狼のーかの花嫁(25)

こんばんは。また日付が変わってしまいました…。

さてとりあえず
引き続き『細かいことを気にしない方』『ノークレームノーリターンで』とご注意は申し上げ、それでも「読めちゃうぞー」なツワモノの皆様、宜しければ続きをどうぞ――。

【現パラ】【パロディ】【ファンタジー】【糖度そこそこ】【魔カボチャのナゾ】

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狼のーかの花嫁(25)
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『…私の愛しい金色の兎よ――』

夕鈴はハッと目が醒めた。

開かなかった右の拳がゆるみ
真っ暗な部屋の中でキラリと金色に光るものが一粒、シーツの上に滑り落ちた。

「…?」

どれくらい意識がなかったのかよく分からない。
夕鈴は混乱している頭を抑えた。

「ええと、料理を作って二人で食べてて――」
思いだしながら体中から汗が吹きだし、カアっと熱が上がった。

黒い獣はもう居ない。

夜は更けてあたりは静まり返っていた。
「まだ暗いから…」
あの人はきっと、畑を見回りに飛んでいるのだろうか…

ふさふさとした毛皮の感触だった。
夕鈴は思いだす。

(狼陛下、というのは他を圧する冷酷非情な様から付いた異名だとばかりおもっていたけど…まさか本当に獣の姿になるとは――?)

「やっぱりあれは夢、よね」
あは、あは、アハハハ…と夕鈴は笑いだした。

「…だって、私までなんだか変な―」

あの時覆いかぶさってきたのは艶やかな長い刺毛の黒い毛皮。
それを押し返すように突っぱねたのは…
金色の綿毛でくるまれた
…あれが、私の――手?
まさか。
夢に違いない!!

金色の小動物のようなほっそりした小さな前足。
あれが自分の手であるはずなど――

夕鈴はあわててガバッと寝台から起き上がると、あわてて鏡台へと向かった。
いつも通りの自分であることを確認し、夕鈴は大きな安堵のため息をついた…。

自分が『何か』に代わってしまったはずはない

ほら。
ちゃんと人間の手ででしょ?
掌の中にはタネがあって…。

「っと、そうだった。
――タネっ!」

寝台の上に滑り落ちたタネを
夕鈴は慌てて拾い上げた。

ボンヤリと金色に輝くそれは小さなタネだった。

「…やっぱり!
――えっと。これって
二つ目の魔カボチャのタネ!?」

* * * * * * *

カタン、と微かな音がして、窓辺のカーテンが揺れた。

チリン…とカーテンに結び付けた鈴の音がした。

「陛下っ!?
おっ お帰りなさいませっ!!」

夕鈴は直立不動で、彼を迎えた。

テラスから入ってきた彼は、いつものように黒いマントを羽織り、ブーツを履いていた。
小脇に何かを大きなものを抱えていて、夕鈴はそれを見て目を丸くした。

切り取られたその大きなつぼみは、ずいぶんと大きなものだったから、
あの魔カボチャの花だと一目で夕鈴には分かったのだ。

「魔カボチャの、花――まさか。
方淵の温室の花を…持ってきちゃったんですか!?」

二人の様子は対照的で
黎翔はニコニコと笑っており
夕鈴は愕然として今にも床に崩れ落ちそうだった。

「うん。君が育ててくれた、つぼみ」

「どうして摘んじゃったんですか?
せっかく――」
夕鈴は息巻いて彼に近づいた

「…だって。
要るでしょ?」

「え?」

「話を聞いて。夕鈴。
ちゃんと話すから――」

黎翔は、つぼみを注意深く部屋の奥にあった机の上に降ろすと、夕鈴の部屋の椅子に腰を下ろした。

黎翔は彼女を引き寄せると、膝の上に座らせた。
「なっ、なんでこんな…。ヘーカ。ちっ、近いです――」

「いいから」
と半ば強引に抱き寄せられる。

黎翔は夕鈴の右手の拳を両手で包んだ。

「ここに、あるもの」
「え?」
(魔カボチャの二つ目のタネのことを、陛下は知っていらっしゃる?)

「まず、これを育てよう――」
陛下は彼女の手を開かせた。
彼女の掌には魔カボチャのタネが握られていて、それは暗い部屋の中でほのかに光っていた。

そのうえから彼は手を添え、蓋をするように手を合わせた。

タネは手の間でむくむくと大きくなり、あっという間に掌からあふれんばかりの大きさになった。

「…前の魔カボチャのタネも、こんなふうに大きくなって…」

「私が作りし糧を口にした君に宿りし精霊。
私の口づけによりその左手から生まれ出でし種子。
君の涙で発芽した――雄花の魔カボチャの株。
あそこに、その花がある」

黎翔がつぶやいた。

「え?じゃあ――これは」

「その、逆――」
黎翔はニコリ、と笑った。

「…ぎゃく?」

「時に、生まれつき係わる人を不幸にしてしまうほどに強大な魔力を持つ者がいる。
その者の手によるものは魔を帯びる。
受け取れば、並の魔法使い程度であれば、けた外れの魔力のとりことなり身を破滅させてしまうから…。
だから、私は常に人に隔てを置いてきた」

そういいながら密着している彼の言葉と態度の違いに夕鈴は真っ赤になった。

「――じゃあっ! なんでこんなにひっつくんですかっ!」
ギューギューと抑えつけられながら、夕鈴は無駄な抵抗を行った。

そんなことをしている間に、タネはどんどん膨らんで大きくなる。
黎翔がすっと指先を動かし、そのタネを空中に浮かせてみせた。

「君が、特別――だったから」

「…へ?」

「私の愛しい金色の兎だから」
黎翔はそういうとますます彼女をギュッと抱きしめ、その顎を軽く引き上げた。

目と目が合って、二人は至近距離で見つめ合う。
(特別、とか。甘い言葉とか。
夢みたいなことを言って、人を翻弄する悪いひとだ)と、夕鈴は思った。
だが、そんな甘い言葉から逃げることもできなかった。

