狼のーかの花嫁(19)

こんばんは。つづきです。

ハチャメチャだけヒートアップ、陛下の出番が少ないのに、また一人、登場人物が増えました(←ごめんなさい、20話の話題をここに書いちゃった、です)
…陛下。かみーばーっ。

伏線を回収しながら、どこまで行っても未来。どこまで行っても農地。

悩乱を畏れぬつわものへ。大丈夫でしたら、どうぞ――。

【現パラ】【ファンタジー】【伏線ドンドン回収中】

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狼のーかの花嫁(19)
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夕鈴は走った。
事務棟と、その奥にある立派なガラス温室のある研究所。

夕鈴はこの時間なら、ガラス温室の方に目的の人物がいるのではないかと目星をつけ、
事務所の脇を通って温室の方へ駆け寄った。
ドア側から見た温室内部は内側に掛けられた厚ぼったいビニールカーテンで曇り、よく見えない。
扉を開けようと手を伸ばした途端、いきなりガチャリと扉が開いた。
中から姿を現したのは、眉間にしわを寄せた黒髪の男。
沢山の薬瓶や書類を突っ込んだかごを男は両手に抱えている。

ん、と一瞬表情を変えたが、それ以外特別気にする様子もなく、ズカズカと温室から歩きだす。
夕鈴は思わず道をあけた。
男のポニーテールが揺れる背中に向かって挨拶をする。

「こ、こんにちはっ!」
男は振り返り、彼女に一瞥をくれると、きつい口調で一言挨拶を返した。

「…変な顔をしている。見苦しい」

「――はぁっ!?」

(会うなり女性に向かって、なんて失礼なことを言うんだろう、この男は――!)

夕鈴は腹立たしく思ったが、今は緊急時。
仏頂面の相手だろうが、ここはニッコリ職業的スマイルで切り抜けよう!と夕鈴はガッツを燃やした。

かごをかかえたまま、すたすたと事務所に向けて歩く男の後ろから前に回りこみ、彼を真正面から見据えた。
男はかごを抱えたままスイッと彼女を避けてそのまま歩き続けた。

「何か用か」

夕鈴も必死で男についてゆく。

「あのっ!
いきなりお仕事でお忙しいところお邪魔して、失礼いたします」

「…そうと知りながら何故押しかける?」
ハッとあざけるようなため息。

(くーっ! いちいち腹立たしい男だわね~っ!!
くっそう。あんたしか頼る相手を思いつかなかったんだもん。
そうでなきゃ、私だってお願いなんてしたくないわよ――)
した手、した手に、と夕鈴は心を落ち着かせる。

「あの。わたし貴方にお願いがあって…」

「私は今ギネスまであと1個、トマトを実らせるために必死なのだ!
その大切な時間を割いて何故“人間”のお前の願いなど聞かねばならん?」
男はピリピリと神経質でとげのある口調で答えた。

「私も時間がないんです! あなたしか頼れる人がいないんです!」
夕鈴も必死だった。

男は急に足を止、手に抱えていた重そうなカゴを一旦足元に降ろした。
温室の外に設置されているメーターのフタをあけ、数値を見取る。おもむろにカゴからバインダーをとりあげ、鉛筆で記入を始めた。
「――なんだか知らんが、貴女がフラフラ出歩いてることを、あの方はご存じなのか?」

「いえっ! あくまで私の独断ですっ!」

「では手伝えん。帰れ」
パタンとバインダーを閉じると、再び籠の中へと放りこむ。

「でもっ! 陛下のためなんです!
どうしても、いますぐ、助けてほしいことがあるんです!」

「…陛下の?」

この言葉に、男はピクリと反応をした。

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ガラス越しの陽光を受け、キラキラと輝くトマトの大樹。
その根元に設置された特大プランターを囲み、雅な合奏が…なんだか乱れた音を奏でていた。

「――ああ、方淵。きみ、そこは…」
曲の合間に、淡い栗色の長髪をかるく三つ編みにした美青年が月琴の義甲(ピック)を振り上げた。

音が止む。

「なんだ、水月。間違えたとしたら私ではない」

「うん、君は正確だよ、方淵。…でも」

「でも、なんだ?」

「せっかくのサビなんだから、そこは旋律の君がもっと唄ってもいいんじゃないかい?」

「ハッ、馬鹿な。
リズムは正確に刻んでこそ、合奏が成り立つのではないか!
それぞれが自分勝手に奏でたら、
せっかく緻密に書き上げられた作曲家の魂を軽んずことになるではないか!」

