君はぼくの、ぼくは君の


こんばんは^^

越すに越せない大井川~ ではありませんが
オーバーフローです
量に器(体)が足りません…orz

さて
気晴らしに(本業うっちゃり)
とっても短いSSです

一応、71話時点での本誌沿い設定のつもり…。

念のため【ネタバレ】

* * * * * * * * * * * *
君はぼくの、ぼくは君の
* * * * * * * * * * * *

元来、我慢は得意な方ではない。

腹に一物を抱えている者どもらと面会し
話し合う必要もないほど馬鹿らしくもつまらぬ話に耳を傾け
延々と続く七面倒くさい公務に励む振りをする

そういうことであれば
――まだ慣れた

だが君は。

だめだよ
…それは。

君の涙は
たまらなくぼくの胸を締め付けるし

弾けてゆれる君の笑顔は
ぼくの心を温かく満たす

万華鏡のようにくるくると変化する君

君の心はゆらゆらと
いつも何かを一生けんめい追っているから
一刻先はもう移ろって
色を変え、形をかえ、世界を変える。

泣いたり
怒ったり
笑ったり。

見ていて飽きないけど

――ぼくの手からあっというまに飛び越えて
どこか遠くに行ってしまいそうで――

ハラハラさせられるばかりだ。

どうやったら
ぼくだけのものにできるんだろう?

迷いも
悩みも
すべて晴れ

今日このときより
我慢なんて――するつもりもなくなった

愛しい兎よ

君は
ぼくの花嫁

ぼくは
君の花婿

君と共に、いつまでも。

*

狼のーかの花嫁(25)


こんばんは。また日付が変わってしまいました…。

さてとりあえず
引き続き『細かいことを気にしない方』『ノークレームノーリターンで』とご注意は申し上げ、それでも「読めちゃうぞー」なツワモノの皆様、宜しければ続きをどうぞ――。

【現パラ】【パロディ】【ファンタジー】【糖度そこそこ】【魔カボチャのナゾ】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(25)
* * * * * * *

『…私の愛しい金色の兎よ――』

夕鈴はハッと目が醒めた。

開かなかった右の拳がゆるみ
真っ暗な部屋の中でキラリと金色に光るものが一粒、シーツの上に滑り落ちた。

「…?」

どれくらい意識がなかったのかよく分からない。
夕鈴は混乱している頭を抑えた。

「ええと、料理を作って二人で食べてて――」
思いだしながら体中から汗が吹きだし、カアっと熱が上がった。

黒い獣はもう居ない。

夜は更けてあたりは静まり返っていた。
「まだ暗いから…」
あの人はきっと、畑を見回りに飛んでいるのだろうか…

ふさふさとした毛皮の感触だった。
夕鈴は思いだす。

(狼陛下、というのは他を圧する冷酷非情な様から付いた異名だとばかりおもっていたけど…まさか本当に獣の姿になるとは――?)

「やっぱりあれは夢、よね」
あは、あは、アハハハ…と夕鈴は笑いだした。

「…だって、私までなんだか変な―」

あの時覆いかぶさってきたのは艶やかな長い刺毛の黒い毛皮。
それを押し返すように突っぱねたのは…
金色の綿毛でくるまれた
…あれが、私の――手?
まさか。
夢に違いない!!

金色の小動物のようなほっそりした小さな前足。
あれが自分の手であるはずなど――

夕鈴はあわててガバッと寝台から起き上がると、あわてて鏡台へと向かった。
いつも通りの自分であることを確認し、夕鈴は大きな安堵のため息をついた…。

自分が『何か』に代わってしまったはずはない

ほら。
ちゃんと人間の手ででしょ?
掌の中にはタネがあって…。

「っと、そうだった。
――タネっ!」

寝台の上に滑り落ちたタネを
夕鈴は慌てて拾い上げた。

ボンヤリと金色に輝くそれは小さなタネだった。

「…やっぱり!
――えっと。これって
二つ目の魔カボチャのタネ!?」

* * * * * * *

カタン、と微かな音がして、窓辺のカーテンが揺れた。

チリン…とカーテンに結び付けた鈴の音がした。

「陛下っ!?
おっ お帰りなさいませっ!!」

夕鈴は直立不動で、彼を迎えた。

テラスから入ってきた彼は、いつものように黒いマントを羽織り、ブーツを履いていた。
小脇に何かを大きなものを抱えていて、夕鈴はそれを見て目を丸くした。

切り取られたその大きなつぼみは、ずいぶんと大きなものだったから、
あの魔カボチャの花だと一目で夕鈴には分かったのだ。

「魔カボチャの、花――まさか。
方淵の温室の花を…持ってきちゃったんですか!?」

二人の様子は対照的で
黎翔はニコニコと笑っており
夕鈴は愕然として今にも床に崩れ落ちそうだった。

「うん。君が育ててくれた、つぼみ」

「どうして摘んじゃったんですか?
せっかく――」
夕鈴は息巻いて彼に近づいた

「…だって。
要るでしょ?」

「え?」

「話を聞いて。夕鈴。
ちゃんと話すから――」

黎翔は、つぼみを注意深く部屋の奥にあった机の上に降ろすと、夕鈴の部屋の椅子に腰を下ろした。

黎翔は彼女を引き寄せると、膝の上に座らせた。
「なっ、なんでこんな…。ヘーカ。ちっ、近いです――」

「いいから」
と半ば強引に抱き寄せられる。

黎翔は夕鈴の右手の拳を両手で包んだ。

「ここに、あるもの」
「え?」
(魔カボチャの二つ目のタネのことを、陛下は知っていらっしゃる?)

