狼のーかの花嫁(27)

こんばんは~^^

さて、時と場面は変わって――。

続きです。

【現パラ】【パロディ】【ファンタジー】【収穫祭の始まりはじまり】

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狼のーかの花嫁(27)
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早朝にポンポンと花火の揚がる音がして、それから街は勢い活気づいた。
昨日までなにも無く閑散としていたはずの道路には縄と電飾が張りめぐらされ、色とりどりの提灯、キラキラ輝く吊物、そして旗布などが所狭しと飾りつけられ風になびいていた。

夕鈴は呆然としながら3階建ての建物ほどの高さのある巨大な花山車を見上げてため息をついた。

ポカンと脳裏に浮かぶ。

(―――るすばん…?)

今朝、李順さんに言われたやりとりを思いだすと、夕鈴はふつふつと感情が動き出すのを感じた。

『…正確には、ほぼ留守番みたいなもの、です。
下っ端妃のあなたには、ほとんど出番がないので―――
ああ、でもこのビルからでも、雰囲気だけは見れるでしょうから。
まあ、一人で楽しんでいてください』

陛下のために
収穫祭のために
―――あ、あ、あんなに…
あんなに、あんなに…あんなに頑張っ…

―――カアアアアっ…と顔が真っ赤に染まる。

(ギャーっ。…ダメ、ダメ…!!)
夕鈴はギュッと顔をしかめて、それから必死で何事もなかったふりをして自分を鼓舞した。

色とりどりの花で飾られた大きな花山車を指差して、叫ぶ。

「わぁっ! キレイ―――」

「しーっ!」

夕鈴は両手で口を塞いだ。
自称『へーかの隠密』という小柄な男のクリクリした人懐っこい目が一瞬厳しく見えた。

花山車のてっぺんにしつらえられた席から、人の視線が降ってくる。

「ほら、あそこにも人がいるダロー?
…いろんなとこに目や耳があるからさ、
もうちょっと離れるまで気を付けてヨー」

「…なんで、あんたと一緒にこんな…」
夕鈴がほとんど声を出さないように、ブチブチつぶやくと、小柄な男は屈託ない笑顔で振りかえった。

そう言いながら、感謝はしている。
なにせ、この自称『ヘーカの優秀な隠密』という男が、夕鈴に与えられた部屋からこっそり抜け道から連れ出してもらわなければ、自分はビルから出ることすら叶わなかったのだから…。

セキュリティがガチガチになったあそこは、まるで砦だったから…
あがいてはみたものの、夕鈴には手も足も出なかったのだった

「だって。ヘーカ例のやつ、見たいんでしょ?」

「え、あ。…うん」

「そっか―――じゃあ」

そういうと、浩大はパチン、と指を鳴らした。
夕鈴の周りでモワンとした煙が上がった。

「えっ?」

ハッと違和感を感じて、自分の体を見下ろすと、いきなり服が変わっている。
「なに? 魔法?
―――ちょ、ちょっと待って!
ほんとにこんな格好で…」

「こんなときには、こーゆーのが地味なの。
ほら、周りに溶け込んじゃって、ぜーんぜん目立たないデショ?」

兎のフワフワした着ぐるみだけど、お腹や大腿が大胆に露出している…
手さぐりで頭や顔を触ってみると、フワフワした大きな耳が生えている。
馬鹿みたいに大きな黒い帽子が載っていて、しかもご丁寧にウサ耳が通る穴がちゃんとついていて、耳が貫通する仕組みになっていた。

ショーウィンドーに映った自分の姿をみて、夕鈴はちょっと顔を赤らめた。

「…ウサギって―――なに!?」

浩大は
「―――いっから。
さっ、ウルサイのに見つかんないように、こっち、こっち!」

浩大は超派手なシマシマなシマリスの格好で、ご丁寧にクルンと丸まった大きな尻尾までついている。それなのに身ごなしは素早かった。

いよいよ収穫祭の始まり。
花火があがり、人々は笑いさざめき、道という道に人が溢れている。

街頭に設置されたスピーカーからはラジオ番組が流れていた。
「――このコーナーは、あなたのマジック・ナビゲーター、桃香ちゃんがお送りしまーす♪ 今日のパンプキン・トーク情報コーナー。いよいよ待ちに待った収穫祭がはっじまっるよ~。この地方の天候は晴れ、降雨確率は限りなくゼロパーセント。絶好のパレード日和、桃花もお祭りで素敵な肉食獣さんとの出会いを期待しちゃおっかな~♪―――」

この地域にこんなに大勢に人が住んでいたの?と不思議に思えるほど辺りは人だらけ。
そのくせ、みんな変てこな格好ばかり。ゴースト、黒いドレスローブをまとった正統派魔女もいるけれど、ライオン、カエル、シマウマ、バク、アルマジロ、ゾウ…? とてつもなく頓珍漢な格好の人々ばかりだった。

夕鈴は、小柄な男の後を追った。

「いーから。
この格好でちょっくらその辺見て歩こーぜ?」

「え、でも、李順さんとヘーカには何も…」

「ダイジョーブ、だいじょーぶ!
規模もでかいから、人も多いし、酒も入るし、バレねー、バレねー!」

あの人が、見せたくないっていうなら
見ちゃいけないのかなって思うけど
でもやっぱり見たい気持ちは、ある…。

夕鈴は自問自答した。

「サー、行こうぜ!
急がないと」

浩大は身軽にひょいひょいと人ごみを縫っていく。
夕鈴は必死に浩大を追いかけた。

「…ちょ、こ、浩大~っ!」

その時、風にあおられて、大きな帽子がフワリとうきかけた。
…ザワっと辺りの人々の空気が変わる。

「あ、ヤベ! こっち!」
グイッと手を引かれ、人ごみにまぎれた。

「…あんた。もっと注意しないと。
その額の――」

夕鈴はため息をついた。

…そうだった。

夕鈴自身には良く分からないのだが、陛下が捺したという魔法使いにしか見えない彼女の額の印が、なんだかものすごく目立ってるらしいのだ。

「…光が漏れるからさ。しっかりかぶってよ」

「分かってる!」
夕鈴はブスっとして帽子を両手でぎゅうぎゅう引き下げた。

「…なんでそんな前より目立つって…」
チロリと彼に覗き込まれ、夕鈴は真っ赤になって帽子を目深にかぶり顔を隠した。

「う――」

ここ数日のことは思い返したくもない――。

…陛下に、あんなとこ見られて
こんなことされて…

「…う、ギャーっ!!!」

正気になって考えた途端
思わず顔から火が出そうになり思わずあげてしまった夕鈴の叫び声も
収穫祭の空気に吸い取られ、歓声に紛れてしまった。

魔カボチャのためとはいえ―――
陛下のためとはいえ―――

真っ赤になって一人でボフンボフンと湯気をあげるウサギをしり目に、浩大はニヤニヤ笑った。

「あーまぁ、そーゆーことで
ヘーカと仲良くしてんなら、そりゃ、いーや」

「どーゆーことよっ!!
勝手な誤解しないでちょうだいっ!
私は単なるバイトで―――」

バイトで…

バイトだから。

はた、と彼女の動きが止まって
今度は浩大が真っ青になって彼女を取りなした。

「ま、ま、いっから。
とりあえず、行こう、な?―――だって、見たいんダロ?
ヘーカの公開評議」

夕鈴は、グッとこらえて、それからコクンとうなづいた。

「…ヘーカを応援しなきゃ」
夕鈴はグッと拳を握り締めた。

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