狼のーかの花嫁(23)


ちょっと息抜きで書けた分だけ…
失礼しますね

二人っきりのお食事会。
はたして狼の飢えた腹は満たされるのでしょうか?
【報復行為】について
七ひきの子ヤギは狼の腹に石を詰めたけど…兎はどうするのかしら。

【現パラ】【ファンタジー】【糖度上昇】

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狼のーかの花嫁(23)
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ふさふさとした黒い尻尾が揺れる。

「…うん。気にしないで」
「は?」
ニコニコ顔の黎翔にギュッと抱きしめられ
(なぜ抱きしめる~?!)と夕鈴はジタバタした。

そういうものなのだろうか――?
と夕鈴はあっけにとられた。

「それより、ごはん食べたいな。
ぼく、お腹すいちゃった…」クウン…と鼻声まで聞こえる。

ぎゅうぎゅう抱きしめられる束縛を何とか押し戻し、彼の胸から顔をあげる。
目の前の小犬陛下の頭には――
「陛下…お耳、生えてません、か?」

「二人っきりのときなら、大丈夫だよねっ!
だってゆーりんは僕のお嫁さんだもん!」

(…そうか、そうなの?)

なんとなく丸め込まれたような気がしてしょうがない夕鈴だったが
その甘い笑顔にほだされてしまった。

夕鈴は自分でも顔が赤らむのを感じ、必死でそっけない口調で答えた。

「私は、ただのバイトですよ」

「でも今はお嫁さんだよね!
可愛いお嫁さんの手料理が食べられるなんて、楽しみだなぁ」

「う…」

と夕鈴が顔を上げると、黎翔が手を広げて彼女を解放した。

とん、と背中を押されて夕鈴の視界に入ってきたものは、
つい先ほど彼がパチンと指を鳴らして出した、最新鋭のオープンキッチンだった。

彼が空を仰いで手を差し出すと、ひゅっと音がして星が指先から走った。星は天高く上がるとはじけ、光のシャワーのようにぱあっと降り注ぐ。
光の壁はツルツルのガラス質の床の上に、みるみる天蓋が広がり、あたりは巨大な温室のように仕切られた空間になった。

「――え?」
元、空中農園。今朝は荒れ果てたおぞましい廃墟と化していたのに。
ついさっきはツルツルの殺風景な場所で、
狼陛下がパチン指を鳴らせばキッチンが現れ、
指先から星をだせば大温室に…。

「ね。二人っきりだから。安心して」

ニコニコする彼に押し切られた。

(ここは魔法の国だし。
多少耳や尻尾が生えていようと、誰も気にしないのかもしれない――)

何かちょっぴりおかしいからといって、
いちいち目くじら立てることもないのかも…。

なにしろ、狼陛下という彼の存在自体が非日常的であり不条理の塊だと分かってきたから。

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料理の合間。

うかうかしていれば背中から抱きしめられるわ、
隙あらば盗み食いはするわ…

『本当にこのひとがあの狼陛下?』というほどのはしゃぎっぷり。

「ヘーカが邪魔するから
あんま大したものは出来なかったじゃないですか…」

夕鈴はため息をついた。

「でも、楽しかったね
さあ、食べよう! 早くはやく!」

背中を押されて食卓に誘う彼。
しごく当然とばかりに、夕鈴は彼の膝の上へと抱え上げられた。

彼女は真っ赤になって固まってしまったが
「お嫁さんの手作りご飯!」とあまりに嬉しそうにはしゃがれては、
気勢をそがれ怒ることもできない。

「じゃあいただきま~す!」
黎翔はたっぷり用意されているスープの大鉢に手を伸ばした。

「あっ、…それまだ熱いですよ!?」
夕鈴の声に、彼は伸ばしかけた手を止め、ジッと彼女を見つめた。

傍でそんな風に見つめられると、いたたまれなくなってしまう。

「…ちょっと待ってください、冷ましますから!」

目をそらす口実に、彼女は汁椀を手に取った。
大鉢から掬って、椀に取り分ける…ただそれだけなのに、彼に見つめられているだけで指が震えた。

(しゅ、集中!)
さじで汁を掬い、
ふぅ、ふぅと覚ますことだけに集中した。

「…もう、いいですよ?」

さじをさしだすと、すぐ傍から覗きこまれた紅い瞳に
ドクンと心臓が鳴った。

「君から、欲しい」

(どっどうしてっ ――狼陛下!?)

目がそらせない。
夕鈴はさじで救った汁を彼の口許へ運ぶ。

薄い唇がゆっくり開くと、彼女の差し出すさじを受け、
彼はされるがままに汁を含む。

ペロリ、と彼の赤い舌が口許をぬぐう様を目撃し
夕鈴は体中から熱が一気にのぼせてしまった。

「…美味しいな」

ジッと瞬きもせずに、彼に見つめられる。

「もっ、もうっ、大丈夫みたいですっ!
どうぞお召し上がりくださいっ!」

「…もっと欲しいな。君のが」

(ギャーっ)と夕鈴は内心身もだえしたが、
近すぎる二人の距離で逃げ場がない。

口許が近づく。

カラン…と夕鈴の手元から、握り締めていたさじが落ちる。

「もう終わりか?
それともこっちの方が…甘い、と?」

(きーっ、陛下っ!! 近い近い近い近い~)

ぐあぁああっ!!

変な叫び声をあげて、夕鈴のパニック・リアクションが発動した。
夕鈴は右の握りこぶしで、彼の接近を阻んだ。

「…ちょっ。ゆーりん。
さすがにグーはないんじゃ――?」

急に小犬化した彼がトホホ顔。
領土上陸を阻まれたまま、めり込んだ夕鈴のこぶしで
時が止まったようだった。

「…ぎゃっ! あの…」

(あれ?――手が開かない?!)

*