「まず、これを育てよう――」
陛下は彼女の手を開かせた。
彼女の掌には魔カボチャのタネが握られていて、それは暗い部屋の中でほのかに光っていた。

そのうえから彼は手を添え、蓋をするように手を合わせた。

タネは手の間でむくむくと大きくなり、あっという間に掌からあふれんばかりの大きさになった。

「…前の魔カボチャのタネも、こんなふうに大きくなって…」

「私が作りし糧を口にした君に宿りし精霊。
私の口づけによりその左手から生まれ出でし種子。
君の涙で発芽した――雄花の魔カボチャの株。
あそこに、その花がある」

黎翔がつぶやいた。

「え?じゃあ――これは」

「その、逆――」
黎翔はニコリ、と笑った。

「…ぎゃく?」

「時に、生まれつき係わる人を不幸にしてしまうほどに強大な魔力を持つ者がいる。
その者の手によるものは魔を帯びる。
受け取れば、並の魔法使い程度であれば、けた外れの魔力のとりことなり身を破滅させてしまうから…。
だから、私は常に人に隔てを置いてきた」

そういいながら密着している彼の言葉と態度の違いに夕鈴は真っ赤になった。

「――じゃあっ! なんでこんなにひっつくんですかっ!」
ギューギューと抑えつけられながら、夕鈴は無駄な抵抗を行った。

そんなことをしている間に、タネはどんどん膨らんで大きくなる。
黎翔がすっと指先を動かし、そのタネを空中に浮かせてみせた。

「君が、特別――だったから」

「…へ?」

「私の愛しい金色の兎だから」
黎翔はそういうとますます彼女をギュッと抱きしめ、その顎を軽く引き上げた。

目と目が合って、二人は至近距離で見つめ合う。
(特別、とか。甘い言葉とか。
夢みたいなことを言って、人を翻弄する悪いひとだ)と、夕鈴は思った。
だが、そんな甘い言葉から逃げることもできなかった。

唇と唇が軽く触れ合った。
チュっと軽い音をたてて、離れる。

「――ゴメン」

彼が謝る言葉に夕鈴はますます混乱した。

「魔法使いの天敵の、魔払いカボチャにも天敵がいてね。
それが金色の兎という存在なんだ。
君はどうやらその金色の兎の化身らしい」

「――え?」
(…ちょっと、待って?
私はただの人間で…バイトで…)

「私、人間ですけど」

「そうだね。普通の人間の家族から生まれた。
でも、持って生まれた魂の本性は代えられない」

(――じゃあ、さっきのあの不思議な夢は、本当だったの?)

夕鈴は再び頭が混乱して頭がグルグルした。

「金色の兎は、魔法に左右されない存在で、
私の魔力にすら影響を受けることがなく、滑らせ核を結ぶ
…だから君に吹き込んだ魔力はカボチャのタネに封じ込められて…君の掌から生まれてきたんだ」

「それは
…私を利用したってことですか?」
夕鈴は彼を見上げた。

「もしかしたら君がそういう存在なのではないかと気が付いた。
だから君にカボチャを探してほしいといって
…結果的に、無理をさせた。
君を傷つけたのなら謝る」

(それなら、ひたいに口づけた魔王の印とか…
タネが生まれるたびに施された口づけは『仕事』で
彼はそのことについて謝ったのだろうか?)

そんな風に思えてくると、夕鈴は悲しくなった。

ジワリと浮かんだ涙を、彼は指で掬い取った。

掬い取った涙は、空中に浮かぶ魔カボチャのタネの滋養となる。
水分を得たタネはますます膨らみ大きくなって
今にも萌芽の時を迎えんとしていた。

「…こんな風に君を利用して――」

黎翔が指を鳴らすと、空中に浮いたまま魔カボチャはふるふると震え、ポン、と芽吹いた。

『ランタンカボチャと呼ばれる魔法使いの天敵の魔封じカボチャが光っている日暮れから夜明けまでの時間帯は魔法は使えないから、魔カボチャも眠って育たない』と水月は言っていたが。しかしさすがにけた外れの魔力を持つ黎翔の結界の中では、ものともしなかった。

「――だが、私は農家なんだ。

私の手は呪われていて、
どんなに耕し育てようとも
何一つ、人に施すことができなかったとしても
――それでも目的の作物を育てる冷酷非情な男だと
君はきっと軽蔑するだろうな」

美しい緑色の双葉が本を開くように広がると、次に中央から立ち上がった目はあっというまに大きな本葉になった。弦がのび、葉が次々と生まれ、苗はあっという間にうねうねと大きくなってゆく。

低い声が響いた。
ハミングをするような不思議な祈りの声。
陛下が歌っていることに、夕鈴は気が付いた。

苗が部屋中に広がる様子は、方淵の温室で水月たちが一緒に合奏したときと似ていた。
ポツンと小さな花芽がつく。

むくむくと大きくなった花芽の付け根は、丸く膨らんでいた。
最初に育てた魔カボチャの花とはあきらかに形が違う。

「…め、ばな? これが?」
夕鈴は花が大きくなるのを見つめていた。

低い声で続いていた歌が止む。
黎翔はその苗を宙に浮かせたまま見守った。

「夜明けに、この花が咲く。その時、君が育てた雄花の花粉を付ければ
きっと実るはずだ」

(ようやく陛下があんなに欲しがっていたカボチャを実らせることができそうなのに。
魔カボチャの花が雌雄2つ揃って…嬉しくて当たり前だろうに、
なぜそんなふうに寂しそうな顔をするの――?)

夕鈴は切なくなった。

「君は少し…休むとよい」

カボチャのつるに覆われた部屋の中でも、夕鈴の寝台は緑に浸蝕されることなく居心地よく保たれているのだった。

彼は優しく夕鈴を抱え上げ寝台に連れてゆくと、そこに降ろした。
すぐさま、背中を向けて出て行こうとする。

「…行かないでください、陛下」

黎翔は
彼女に拒絶されたと思っていたから
全く逆のことを口にした彼女を驚いて振り返る。

夕鈴の手が、彼の裾を引っ張っていた。

「私は、一緒にいますよ?」

手をつなぐ。
引き寄せる。
うなだれ、ひざまずいた黎翔の頭の上から彼女は彼を抱きしめた。

ジワリと伝わる温もりがあまりに居心地よく、黎翔は苦笑した。

「――君は優しい兎だな」

「…そんな風に一人で
黙って遠くに行っちゃダメですよ――」

夕鈴は心配していた。

黎翔は思いだしたように言った。

「…そうやって近づいてきて
少しのことで、大嫌いだ、帰るといって、逃げだすのだろう?
…ひどい兎もいたものだ」
くすくす笑いながら表情を和らげた。

「あれはっ!
ちょっとじゃなくて!!
ヘーカが…(私のファーストキスをっ)!!」

「いや。
すまない
やっぱり君は優しい兎だな」

彼は彼女の髪を優しくなで、顎の線を指先で辿った。

「…陛下?」

頬ずりをされ、額に小さな口づけが落ちた。
夕鈴はギュッと目をつぶってドキドキ胸を高鳴らせたまま身動きできなかった。

チュッと唇に優しいキスが落ちてきた。

「愛しい私の兎――」

*

狼のーかの花嫁(24)


