SS 愛しの君よ


お元気ですか?
のーかの続きをお待ちの方、申し訳ありません。
GWあけはぎっちりミッチリ立て込んで…うふふ…。

「委託本屋さんから”白の国 サイドストーリーズ”が届きました」と
ご感想なども内々いただけたりして、とても嬉しいです。
ありがとうございました。

イベントでは最後の一冊までお嫁(orお婿)にお連れくださりありがとうございました。
とらさんのほうもあと数冊のようです。
(今出てる分でオシマイ)
ありがとうございました。

さて

今日も遅くなってしまいました
頭に浮かんだ他愛のない短いお話を1本
お届けいたします。

【ネタバレというほどではないですが、檻の中の本誌設定】
【バカップル】

* * * * * * *
愛しの君よ
* * * * * * *

いつものように短い逢瀬。

黎翔は膝の上に愛しいひとを抱きしめていた。
彼女の栗色の髪を結い上げた後頭部に、口づけをひとつ愛おしげに落とし、それから小さくため息をついた。

「…どうかされましたか?」

夕鈴は、背後から聞こえた小さなため息を聞き洩らさなかった。

「夕鈴、ゴメンね。こんなところにいつまでも。
もうちょっとの辛抱だから…」

シュン、と落ち込んだような黎翔の声。
夕鈴は上半身をひねって、あわてて彼の顔を見つめた。

「いえ、そんなこと、全然!
気になさらないでください」

夕鈴は明るく答えた。
彼女にすれば、格子に囲まれた牢の中とはいえ、食事も暖かい寝具も与えられ、不自由なく過ごさせてもらっていた。むしろ何一つ働きもせずに、このような過分な待遇を得ていることのほうに良心の呵責がある。

「本当に?」

「本当ですよ! これ以上ないってくらい、良くしていただいています。
…でも」

「――でも?」黎翔の顔が曇った。

「あの。…なんというか。
何か陛下のお役にたてれば、もっと嬉しいですけど」

「…なんだ」黎翔はホッとした。

「…あの。掃除バイトとか、しちゃ…だめですよね?
人目につかない場所とか、後宮の隅っこでもいいんですけど…」

「――ダメだ」
黎翔はキッパリとこたえた。

「…そうですよね。
小さなことでもいいから、何か陛下のためにできたらと思ったんですが…」

夕鈴はしょぼんと肩を落とした。

その時、何かを思いついたのか、黎翔が目を輝かせた。

「私のために、と思ってくれるのなら…」
「――ありますか?」
「ある」
「なんでしょう?」
「…あー」
「――すごく難しいことだったら、私なんかには無理ですよ?」
「そんなことはない」

「じゃあ、複雑で面倒くさいとか、時間がすごくかかるとか…」
夕鈴は費用対効果について、時給あたりいくらになるのかしらと軽く頭の中で計算の準備した。

「…いや。一つ一つは大したことじゃないし、とても簡単なことだ――と思うけど」
「では、おっしゃってください!」

「むー」黎翔は、眉根に皺をよせて何か考え込んでしまった。

「私にできないことだと思われるんですか?」今度は夕鈴は少し心配になった。
「君さえやろうと思えば、簡単にできるとは思う」
「それなら、やります!」
「続けるとなると、大変だよ?きっと」
「…陛下、私が三日坊主のいい加減な人間だとおもってるんですかっ?
私は、やるといったことはちゃんとやりますってば」

「うーん」

「もうっ! そんな勿体付けずに
なんでもおっしゃってください!
私、陛下のためなら頑張ります!!」

「…ほんとにいいの?」
「はいっ!女に二言はありませんっ!」
夕鈴は大きな瞳をカッと見開いた。

黎翔は彼女の両肩に手をあてると、耳元に囁いた。

「君の唇から私のことを『愛してる』と聞きたい」
「――――はぁっ?」

とたんに夕鈴は赤面した。

「恥ずかしがり屋なのは分かるけど。
君の気持ちを言葉で届けてほしい」

「…ええと、陛下」

「ストップ。そこは『ええと、愛しい陛下』、でしょ?」

「え?えええええ? あ、あ、あの
今から、ですか?」

「もちろん」

黎翔はにっこりと笑った。
膝の上の彼女に、もう一度しっかりと腕を回す。
頬とほほが触れ合うほどに近づいた夕鈴に、もう逃げ場がない。

「もう一度、やり直して」

「陛下っ、それって『陛下のお役に立つこと』とは関係のない…」
続きの言葉は唇でふさがれて、くぐもった。

チュッと音がして、頬にあてた手が少し緩む。
二人のぬれた唇の間に、ヒヤリと風が通る。

「我愛する君からの愛の言葉が聞きたい。

私の元気がでて、
仕事に張り合いがでるのだから
これこそが
私の愛する花たる君にしかできない仕事、ではないか?

私は君にいつも君を愛していると告げているのに。
私のことを愛していると、君は告げてはくれぬのか」

「だ、だからっ!
急に狼に…」

「やはり、…できぬか」

黎翔の赤い瞳が急に寂しさを帯びた

「そっ、っそんなこと、ありませんっ!
やっ、やれますってば!!」

「では。
これからはいつも
必ず『愛しい』気持ちを言葉に表して、私のことを呼んでくれる?」

うっ、と夕鈴は真っ赤になったが、ここまで言われては引くに引けない。

(そういえば、バイト妃になった最初から
陛下は私のことを『わが愛しい妃よ』とか『愛する私の妃』と呼んでいたっけ。
常套文句だと思っていた、あの調子で、
同じようにすればいいってこと――?)

「じゃ、あ…」

ようやく夕鈴は意を決したのか、ちいさく頷いた。

長い空白だったが、黎翔はせかすことなく、彼女の言葉を待ちわびた。

「…わっ」

「わ?」
余裕綽々の狼が、笑って続きを待ちわびている。

さすがに彼に直視されたまま言い出すのは無理だと思った夕鈴。
思わず彼の首に手を回し、その耳元に囁いた。

「…わたしの愛する陛下?」

夕鈴の唇からその言葉が漏れた途端
黎翔は一気に紅潮し、ドーンと音を立てて頭から湯気が上がった。

(狼自爆編 完)

*