
しかし浄化された清い水は、地下のランタンカボチャにとってさぞ恵みの甘露となりましょう…」

氾史晴はフフフと笑う。

「お前にしては遠慮がちだったな―――」

それまでの硬い表情を一瞬崩し、笑って見せる狼陛下。

その笑顔に、夕鈴はメロメロになった。
…が背後の令嬢たちも同様だったため、黄色でかしましい声が盛り上がり、正直夕鈴は面白くなかった。

「水、氷、炎、そして大地の緑――
―攻撃も防御も、陛下にかなう者はおりますまい。どの属性であれ、陛下のお力は超一級品でございますな」

「いや、まだ一つ。残っている属性があるはずだが――」
柳大臣が横から重い口を開いた。

(もしかして、もう一つの属性、というのが、もう一人の対戦相手?
ということは、いよいよ三番目の評議委員の登場――?)

「あら、なかなか鋭いわね、夕鈴ちゃん」
瑠霞姫の声に、夕鈴はハッとなった。

(もしかして、もう一人は ――周大臣?)

と夕鈴が思った途端、
夕鈴を抱えたまま、瑠霞姫がフワリと浮き上がった。

「ホホホホ…は・ず・れ♪」

そのまま瑠霞姫はシルフィードの精のように風と戯れ、議場の真ん中までひとっ跳びで移動したのだった。

場内アナウンスが鳴り響く。
「まさに天かけるつむじ風、瑠霞姫。
珀黎翔の叔母君にして白陽国の宝石と間で誉れ高き美魔女。
…さあ、注目の三の勝負の行方やいかに――!?」

舞台の最後の一つ、中央の評議員席に収まると、瑠霞姫は妖艶に手すりにもたれかかった。
その胸元には金色ウサギ(夕鈴)が胸の谷間で圧死寸前だった(←)

「さあ、陛下。最後は、私がお相手よ?」

(るか、ひめ――?!)
夕鈴は彼女の胸に抱かれながら大混乱に落ちいった。

「三の勝負は、大きさ――あなたの器の大きさ、見せていただいてよ?
よくって? …それとも、少し休憩が必要かしら?
もちろん、その間にこの可愛いウサギちゃんが窒息しちゃうかもしれないけど――」

「その必要は、ない」
陛下は、瑠霞姫の胸に抱かれたウサギを見つめギリっと歯ぎしりをした。
「夕鈴を離せ――!」

(へい、か? 私って、分かるの?)
ウサギの姿でも分かってもらえるのは嬉しかった。
…でも陛下にとって自分が足手まといになっている状況に、夕鈴は泣きたい気持ちだった。

「じゃあ、さっそく好いコト、しましょう?
甥っ子の君。あなたが負けたら――あそこの席にいるご令嬢たちとお見合いをしていだだくつもりよ、わたくし」

(…瑠霞姫、陛下の、おば、さん?
わたし、へーかの身内に、ダメ出しされたってわけ?
釣り合いがとれないから…私じゃだめだから――
へーかには相応しい れいじょうを… )

夕鈴は今になって初めて瑠霞姫の考えを知り、まるで騙されたような気分になり悲しくなってしまった…。

瑠霞姫がカラかうような口調でコロコロを笑うのを遮り、
狼陛下は「周、はじめよ」と低い声で命を下した。

周康蓮が素早く「三の勝負、はじめ」と行司を振りかざす。

会場の大型モニターに瑠霞姫と珀黎翔陛下の麗しいドアップが映し出されるや、むっふぁああ…と訳の分からぬ声が辺りから上がり悶死寸前の観客まで出る始末(?)

そんなゆうちょうな観客を放っておいて始まった二人の戦い。

風の精霊を従えた風使いの瑠霞姫は、豹のかぎづめのような切れ味のカマイタチを繰りだし、狼陛下を追い詰める。自由自在に気体を圧縮する能力はすさまじく、真空から空気の大膨張!鼓膜が破れるかとおもったほど、荒っぽい魔法が次々繰り出される。

さすがに血筋は争えず、
瑠霞姫の魔力も大したものだった。

そのうえウサギの夕鈴を人質にとられている陛下は、防御も、反撃もしなかったのだ――

(あのお強い陛下が…)
夕鈴は眼をうたがった。

(せめて、防御だけでも――)

一方的な瑠霞姫の攻撃は執拗で、豹のドレスの裾が風に舞うたびに、陛下は打ちのめされ切り裂かれた。

「このように何も持たぬ者よりも。
容姿、血筋、教養、どれをとっても最高の、王にとって相応しい相手がよりどりみどりで
今直ぐにでも手に入るというのに――強情だこと」

何の反撃もせず、一方的にやられる陛下。

(わたしが、人質だから――?)
夕鈴の目には涙がいっぱいたまって、視界がボケていた
(お願い、陛下。私の事は気にしないで…
闘って!)