さて。土曜日です
あっという間に一週間が終わりました
(主にリアの方)一つ終えればまだ二つ。二つ目終わればまた三つ…。

妄想の出力のみにお時間割くことができければ
もっとHappyだと思いますし、サクサク進むのでしょう

だがしかし『障害があった方が萌える』とも云いますし。
ないものねだりはせず、現状できる範囲でといいつつ、好き放題書き散らかしてすみませんね。

楽しんでいただければ幸いです。


不条理度UPでサクサク炸裂パロディ&ファンタジー
どうか、ご無理なさいませんよう…。

※警告※
正直、読み手を選ぶ作品かもしれません。

や△おくではございませんが『細かいことを気にしない方』『ノークレームノーリターンで』と、とりあえずご注意は申し上げましたよ?

それでも「もうなんでもどんと来い。勝手にしやがれ」と吹っ切れていらっしゃれば
続きをどうぞ――。

【現パラ】【パロディ】【ファンタジー】【糖度さらに上昇中…?】【何が何だか】

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狼のーかの花嫁(24)
* * * * * * *

黎翔は、自分の頬にめり込んでいた夕鈴のこぶしを、軽くいなしてつかんだ。

夕鈴はハッと青ざめた。

(――これって、不敬罪?)

殴るつもりだったわけではない
グーにするつもりもなかった
思わずつきだした拳が当たっただけ。

思わずやってしまったこととはいえ
結果的には『陛下に手を上げた』と取られても仕方がないシチュエーションだった。

「ご、ごめんなさいっ
殴っちゃってごめんなさい!」

夕鈴は一気に青ざめた。
逆に、おびえる彼女の様子に黎翔自身も内心大いに傷ついたのだが
そんなそぶりも見せず黎翔は冷静な口調でつぶやいた。

「いや。…いやがらせて悪かった
君は私のことなど大っ嫌いなのに…」

「う――、その…
もうあの時は…驚いて」

(その。あの時は
は、初めての…口づけ、だったから。その…)
思いだせばそれは頭の中でグルグルし、
まだ心の整理がついていない夕鈴は涙を浮かべながら、
それでも必死に謝りたい、と願っていた。

「…」
二人の間に沈黙が流れた。

夕鈴はぱっと彼から離れると、ガバっと頭を下げた。
「大嫌いっていってごめんなさいっ!」

「…気にすることはない。
狼陛下は嫌われ者だし」
二人の間に流れる冷え冷えとした距離を感じ、
夕鈴はますます切なくなった。

「そ――そんなこと、言わないでください!」

「そうかな」
狼陛下は自嘲気味に笑った。

夕鈴は彼の手にしがみついて叫んだ。

「陛下は立派な方です!
毎晩一人で畑の巡回をして、それで昼間もご政務に励んで…
国のため、民のため…こんなに一生懸命頑張っていらっしゃって。
――嫌われているだなんて…そんなこと自分で言わないでください」
「…ふ」
引き留められた手をそのままクルリと持ち替え、彼女の手首が捕られた。

彼は冷たい目で彼女を見つめた。
他を圧倒する眼差しに、夕鈴はゾクリと青ざめた。

夕鈴と向かい合ったまま彼は尋ねた。

「では、君は?――
君は
私のことが、好きか?」

「――はぁっ?」

目を逸らすことも許されない。
逃げ隠れできない夕鈴は、みるみる顔を赤らめてそれでも必死に耐えた。

(自分の気持ちを知られちゃダメだ…
だって、私はただのバイトで…)

そんな彼女の戸惑いをよそに、黎翔は彼女の手首をつかんだまま膝の上に抱えた夕鈴に体重をかけのしかかる。

「どう?」

「そ、そんなっ…
私のことはいいんです!」

夕鈴はムキになって答えるが、黎翔は顔色一つ変えずに言い放つ。

「冷酷非情の狼陛下は、人々から恐れられ嫌われているべき王だ
――君だって、狼陛下なんて大っ嫌いなはずだ?」

「…!」

夕鈴は言い返せない自分がもどかしい。

「――もう、そんなことはよい」

黎翔はジッと夕鈴の右手のこぶしを見つめた。
…それは、舌なめずりする狼の目。

「…いっ!?」
背中を這うゾクリとした寒気に青ざめた夕鈴。
押し倒されても動けない。

狼陛下は、捉えた彼女の小さな拳に口づけを落とした。
夕鈴は「ひゃっ!」と声を上げ、彼から与えられた甘酸っぱく、くすぐったいようなその感触に目をギュッと閉じた。

「おっ怒ってるのなら
そんなことしないで
ちゃんとおっしゃって下さい――」

涙目で、彼に懇願する。

「怒ってなんか、いない。
…そんなにおびえると
ますますいじめたくなってしまうじゃないか」
黎翔は笑い、彼女の手首を引き上げ、今度は彼女の腕の内側に口づける。

「ひえぇぇ!」と夕鈴がヘンテコな声をあげれば、ますます狼は薄笑いを浮かべて大胆に彼女の首筋に顔を埋めた。

「嘘っ――!
だって、わたし。いっぱい陛下に失礼を…
だから、嫌われてるのなら私です」

(絶対、怒ってる。
だからこんな嫌がらせを…)

「怒ってなどいない」
耳元でつぶやかれて、夕鈴は首をすくめますます身をすくめるばかり。

「じゃあ、なんでそんなことするんですか!?」

黎翔はゆっくりと体を起こした。
伸し掛かっていた重みが消えたのに、夕鈴は体をすくめ丸まったままだった。

「君が掴んでるそれを…」

「――え?」

「いや、もうよい。
そう…それは人間界に住む君にとって、つまらないことに過ぎない」

(境界線…?)
ズキンと胸に刺さる。

それは『ここからは立ち入るな』という警告?