方淵は容赦なく自分の信じる筋を通した。

「…」
水月は困ったような笑顔を顔に浮かべ、再び義甲を月琴の絃にあて伴奏をはじめた。

「もう一度、ここからいいかい?」
水月が促すと、方淵はムスッとした表情でもう一度楽器を構え直す。

「そもそも…なぜこうなった?」

方淵、と呼ばれた男は二胡の弓を操りながら
眉間にいつにもまして深い皺を刻んでいた。

「だって。陛下のためなのでしょ?
“これ”を大きく育てるために…」
夕鈴はジッとプランターの中の土を見つめている。

まだピクリとも動かない。
「…さっきはむくむく大きくなったのに…
ここに埋めてからちっとも変化がないわね。
なんとしても早く育てなきゃいけないのに――」

「お前が無理やり押しかけてだな、私の大切なガラス温室に陣取って――!
私はトマトあと一個、他の実が落ちる前に最後の花を結ばせなければならない、
今が一番大切な時間なのに!」

「それは、外は退魔カボチャがうじゃうじゃで、危なっかしくて大事な陛下の魔カボチャを育てられないからここに…」

「そもそも、いつのまに水月まで――」

「だって、前に約束したんですもの。
大きくするのはお得意だと――」

「…得意とはいっておりませんが。
私はライフワークとして、より質の高い音楽で大きく生き物を育てる研究を…」

「でもこの間、イケスにお邪魔した時『大きくしてくれる』って。
もし気に入ったカボチャが手に入ったら、
持っていけば月夜の晩に笛を吹いて、もっともっと大きくしてくれるって言ったじゃないですか」
「今は昼日中だな。それに私の温室だ!
しかも貴様は笛ではないし、なぜ私まで弾かねばならんのだ!」
方淵が突っ込んだ。

「陛下のためなんです。お願いします!」
夕鈴は頭をさげた。

「お妃様がたっての願いでは、断れないだろ、方淵。
月夜の晩は一日のうちで最も波動の通りがいいからね。…
今は昼ですし、合奏で補うしかないじゃないかと。
独奏よりも、合奏。
ようは、対象により質の高い音楽を聞かせることでいいデータが出てるんだ」

「能書きはいい、早く仕事をしろ!
ピクリとも大きくならんではないか!
水月、お前の研究理論は確かなのかっ!? そもそもお前の研究対象は魚類ではないか!」

「うーん。基本的には生物全般に効果は認められてるんだけど――。
まだちょっと何かが足りないのかな…。
選曲の問題か、あるいは音量? それとも合奏のできばえか…
君さえもっとノッて演奏してくれさえすれば。困ったなぁ」

そう言いながらも水月は楽しそうに楽器を奏で続け、
のんびりと答える様はちっとも困っては見えなかった。

「合奏の方が効果が出るというのなら
そこの女。せめてお前も何か楽器を持って加われ!」

「ええっ?! 私ですか?」

「そうですね。何かお好みの楽器はありますか?
――何なりとご用意いたしますが…」
何故か水月は眼をキラキラさせて夕鈴を見つめた。

夕鈴は後じさりした。
「…草笛、とかじゃ、ダメですか?」
「くさ、ぶえ――?」

「ほら、こんなふうに。適当な葉っぱで…」
夕鈴が傍にあった枝から葉っぱをプチンと採ったとたん、
方淵がクワっと目を見開いた。

「きさま――、大切な私の実験作物を――っ!?」

「まあ、まあ」
水月がいなす。

夕鈴は悪びれる様子もなく、葉をくちびるに当て、指で押さえると、勢いよく吹いた…

「ぷぅううぅううううう~~~~♪」

目の前の、あの魔カボチャを埋めたプランターの土が
力なく沈み込んだ…

そして
――ボタ ボタ ボタッ…と背後で音がした

方淵はハッと振り返って青ざめた。

「トっ トマトっ!? 大切なトマトが…
ギネスまで、あと一つだったのが、3つも落ちたぁ~~っ!?」

方淵は逆上し、ギッと夕鈴を睨んだ。涙目だ。

「音楽とは程遠い破壊音を出すのはやめろっ!! 
そこで貴女は大人しく聴いているがいいっ!!」

「――ほら。音楽の有用性が、植物でも実証されただろ?方淵。」

水月はふふっと優しく笑って見せた。
方淵はギネス記録まであと1個まで迫った大事なトマトの大樹から実を3つも落とされ、肩を振るわせた。

夕鈴は真っ赤になりながら、ごめんなさい、ごめんなさいと謝った。

「…まあまぁ、方淵。君の研究はまた4つ実をつければいいじゃないか。
さ、もう一回、頭から演るよ?」
と相変わらず水月は呑気なものだった。

*


2 thoughts on “狼のーかの花嫁(19)

  1. ますたぬです。
    コメント苦労しました~。パスワード絶対覚えられません。ので、スマホからのコメは無理かな~。
    水月さんと方淵の登場でますます楽しみな展開に・・・。
    陛下帰ってきて~。
    今日から3日間本部(県外)行き。しかも土曜・日曜は職場を7時にバスで出発なんですよ~。あぁ疲れるわぁ。

    • ますたぬさま
      コメントの壁がガチガチに厚く本当にすみませんm(_ _;)m
      ますます反応を寄せていただきにくくなるのでとても寂しく
      なんとか方法がないものかと探しながらWordPressのカスタマイズの勉強中です
      どうか三連チャン生き延びてくださいませm(_ _;)m

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