狼のーかの花嫁(22)


こんばんは~(´ω`)ノ

ようやくお二人再会をはたしました。
ケンカせずに仲良くやってほしいものです ←

【現パラ】【ファンタジー】【微糖 / 低カロリー】

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狼のーかの花嫁(22)
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ここは片田舎の白陽と呼ばれる土地。
この地は見渡す限りの農地が広がり、表向きは首都から遠く離れた辺境の一地区、国内有
数の農業地帯でありながら、人間の目に触れぬよう何重にも施された複雑な呪文による封
印結界によって守られた人知れぬ魔法使いの隠れ里であった。
古よりの因習で国土領内における治外法権地域等をもっているといわれ、人々はこの地を
白き魔法使いの納める白陽国、と呼んだ。

――珀 黎翔。
即位後、国内で起きていた川の氾濫を収め独自の治水工法で農地を整備した。
行き詰まった兄の経営を引き継いだ珀黎翔は、次世代コンピューターを積んだハイテク耕
作機械導入を強みに、やる気を失い荒れ果てていた農地を活性化させ、名実ともに中央政
治の実権を握った若き国王。
人々は彼を恐れ『冷酷非情の農業王、狼陛下』と呼ぶ――。

そんな彼のたった一人の妃、夕鈴は
日の暮れた道端で、独りぼっちで泣いていた。

「所詮、短期間のバイトだもの…
代わりはいくらでもいるって――」そういう契約だった。

「でも、せめて
少しでも陛下の役に立ちたかったのに」

夕鈴の涙は止まるどころか、ますますべそべそと泣くばかり。

もうダメだ。
絶対に呆れられた。
陛下の役に立つどころか、足手まといにしかならない自分がふがいない。
カボチャもダメだった。
陛下のお傍になんて、戻れない――。

次から次へと涙がこぼれた。

広い農道。
不思議なことにあたりには車どころか人っ子一人通らない。

覆いかぶさるように影を作っていた人物から、
しゃがみ込んだ夕鈴の髪に伸ばした指先が触れた。

夕鈴はピクリと震える。

「そんなに泣かないでくれ、夕鈴」
優しい声だった。

顎をとり、軽く顔を上げる。

「どう慰めればいいいのかわからない…
泣くな――」

穏やかな眼差しを向けられ、夕鈴は切ない思いで胸が張り裂けそうになる。
改めて今日の失敗が思いだされ、夕鈴に再び涙がこみ上げる。

ポロポロと真珠のような涙をこぼす彼女を慰める術を持たぬ黎翔。

「夕鈴は何も心配しなくていいから…
一緒に、帰ろう」
手を握る小犬陛下の声に、夕鈴はホッとしてしまった。

「…はい」

ようやく涙が止まった次の瞬間、夕鈴はぎょっとした。
突然ひざの裏と背中に手が回され、抱き上げられたのだ。

「…あ、あの陛下?」

「うん? しっかり捕まっててね」

彼はニッと笑うと、マントをひるがえし空中に飛び上った。

「ぎゃ…!?~~~~~っ!?」

「ゆーりん。大丈夫、落ち着いて」
耳元の風切音の合間に、耳元でささやかれた。

…そういえば、ホーキでとんだのは夢じゃなかったっけ…
と思いだし、ギュッと彼の背中に手を回した。

足元にはランタンカボチャの光が地平線までキラキラとどこまでも続いていた。

実は、その存在こそが陛下を苦しめている恐ろしいものだと聞きながら
夕鈴はその景色をやはり美しいと思った。

「怖い?…寒くない?」
陛下の体温はひんやりとしていた。
触れられてこもる自分の熱の方が、夕鈴は恥ずかしかった。

「いいえ、あなたと居れば、
怖いものなんか、ありません――」

伏した夕鈴の瞳に宿る光を覗きこみ
一瞬ふっとゆるんだ彼の表情は、夕鈴には見えなかった。

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屋上テラスに降り立つ。
軽く足をつくと、魔法は終わった。
ぐにゃりと空間が曲がるような違和感、そして重力が体を捕らえ、体は急に重くなった気
がする。

夕鈴は少しぼうっとしながらあたりを見回した。

明かりは灯っていた。
(きっと克右さんががんばって修理したに違いない)
と、少し落ち着いたのか、そんなことに夕鈴は思いをめぐらす余裕ができていた。
だが、ビルは以前と雰囲気が変わっていた。

日中、出がけに見た時のここ空中庭園は、酷く荒れ果て、醜く変容した恐ろしい雰囲気だ
ったのに…今は殺風景なまでのツルツルしたガラスで覆われていた。
もう、畑はなかった。

少し離れた展望の良い場所に、しゃれた食卓が一つ。そして椅子が二脚。

立っているのに、いまだ彼に腕を回しギュッとしがみついている自分に気が付き、夕鈴は
慌てて手をぱっと広げて後じさった。

「いっいつまでもっ、ごっ、ごめんなさいっ!
それに、バイトなんかお迎えに来させちゃって…」

しどろもどろで謝る彼女の腕を引っ張り引き寄せると
彼は背中から手を回してギュッと彼女を抱きしめた。

「…だって、空の散歩は寒かったから。
こうしてるとあったかいね」

抱きしめられて真っ赤になる彼女をいとおしそうにゴロゴロとすり寄る小犬陛下を、夕鈴
は拒否することもできなかった。

「な、なんだかお腹がすいちゃいました…」
そういって、なんとか距離を取ろうと話題を変えた。

「…そっか」
パチン、と彼が指を鳴らすと
ガラスのテラスの一角に、キッチンが現れた。

「…え?」
夕鈴は目をこすった。
今の今まで何もなかったところに…?

「魔法、みたい」
夕鈴のつぶやきを聞いて、黎翔は笑った。

「魔法使いって、信じてくれた?」

ハッとして夕鈴はコクコクとうなづく。

「でもね。なんでもかんでも魔法っていうのが良い訳じゃあないんだ。
――夕鈴。約束、覚えてる?」

「え?」

「今度は夕鈴が料理を作ってくれるって」

そういえば、以前、この空中庭園のテラスが農園だったとき、陛下が作ってくれた朝食を
食べながら、そう約束したんだっけ、と夕鈴は思いだした。

「はいっ!
…私は魔法なんか使えませんから、
お口にあうか、わかりませんけど…」

「じゃあ、作ってくれる?」

「今から、ですか?」

「うん!」

彼があんまりニコニコ嬉しそうにするものだから、夕鈴は仕方なく了承した。

「ほんとに、庶民的な料理しかできませんからねっ?」

「うん、楽しみだなあ。お嫁さんの手作り料理」

「そんな期待されても困りますっ!!
…手早く、ちゃっちゃと作る程度ですよ?」

「うんっ!」
ぶんぶんと尻尾が触れてるような幻が見えた…いや、幻ではない。
本当に尻尾が…
夕鈴はごしごしと目をこすった。

「ヘーカ…その、尻尾は?――」

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