夕鈴は黎翔の捉えている右手を見つめた。

(そういえば…さっきから手が開かない。
今朝も、こうだった。
この手の中から出てきたのが、実のならない魔カボチャの…)

何が何だか分からない。
聞いても陛下は教えてくれないだろう

でも、私にできることがあるとしたら…

夕鈴は彼を見上げて真剣な声で懇願した。

「…陛下。教えてください」

「ん?」
ジッと見上げる夕鈴の大きな瞳に、黎翔はたまらず笑いをこぼした。

「――キライなわけ、ないじゃないですか…」

「――――え?」

「大好きですよ!
だから、一人で抱え込まないで。
話してくださいっ!」

夕鈴は必死に絞り出すと、視線をそらせてそっぽを向いた。
「――ふっ深い意味はありませんけどっ」

黎翔は目を丸くして、ピシッと動きを止めた。

「大好きだから、
“みんな”陛下のこと心配してるんです」

夕鈴は極力“みんな”という言葉を強調した。
…本当は、誰よりも自分自身が心配をしているくせに
その気持ちを知られてはダメだと思った。

(陛下は魔法使いの国の王様で
私はただの人間のバイト――
迷惑って、思われたくない)

握られた手首。
触れている彼の手が急に熱くなって、力が緩んだ。

「け、決して
変な意味じゃないですからっ
勘違いしないで下さいよ――?」

夕鈴はドキドキして、今すぐここから逃げ去りたかった。
だがどうしても
彼の膝の上に横倒しにされ抱かれたこの体制からは
動くことができなかった。
「知らずにいたかったと――後で後悔しても?」

彼の瞳に、ゆらゆらと映る世界は不思議な色をしていて
夕鈴にとってはそれは未知の世界への入り口のようにも見えた。

「貴方のお役に立てるのなら
決して後悔はしません!」

「魔法の国の出来事に巻き込まれるのが
…怖くないのか?
妃よ」

「――あなたがいてくだされば
何も怖いものなど」
夕鈴は彼から視線を外し、思わず目を伏せる。

「狼陛下を恐れぬとは
君は勇敢な妃だな――」
フッと軽い笑いが漏れた。

「もうすぐ、収穫祭なんでしょ?
形よく、色ツヤよく、そしてなにより一番大きなカボチャが要るんでしょ?
――それは陛下にとって、とっても大切なことなんでしょ?
私にできることは、何なんですか?」

「…知りたい?」

「はい」

黎翔は、真剣な鈴の表情に決意を感じ
ふう…とため息をついた。

「それでも私は妃に甘い。君の嫌がることなら、なにもしない」
「…は?」
何を言うのかと思えば…と思った途端、ひょいと抱え上げられ、ツカツカと奥にある寝台に運ばれた。
ポスンと彼女を寝台に横たえると、狼陛下が彼女の上にのしかかる。

「――それでも続けるか?」

内心(ひえーひえ~っ?)と戸惑いながらも、夕鈴は気丈に彼に向き合った。
「…ど、どうぞ!」

「私の可愛い金色の兎よ。
君は私を魅了し引きつける――甘い香りがするな」

「そ…そんな冗談じゃなくて!
私が知りたいのは―――」

夕鈴は思わず怖くてギュッと目をつぶった。
ぐにゃりと空間がゆがむような違和感で鳥肌が立つ。

「知りたいのは――×× ××……?」
なぜか、すぐそこに居るはずの黎翔の声が遠く聞こえる…
目をつぶっていても、覆いかぶさる黒い影がどんどん近づくのを感じずにはおられなかった。

――ペロリと鼻筋をなめられた。

「ひゃぁあっ!」
夕鈴は思わず声をあげてしまった。

ぶんぶんと、何かが風を切る音。

恐る恐る目を開いた途端、
夕鈴はあっけにとられてしまった。

尻尾をブンブン振り回す
真っ黒で大きな犬?…が、彼女の上に覆いかぶさるように
そこに居た。

*

<お知らせ>コメント欄の件のおわび


<お詫び>

■コメント欄からの送信ができなかった不備について

コメント欄がうまく動かない、何度入力しても反映しないし、ボタンを押してもコメントが送信できないとご連絡をいただき、本当にすみませんでした。

以前コメントできたので、
(現在こちらのブログのソフトをいろいろいじってることもあり)
何が原因かいろいろ探ったところなんとか特定することができ、解決に至りました。
(二種類のプラグインが競合したのか、どちらかの相性が悪かったようです)
せっかくのコメントをうまくお受け取りできなかったこと
本当に申し訳なく、ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

現在、原因を特定し、無事復旧しております
どうぞまたコメント欄をご利用いただければ幸いです。

■感想日記のページ
一般の方にご迷惑をおかけしないよう配慮したいと思い、
メンバーのみのアクセスとさせていただいております。

ご理解いただけるようでしたら、ご登録→ログイン→ どうぞ。

 

[お知らせ]追加分・完売御礼


おはようございます
よいお天気ですね
朝からすみません

たいしたことのないお知らせです。
ご興味ない方はスルーしてくださいm(_ _)m


<本の委託に関するお知らせ>

追加分(最終)は完売いたしました。
お手に取っていただけました皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました
<2015-5-23更新>

(まだ連絡は入っていませんが)とらさんではじまってるようです。
夜のうちに速攻ご注文いただいた方ありがとうございました。
残僅かですがよろしければ…。


■ 白の国サイドストーリーズ  残僅 完売御礼
白の国サイドストーリーズ
クリックでとらさんのサイト


■ 秘密の苑・刺青の男  残僅 完売御礼
秘密の苑・刺青の男
クリックでとらさんのサイト


狼のーかの花嫁(23)


ちょっと息抜きで書けた分だけ…
失礼しますね

二人っきりのお食事会。
はたして狼の飢えた腹は満たされるのでしょうか?
【報復行為】について
七ひきの子ヤギは狼の腹に石を詰めたけど…兎はどうするのかしら。

【現パラ】【ファンタジー】【糖度上昇】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(23)
* * * * * * *

ふさふさとした黒い尻尾が揺れる。

「…うん。気にしないで」
「は?」
ニコニコ顔の黎翔にギュッと抱きしめられ
(なぜ抱きしめる~?!)と夕鈴はジタバタした。

そういうものなのだろうか――?
と夕鈴はあっけにとられた。

「それより、ごはん食べたいな。
ぼく、お腹すいちゃった…」クウン…と鼻声まで聞こえる。

ぎゅうぎゅう抱きしめられる束縛を何とか押し戻し、彼の胸から顔をあげる。
目の前の小犬陛下の頭には――
「陛下…お耳、生えてません、か?」

「二人っきりのときなら、大丈夫だよねっ!
だってゆーりんは僕のお嫁さんだもん!」

(…そうか、そうなの?)