唇と唇が軽く触れ合った。
チュっと軽い音をたてて、離れる。

「――ゴメン」

彼が謝る言葉に夕鈴はますます混乱した。

「魔法使いの天敵の、魔払いカボチャにも天敵がいてね。
それが金色の兎という存在なんだ。
君はどうやらその金色の兎の化身らしい」

「――え?」
(…ちょっと、待って?
私はただの人間で…バイトで…)

「私、人間ですけど」

「そうだね。普通の人間の家族から生まれた。
でも、持って生まれた魂の本性は代えられない」

(――じゃあ、さっきのあの不思議な夢は、本当だったの?)

夕鈴は再び頭が混乱して頭がグルグルした。

「金色の兎は、魔法に左右されない存在で、
私の魔力にすら影響を受けることがなく、滑らせ核を結ぶ
…だから君に吹き込んだ魔力はカボチャのタネに封じ込められて…君の掌から生まれてきたんだ」

「それは
…私を利用したってことですか?」
夕鈴は彼を見上げた。

「もしかしたら君がそういう存在なのではないかと気が付いた。
だから君にカボチャを探してほしいといって
…結果的に、無理をさせた。
君を傷つけたのなら謝る」

(それなら、ひたいに口づけた魔王の印とか…
タネが生まれるたびに施された口づけは『仕事』で
彼はそのことについて謝ったのだろうか?)

そんな風に思えてくると、夕鈴は悲しくなった。

ジワリと浮かんだ涙を、彼は指で掬い取った。

掬い取った涙は、空中に浮かぶ魔カボチャのタネの滋養となる。
水分を得たタネはますます膨らみ大きくなって
今にも萌芽の時を迎えんとしていた。

「…こんな風に君を利用して――」

黎翔が指を鳴らすと、空中に浮いたまま魔カボチャはふるふると震え、ポン、と芽吹いた。

『ランタンカボチャと呼ばれる魔法使いの天敵の魔封じカボチャが光っている日暮れから夜明けまでの時間帯は魔法は使えないから、魔カボチャも眠って育たない』と水月は言っていたが。しかしさすがにけた外れの魔力を持つ黎翔の結界の中では、ものともしなかった。

「――だが、私は農家なんだ。

私の手は呪われていて、
どんなに耕し育てようとも
何一つ、人に施すことができなかったとしても
――それでも目的の作物を育てる冷酷非情な男だと
君はきっと軽蔑するだろうな」

美しい緑色の双葉が本を開くように広がると、次に中央から立ち上がった目はあっというまに大きな本葉になった。弦がのび、葉が次々と生まれ、苗はあっという間にうねうねと大きくなってゆく。

低い声が響いた。
ハミングをするような不思議な祈りの声。
陛下が歌っていることに、夕鈴は気が付いた。

苗が部屋中に広がる様子は、方淵の温室で水月たちが一緒に合奏したときと似ていた。
ポツンと小さな花芽がつく。

むくむくと大きくなった花芽の付け根は、丸く膨らんでいた。
最初に育てた魔カボチャの花とはあきらかに形が違う。

「…め、ばな? これが?」
夕鈴は花が大きくなるのを見つめていた。

低い声で続いていた歌が止む。
黎翔はその苗を宙に浮かせたまま見守った。

「夜明けに、この花が咲く。その時、君が育てた雄花の花粉を付ければ
きっと実るはずだ」

(ようやく陛下があんなに欲しがっていたカボチャを実らせることができそうなのに。
魔カボチャの花が雌雄2つ揃って…嬉しくて当たり前だろうに、
なぜそんなふうに寂しそうな顔をするの――?)

夕鈴は切なくなった。

「君は少し…休むとよい」

カボチャのつるに覆われた部屋の中でも、夕鈴の寝台は緑に浸蝕されることなく居心地よく保たれているのだった。

彼は優しく夕鈴を抱え上げ寝台に連れてゆくと、そこに降ろした。
すぐさま、背中を向けて出て行こうとする。

「…行かないでください、陛下」

黎翔は
彼女に拒絶されたと思っていたから
全く逆のことを口にした彼女を驚いて振り返る。

夕鈴の手が、彼の裾を引っ張っていた。

「私は、一緒にいますよ?」

手をつなぐ。
引き寄せる。
うなだれ、ひざまずいた黎翔の頭の上から彼女は彼を抱きしめた。

ジワリと伝わる温もりがあまりに居心地よく、黎翔は苦笑した。

「――君は優しい兎だな」

「…そんな風に一人で
黙って遠くに行っちゃダメですよ――」

夕鈴は心配していた。

黎翔は思いだしたように言った。

「…そうやって近づいてきて
少しのことで、大嫌いだ、帰るといって、逃げだすのだろう?
…ひどい兎もいたものだ」
くすくす笑いながら表情を和らげた。

「あれはっ!
ちょっとじゃなくて!!
ヘーカが…(私のファーストキスをっ)!!」

「いや。
すまない
やっぱり君は優しい兎だな」

彼は彼女の髪を優しくなで、顎の線を指先で辿った。

「…陛下?」

頬ずりをされ、額に小さな口づけが落ちた。
夕鈴はギュッと目をつぶってドキドキ胸を高鳴らせたまま身動きできなかった。

チュッと唇に優しいキスが落ちてきた。

「愛しい私の兎――」

*


2 thoughts on “狼のーかの花嫁(25)

    • ますたぬ様
      ご心配いただきましたがカボチャは無事にゲットできそうです^^
      …で、二人はどうなるんでしょうね? (笑

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