その時、瑠霞姫の強靭な一撃がまた陛下に命中し、陛下は大きく跳ね飛ばされた。

(瑠霞姫、やめて――っ!)
…だが瑠霞姫のしなやかな身ごなしに振り回されながらも、一瞬、会場の真ん中の席に佇む、ある人物たちが目に入ったのだ。

(――方淵、と、水月、さん?)

ウサギの夕鈴に、声は出せない。
キュウー、くっ、くっ、という押し殺した小さな鳴き声くらいでは、広い議場を観戦している人々の大歓声にかき消され、助けを求めたくても声を届けることができなかった――その時、夕鈴の涙にひゅっと引かれて、何かが顔にへばりついた。

ピンクの卵大の大きさのそれには、
にょろにょろと8本の足が生えて、吸盤で吸い付いついていた。

(…まさか。この子、水月さんの…)
ウサギの視界はとっても不便なのであるが、この感触と吸盤の形には見覚えが…

(やっぱり、タコのチューちゃん!!)

夕鈴は、こんな場所でこんな状況にもかかわらず
いけすラボで出会った、水月さんのペットのチューちゃんと再会を果たすことができて、なんだかとても嬉しかった。
夕鈴の涙に、吸い付いて水分補給をしているのだ。
(そうか、タコは海水の生物だから、チューちゃんも塩味が好きみたい…?)

その時、瑠霞姫がタコのチューちゃんの存在に気が付いた。
「キャーっ!?」
ブンブンと体を振り払い、気が狂ったように瑠霞姫は飛び回った。

「わっ、わ、わたくしの、胸の谷間に、エビルでデビルなっ…!」

瑠霞姫の一払いが、タコのチューちゃんと、金色ウサギの夕鈴を
空中へと投げ飛ばした。

狼陛下はその瞬間を見逃さなかった。
空中に跳ね飛ばされた夕鈴を一目散に追いかけ、手をのばし…

陛下の指が触れたとたん
夕鈴に掛けられていた瑠霞姫の魔法が、とけた――。

空中で、夕鈴は生まれたままの姿にもどり

「…うっ、 ぎゃぁあああああああああ~~~~!!!!!」

と頭から火山が噴火したような奇声を張り上げる彼女の姿は
あられもなく、万民の前にさらされ
……

狼陛下は
―― ついに、キれた。

その時、議場にしつらえられた、壮大なコニーデ山の頂上にあった魔カボチャが一気に膨張した。
陛下と夕鈴が育てた魔カボチャは、
議場のドームをはるかにしのぐサイズまでむくむく巨大化すると
議場の天井を吹き飛ばし、それでも足りずにまだ巨大化し、

――噴火した。

その日のことは
誰も記憶が定かではない

ただ、分かっていることといえば。

議場の地下に集められた退魔カボチャは稀に見る豊穣の祝福を浴びたこと。

そのおかげで美味しく美味しく生まれ変わった退魔カボチャは、過去お目にかかったことがないほどの最高級品だったという。

仕上がった白陽ランタンカボチャはその後全世界に出荷され、富と名誉を、白陽国にもたらしたということ。

そんな状況下にもかかわらず、記憶を全て失わず断片的に残すに至った
氾紅珠という稀な存在がいたこと―――。

とある青年と少女の真の愛の姿に感動したという彼女は
この時の様子を、彼女の空想と妄想で練り上げ、世に送り出し
大ベストセラー作家となった。

狼陛下21歳。

大豊作の年。

白陽国の農家のみならず
陛下にとっても豊穣の年となった、という――。

* * * * * * *
エピローグ
* * * * * * *

「だから、だからっ!」

「ウサギは服、着ないし」

「――だから、だからぁあっ!!」

「うん、狼も。
服なんて着ないよ?」

だから…って。
裸で抱き合って――

「いいんじゃない?
だって、ゆーりん。
のーかの花嫁、だし」

陛下がニッコリ笑うと
もう何もいえなくて

「君がみつけてくれた魔カボチャのおかげで
魔力の影響なく、君と一緒に居られるし…」

狼陛下は、彼女に感謝の口づけを贈った。

「ほら。魔カボチャに魔力を預けてる間、
ぼくは、普通の、ひと、でしょ?」

「ふ、ふつうの人、とかじゃ…ありませんよ」

「普通じゃない?」

黎翔は眉をしかめた。

「へーかは魔力がなくても。
…私の好きな、
特別なひと、です」

「よかった。
それならこのまま
…君を愛せる」

ギュッとだきしめられて
口づけを落されて
じたばたしようとしても、やっぱり身動きとれないほどで
押したおされたまま夕鈴はメロメロになって、
降ってくる陛下の口づけを受け止めた。

これは、夕鈴が迷い込んだ不思議な国で
陛下のためにカボチャをみつけて、育てたお話し。

魔カボチャのおかげで

二人は
とっても幸せになりましたとさ――。

めでたし、めでたし!