なんとなく丸め込まれたような気がしてしょうがない夕鈴だったが
その甘い笑顔にほだされてしまった。

夕鈴は自分でも顔が赤らむのを感じ、必死でそっけない口調で答えた。

「私は、ただのバイトですよ」

「でも今はお嫁さんだよね!
可愛いお嫁さんの手料理が食べられるなんて、楽しみだなぁ」

「う…」

と夕鈴が顔を上げると、黎翔が手を広げて彼女を解放した。

とん、と背中を押されて夕鈴の視界に入ってきたものは、
つい先ほど彼がパチンと指を鳴らして出した、最新鋭のオープンキッチンだった。

彼が空を仰いで手を差し出すと、ひゅっと音がして星が指先から走った。星は天高く上がるとはじけ、光のシャワーのようにぱあっと降り注ぐ。
光の壁はツルツルのガラス質の床の上に、みるみる天蓋が広がり、あたりは巨大な温室のように仕切られた空間になった。

「――え?」
元、空中農園。今朝は荒れ果てたおぞましい廃墟と化していたのに。
ついさっきはツルツルの殺風景な場所で、
狼陛下がパチン指を鳴らせばキッチンが現れ、
指先から星をだせば大温室に…。

「ね。二人っきりだから。安心して」

ニコニコする彼に押し切られた。

(ここは魔法の国だし。
多少耳や尻尾が生えていようと、誰も気にしないのかもしれない――)

何かちょっぴりおかしいからといって、
いちいち目くじら立てることもないのかも…。

なにしろ、狼陛下という彼の存在自体が非日常的であり不条理の塊だと分かってきたから。

* * * * * * *

料理の合間。

うかうかしていれば背中から抱きしめられるわ、
隙あらば盗み食いはするわ…

『本当にこのひとがあの狼陛下?』というほどのはしゃぎっぷり。

「ヘーカが邪魔するから
あんま大したものは出来なかったじゃないですか…」

夕鈴はため息をついた。

「でも、楽しかったね
さあ、食べよう! 早くはやく!」

背中を押されて食卓に誘う彼。
しごく当然とばかりに、夕鈴は彼の膝の上へと抱え上げられた。

彼女は真っ赤になって固まってしまったが
「お嫁さんの手作りご飯!」とあまりに嬉しそうにはしゃがれては、
気勢をそがれ怒ることもできない。

「じゃあいただきま~す!」
黎翔はたっぷり用意されているスープの大鉢に手を伸ばした。

「あっ、…それまだ熱いですよ!?」
夕鈴の声に、彼は伸ばしかけた手を止め、ジッと彼女を見つめた。

傍でそんな風に見つめられると、いたたまれなくなってしまう。

「…ちょっと待ってください、冷ましますから!」

目をそらす口実に、彼女は汁椀を手に取った。
大鉢から掬って、椀に取り分ける…ただそれだけなのに、彼に見つめられているだけで指が震えた。

(しゅ、集中!)
さじで汁を掬い、
ふぅ、ふぅと覚ますことだけに集中した。

「…もう、いいですよ?」

さじをさしだすと、すぐ傍から覗きこまれた紅い瞳に
ドクンと心臓が鳴った。

「君から、欲しい」

(どっどうしてっ ――狼陛下!?)

目がそらせない。
夕鈴はさじで救った汁を彼の口許へ運ぶ。

薄い唇がゆっくり開くと、彼女の差し出すさじを受け、
彼はされるがままに汁を含む。

ペロリ、と彼の赤い舌が口許をぬぐう様を目撃し
夕鈴は体中から熱が一気にのぼせてしまった。

「…美味しいな」

ジッと瞬きもせずに、彼に見つめられる。

「もっ、もうっ、大丈夫みたいですっ!
どうぞお召し上がりくださいっ!」

「…もっと欲しいな。君のが」

(ギャーっ)と夕鈴は内心身もだえしたが、
近すぎる二人の距離で逃げ場がない。

口許が近づく。

カラン…と夕鈴の手元から、握り締めていたさじが落ちる。

「もう終わりか?
それともこっちの方が…甘い、と?」

(きーっ、陛下っ!! 近い近い近い近い~)

ぐあぁああっ!!

変な叫び声をあげて、夕鈴のパニック・リアクションが発動した。
夕鈴は右の握りこぶしで、彼の接近を阻んだ。

「…ちょっ。ゆーりん。
さすがにグーはないんじゃ――?」

急に小犬化した彼がトホホ顔。
領土上陸を阻まれたまま、めり込んだ夕鈴のこぶしで
時が止まったようだった。

「…ぎゃっ! あの…」

(あれ?――手が開かない?!)

*

狼のーかの花嫁(22)


こんばんは~(´ω`)ノ

ようやくお二人再会をはたしました。
ケンカせずに仲良くやってほしいものです ←

【現パラ】【ファンタジー】【微糖 / 低カロリー】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(22)
* * * * * * *

ここは片田舎の白陽と呼ばれる土地。
この地は見渡す限りの農地が広がり、表向きは首都から遠く離れた辺境の一地区、国内有
数の農業地帯でありながら、人間の目に触れぬよう何重にも施された複雑な呪文による封
印結界によって守られた人知れぬ魔法使いの隠れ里であった。
古よりの因習で国土領内における治外法権地域等をもっているといわれ、人々はこの地を
白き魔法使いの納める白陽国、と呼んだ。

――珀 黎翔。
即位後、国内で起きていた川の氾濫を収め独自の治水工法で農地を整備した。
行き詰まった兄の経営を引き継いだ珀黎翔は、次世代コンピューターを積んだハイテク耕
作機械導入を強みに、やる気を失い荒れ果てていた農地を活性化させ、名実ともに中央政
治の実権を握った若き国王。
人々は彼を恐れ『冷酷非情の農業王、狼陛下』と呼ぶ――。

そんな彼のたった一人の妃、夕鈴は
日の暮れた道端で、独りぼっちで泣いていた。

「所詮、短期間のバイトだもの…
代わりはいくらでもいるって――」そういう契約だった。

「でも、せめて
少しでも陛下の役に立ちたかったのに」

夕鈴の涙は止まるどころか、ますますべそべそと泣くばかり。

もうダメだ。
絶対に呆れられた。
陛下の役に立つどころか、足手まといにしかならない自分がふがいない。
カボチャもダメだった。
陛下のお傍になんて、戻れない――。

次から次へと涙がこぼれた。

広い農道。
不思議なことにあたりには車どころか人っ子一人通らない。

覆いかぶさるように影を作っていた人物から、
しゃがみ込んだ夕鈴の髪に伸ばした指先が触れた。

夕鈴はピクリと震える。

「そんなに泣かないでくれ、夕鈴」
優しい声だった。

顎をとり、軽く顔を上げる。

「どう慰めればいいいのかわからない…
泣くな――」

穏やかな眼差しを向けられ、夕鈴は切ない思いで胸が張り裂けそうになる。
改めて今日の失敗が思いだされ、夕鈴に再び涙がこみ上げる。

ポロポロと真珠のような涙をこぼす彼女を慰める術を持たぬ黎翔。

「夕鈴は何も心配しなくていいから…
一緒に、帰ろう」
手を握る小犬陛下の声に、夕鈴はホッとしてしまった。

「…はい」

ようやく涙が止まった次の瞬間、夕鈴はぎょっとした。
突然ひざの裏と背中に手が回され、抱き上げられたのだ。

「…あ、あの陛下?」

「うん? しっかり捕まっててね」

彼はニッと笑うと、マントをひるがえし空中に飛び上った。

「ぎゃ…!?~~~~~っ!?」

「ゆーりん。大丈夫、落ち着いて」
耳元の風切音の合間に、耳元でささやかれた。

…そういえば、ホーキでとんだのは夢じゃなかったっけ…
と思いだし、ギュッと彼の背中に手を回した。

足元にはランタンカボチャの光が地平線までキラキラとどこまでも続いていた。

実は、その存在こそが陛下を苦しめている恐ろしいものだと聞きながら
夕鈴はその景色をやはり美しいと思った。

「怖い?…寒くない?」
陛下の体温はひんやりとしていた。
触れられてこもる自分の熱の方が、夕鈴は恥ずかしかった。

「いいえ、あなたと居れば、
怖いものなんか、ありません――」

伏した夕鈴の瞳に宿る光を覗きこみ
一瞬ふっとゆるんだ彼の表情は、夕鈴には見えなかった。

* * * * * * *

屋上テラスに降り立つ。
軽く足をつくと、魔法は終わった。
ぐにゃりと空間が曲がるような違和感、そして重力が体を捕らえ、体は急に重くなった気
がする。

夕鈴は少しぼうっとしながらあたりを見回した。

明かりは灯っていた。
(きっと克右さんががんばって修理したに違いない)
と、少し落ち着いたのか、そんなことに夕鈴は思いをめぐらす余裕ができていた。
だが、ビルは以前と雰囲気が変わっていた。

日中、出がけに見た時のここ空中庭園は、酷く荒れ果て、醜く変容した恐ろしい雰囲気だ
ったのに…今は殺風景なまでのツルツルしたガラスで覆われていた。
もう、畑はなかった。

少し離れた展望の良い場所に、しゃれた食卓が一つ。そして椅子が二脚。

立っているのに、いまだ彼に腕を回しギュッとしがみついている自分に気が付き、夕鈴は
慌てて手をぱっと広げて後じさった。

「いっいつまでもっ、ごっ、ごめんなさいっ!
それに、バイトなんかお迎えに来させちゃって…」

しどろもどろで謝る彼女の腕を引っ張り引き寄せると
彼は背中から手を回してギュッと彼女を抱きしめた。

「…だって、空の散歩は寒かったから。
こうしてるとあったかいね」

抱きしめられて真っ赤になる彼女をいとおしそうにゴロゴロとすり寄る小犬陛下を、夕鈴
は拒否することもできなかった。

「な、なんだかお腹がすいちゃいました…」
そういって、なんとか距離を取ろうと話題を変えた。

「…そっか」
パチン、と彼が指を鳴らすと
ガラスのテラスの一角に、キッチンが現れた。

「…え?」
夕鈴は目をこすった。
今の今まで何もなかったところに…?

「魔法、みたい」
夕鈴のつぶやきを聞いて、黎翔は笑った。

「魔法使いって、信じてくれた?」

ハッとして夕鈴はコクコクとうなづく。

「でもね。なんでもかんでも魔法っていうのが良い訳じゃあないんだ。
――夕鈴。約束、覚えてる?」

「え?」

「今度は夕鈴が料理を作ってくれるって」

そういえば、以前、この空中庭園のテラスが農園だったとき、陛下が作ってくれた朝食を
食べながら、そう約束したんだっけ、と夕鈴は思いだした。

「はいっ!
…私は魔法なんか使えませんから、
お口にあうか、わかりませんけど…」

「じゃあ、作ってくれる?」

「今から、ですか?」

「うん!」

彼があんまりニコニコ嬉しそうにするものだから、夕鈴は仕方なく了承した。

「ほんとに、庶民的な料理しかできませんからねっ?」

「うん、楽しみだなあ。お嫁さんの手作り料理」

「そんな期待されても困りますっ!!
…手早く、ちゃっちゃと作る程度ですよ?」

「うんっ!」
ぶんぶんと尻尾が触れてるような幻が見えた…いや、幻ではない。
本当に尻尾が…
夕鈴はごしごしと目をこすった。

「ヘーカ…その、尻尾は?――」

*

狼のーかの花嫁(21)