*


9 thoughts on “狼のーかの花嫁(30)最終回

  1. 最終回・・・昨日と同じこのページのスマホを握りしめて寝落ちしてました。2日続けてってどうよ・・・クスン。
    私も柳大臣のマイナスイオンを浴びてリフレッシュしたい!柳大臣がどんな風に戦ったか、私も想像して笑いました。
    そして、タコのチューちゃん。いい仕事しますね。どうせなら瑠霞姫の胸に吸い付けばよかったのに・・・。しかし、生まれたままの姿でボンッと現れて・・・陛下の切れっぷりはさぞかし・・・。
    まぁ、最後はいちゃいちゃな二人でめでたしめでたし。
    連載お疲れ様でした~。

    • 癒しのマイナスイオンミストがカタブツの柳大臣から発生しているところがとっても…。(笑)
      タコのチューちゃん、頑張りました。
      脚とか胸とかナイスバディに吸い付いてもいいかなーとはおもったんですが、カテゴリーがアダルトに昇格するのも何なので(何フェチなのやら)可愛らしくサラッとご活躍いただきました(笑)
      陛下は、強大な魔法の器の大きさを世に示しながらも、こと夕鈴に関しては「男として」の器の小ささを露呈してしまいましたー。
      もうそれは切れまくりだったと…。あわあわ。
      最後までありがとうございました。ますたぬさま2日間寝落ちさせたのはきっとへーかの魔法の力?
      寝落ち中は推測するに狸さん?に変化していたと思われます…。いや、違ったらすみません。

  2. 邪無拳法って(o^^o)
    いえ、ナイスなネーミング。
    もっと禍々しい魔法かと思ってたら
    何と可愛らしい。
    陛下と夕鈴がいちゃいちゃ幸せなら私も幸せです。
    ありがとうございましたっ!

    • kumiさま、ありがとうございます。
      個人的には柳大臣の勝負が大好きで←
      マジ真剣な「邪無拳法」と叫ぶ柳宰相のゆがんだ顔や、ブルブル震えるグーを差し出す義広大臣vs無表情にパーを差し出す陛下、がっくりと膝から崩れるシーンとか、マンガっぽいシーンが脳裏に浮かんで、一人ウケしながら書いておりました。
      氾大臣には愛娘・紅珠の創作活動のネタのために戦っていただいたようなものでした。
      瑠霞姫は同族対決でかつ一番戦いにくい相手ということでご登場願いました(他国に嫁いでも白陽国の評議員という身分はお持ちのようです)。
      陛下と夕鈴はいちゃいちゃ幸せまくり(?何語)だと思います←
      最後までお付き合いくださり、ありがとうございましたm(_ _)m

  3. こんばんは~|^▽^)ノ

    連載お疲れ様でした!無事に最終回を迎えられ、一読者の私も嬉しいです!!こんなに壮大なファンタジーになるとは!

    金色ウサギを抱いてる狼…(*´ω`*)カワイイもちろんヒトガタになっても全然オッケーなわけですが(*´ΨΨ`*)ウマレタママノスガタ

    フィットンチッドで周宰相の顔色が少し良くなるのに吹きました(^3^)ブハツ

    • 足掛け8か月。長い間見捨てずにいてくださりありがとうございました。
      壮大なファンタジーすぎて、これでもずいぶん割愛したんです
      わけわかんない感じでも全然OKでした(笑
      こっくーの追いかけてる闇商人の伏線は未解決で残ってしまいましたが、あんまり気になさいませんよう。
      ウマレタママのヒトガタに戻っちゃったウサギさんの姿は
      一人にしか記憶に残ってないはずですが…その一人がいちばん厄介かも(笑
      ついこのあいだ「テル前ろ前2」という映画をテレビで見ました
      そうですね、周宰相の不吉なドヨドヨ封じには、森の中で露天の檜風呂じゃないでしょうか?(笑

    • 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
      いっきに最終回スペシャル(?)
      スリリングなスピード感でお楽しみいただけたでしょうか(???)

      夕鈴はあのままで、
      なんともお気の毒なことに、
      生身のウサギが大好物なおおかみさんにお持ち帰りされた模様です?

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