引き続き、水・方・紅の演奏会から…。

もし、こんな贅沢なアンサンブルが本当に開催されるのでしたら
砂カブリのマス席で(?)鑑賞したいものでございます。

そして。へいかー かみーばー

【現パラ】【ファンタジー】【再開】
* * * * * * *
狼のーかの花嫁(21)
* * * * * * *

柳方淵の研究用ガラス温室の中は、
氾水月率いる(?)にわかごしらえの楽団の演奏会場と化していた。
方淵は二胡、紅珠は琴、そして水月の月琴。
三者三様それぞれの腕前もあいまって、それは天上の音楽のように美しく鳴り響いた。

夕鈴は夢見心地な空間で、老子に「魔カボチャのタネかもしれん」と云われた、不思議なタネを蒔いたプランターをジッと覗き込んでいた。

目の前の土が、ふるふるっと震えたかと思った途端、
今度は むく、むく…ムクっ と土が持ち上がり
キラキラした緑の芽が、茶色の土の合間から顔をだした。

大きな双葉が鎌首をもたげる様に土の中から現れた。
まるでノートを広げたような大きさ。厚みのある葉はただものではない。

三人の美しい合奏は佳境にはいり、楽の音につられるように、どんどんと双葉は展葉していった。双葉が伸びきると、今度はこれまた大きな本葉がその間から現れ、まるで特殊撮影の早回しのカメラで見ているように次々葉が生まれ、中心から太いツルが螺旋を描きながら鞭のようにしなりながらグングンと伸びて行った。

みるみる植物は育っていく。
夕鈴は驚きあっけにとられて見守った。

ツルは温室の床を這いまわり葉を増やし、今や温室は緑のじゅうたんで埋め尽くされた。
三人の美しい合奏にあわせ、葉擦れの音がザワザワと、
あたかも千の奏者による大合奏のように鳴り響く。

夕鈴は「これなら、収穫祭までにカボチャを実らせることができるわっ」と興奮し声を上げた。

長い長い曲も終わりに近づいていた。

それまで温室中をはい回りうごめいていたカボチャのツルがすうっと、力なく床に横たわった。
すると、一斉に葉擦れの音がやみ、静かになった。

方淵はキュっと弓を離すと、演奏の手を止めた。
すべての音が止み、あたりはシーンと静まり返った。

「ツルの…成長が、止まった?」
方淵がつぶやく。

魔カボチャと思われるタネから生えた親ツルは、夕鈴の足より太くなっているし、ガラス温室の内部は大かぼちゃの大きな葉で埋め尽くされていた。

ついさっきまでタネの姿だったのに、今や温室中を埋め尽くすほどに育ったカボチャ。
短い時間で爆発的に大きく育ってしまった

だがすべての動きは魔法切れのように終わってしまった。

「これで、終わりですか?」
夕鈴が尋ねた。

あたりはシーンと静まり返り、何事も起きる気配がない。

「――おかしい」
二胡を抱えた方淵がぼそりと声をあげた。

「へ?」

「つぼみが、つかない」

「あ!
そういえば、葉ばかり茂って、いっこうに実のつく気配がないですね
でも、それじゃあ困るんです。だって欲しいのはカボチャの実なんですもの!」

夕鈴は少し慌ててしまった。

水月は無言で、周囲に広がったカボチャの葉のじゅうたんを見回していた。

「土づくりの失敗? チッ…。それとも何かの必要成分を見落としていたのか。オレはっ!」

方淵はあわてて傍らのバインダーと鉛筆を取り上げ、パラパラとページをめくった。

「方淵、もうこれでお終い?
もしかして、あのタネは魔カボチャじゃなかったってこと?
それとも、何かの失敗でこの子の成長は止まっちゃったってこと?
水月さん、どう思います?」
夕鈴も蒼白になっていた。

『たった一つでもいい。魔カボチャが実りますように』…と思っていたのに。
一つも実がつかないのでは、全くふりだしに戻ってしまったことになる。

「君が言うように、不思議なタネから生えたというのなら、普通のカボチャとは違う理をもつ植物なのかもしれないよ。もうちょっと待とうよ」
水月はノンビリとしたものだ。

「ハッ、貴様はお目出度い奴だな!
この苗の成長は、もう止まってしまったんだ。
一日中、葉っぱ相手に楽器を弾いているがいい」

夕鈴もはっとなってあたりを見回した。
外をみれば日が陰りはじめ、もう日暮れが近い。

「夕暮れ時が訪れたね
…じゃあ。そろそろ、仕上げの出番かな」

水月は月琴を置き、懐から綾錦の袋を取り出した。

「笛?」
錦織の袋の中からでてきたのは、美しい細工が施された1本の横笛。

「お兄様は、楽器ならなんでも弾きこなすことができるのですわ」
紅珠がウットリと手を合わせて兄を自慢げに見つめる。

水月は構えると、端正な唇を拭き口にそっと当てて、息を吹きこんだ。

ひょうひょうひゅるりと透き通った笛の音が空気を切り裂き、あたりを震わせた。
それは世にも妙なる美々しい旋律だった。
夕鈴もぼおっとして聞き惚れた。

すると、太いツルの付け根の方でふわっと煙のように五色の光が立ちのぼった。
よくみると小さな膨らみが、ポコンと音をたて、葉の根元に生まれた。

一曲吹き終わり、水月は呼吸のために一度構えを解いた。

「…ね?」

水月の微笑みに、紅珠が感動して頷く。
「わたくし、感動いたしました! さすがはお兄様ですわっ!
ね、お妃様。素晴らしいでしょ、お兄様の笛は」

「ええ…本当に素敵な曲だな~って思います」
夕鈴は素人なりに、純粋な気持ちで感想を述べた。

「そういっていただければ光栄です」
水月はニコと笑うと、もう一曲、吹き始めた。

「ああ、とても素敵ですわ、お兄様!
この感動をお伝えするために、わたくしもご一緒いたしますわね!」

紅珠はそういって、涙ぐみながらも水月の笛に琴をあわせはじめた。

(この兄妹、天然だわっ!
電波系…?っていうかあっちの人っぽい)
と内心思いながら、夕鈴は美しい兄妹を眺めた。

「仕方あるまい。もう一曲だけ付き合ってやるか」
方淵が二胡の弓を取り上げた。
水月の笛に、紅珠の細い指で琴を掻き鳴らすグリッサンドの滑奏音で華やかな色どりを加え、そこに方淵の二胡でしなやかな旋律が絡まる。
三人の合奏が始まると最初、葉の付け根にできた豆粒ほどのつぼみは、美しい音楽に誘われるようにぐんぐんと大きくなり、夕鈴の顔よりも大きくなり…そのうち両手で抱えられないほど大きなつぼみに育った。

「わぁ…大きなお花が咲きそうですね!」
夕鈴は感嘆の声をあげた。

やがて花のガクの内側から黄色い花びらのつぼみが見えてきた。

「やった! これでカボチャができるんですね?
陛下に教えてあげなくちゃ!」

「馬鹿。良くみろ。つぼみは一つだけだ――」
方淵は演奏する音を止めずに叫んだ。

「へ?
――何か問題でもあるんですか?
そりゃ、たくさんお花が付けば嬉しいですけど。
魔カボチャは一つでいい、って聞いてます
あんまり欲張らなくても、一つで問題ないんじゃ」

「馬鹿者っ!
カボチャは雄花と雌花の二つが揃わねば、実を結ばんと
そんなことも貴女は知らんのかっ!
ハッ。それでよくも農家王たる陛下のお傍近くにいて恥ずかしくないのか。
これだから――」

「はあぁ?」

どうしてこうも、この男は人にケチをつけては喧嘩を売るのだろう――。
まったく腹立たしい。

だが彼の言うことは正論だった。

「雄花だけでは。実を結ぶことはない――?
それってどういう意味?
花は花でしょ?」

名家の娘として教養高き紅珠は、頬を染めて説明を取り持った。

「…花の中にも、幾百幾千の中からたった一つの素晴らしい出会いを求めて
このように花が男女分かれているものもあるのですわ、お妃様。
とってもロマンチックではありませんか?
まるで、陛下とお妃様の出会いのように――ああっ、私、想像してしまいましたっ!
お二人のなれそめはきっと――」

「ふんっ、花粉にロマンチックもなにもあるものか」
現実派の方淵が突っ込みをいれた。

「えっと、じゃあそれはそれで。
でもどうしてお花の雄雌が、方淵には分かるの?」

「見えれば分かるに決まっておろう!」

(だからいちいち怒らなくても…)

「とにかく、これは雄花だ!」と方淵。
「…雄花ですねぇ」水月
「確かに、わたくしにも雄花に見えますわ」と紅珠。

「…というわけだ! たとえ咲いたとしても実を付けることは絶対にない!
ハッ残念だったな」

「雄花には、実はつかないんですね?」

「当たり前だ!」

方淵に断言され、夕鈴はガッカリしてしまった。

水月も残念そうに笛を降ろした。

「もう、他につぼみがつく可能性は…?」

「分かりませんが。今のところその気配はありませんね。もう逢魔が時も終わりに近づきました…そろそろ魔法の時間切れです。これがもし本物の魔カボチャであるというのなら、日暮れから夜明けまでのランタンカボチャが活性化する時間帯はヒッソリと息を潜めていることでしょう」

夕鈴はジッと見つめていたが、動きを止めてしまった魔カボチャのツルには、それ以上一つとしてつぼみが着くことは無かった。

「…このつぼみは雄花だから、たとえ咲いても実はつかないんですね?
ようするに、ダメなんですね?」

「そうだ。
これで貴女にも、咲かせ、実らせる苦労が
少しは分かったであろう!」

世界一たくさんトマトが実っているギネスに挑戦中の方淵は、あと一歩というところで夕鈴に邪魔をされたそのことを、どうやらまだ根に持っているらしい。

安全なガラス温室を借りて
四苦八苦してようやく芽がでて、育ててみたけど、
今度は「雄花」一つしかつぼみをつけない。

「…もう、陽もくれてきましたし
今日はここまでにしましょう」

夕鈴はそう言わざるを得なかった。

これ以上三人を拘束していたところで、何か状況が変わるとも思えなかった。

「本当に素敵な音楽会でしたわね。お兄様。
…あの私、お腹がすきましたわ」

「紅珠、今日は父上の家によって夕餉をと言われているのだが」
「私もそうですの」
「そうか、では一緒に行こう」
氾家もこのあと家族団らんがあるようだった。

(…ああ。
そうだった。私、飛び出してきたままだった…)
夕鈴は帰る場所のある二人のやりとりに、チクリと胸を痛めた。

恨めしそうに方淵の方をチラリと見上げれば、怒ったような顔をして見返される。
「はっ。私も今日のデータ管理をまとめねばならん。
皆、一刻も早くこの温室から出て行ってくれないか?」

方淵にもすげなく言われ、
三人は立ち上がると温室の扉の方へと追い立てられた。

「はなはだ迷惑ではあるが、今日のところは陛下のためと免じこのカボチャの苗は預かっておいてやってやる。だが私も忙しい。とにかく一度、帰れ」
方淵に突き放されるように言い渡された。

夕鈴はカボチャの葉で埋め尽くされた温室をぐるりと振り返る。

「…せっかくここまできたのに――ダメだなんて。」
夕鈴は唇を噛みしめる。

兄と二人の帰り支度を済ませた紅珠。
「では、ごきげんよう、お妃様」
と愛らしい挨拶で別れを告げた。

夕鈴は必死に笑顔を作って、手を振った。

* * * * * * *

帰り路。
街灯が映し出す自分の細長い影を踏みながら
夕鈴はとぼとぼと歩いていた。

「…どこに帰ろう。
魔カボチャの実が付かないんじゃ…帰れない。
まだ陛下にお会いできない…
私って――役立たず」

街路灯に照らされた道端で、ついに夕鈴は力なくしゃがみ込んだ。
…ついに気持ちをこらえることができなくなった夕鈴は、膝を抱えて涙をこらえた。

目の前に影が落ちた。
夕鈴が見上げると、マントを目深にかぶった人が立っていた。

「夕鈴?」

へっ
そ、その声は――

「陛下っ?!」

まさか
まさか本物っ?

なんで王様自ら、こんな道端に出向いてるの――!?

夕鈴は立ち上がった。
伸ばした指先で顎にかるく触れられ、夕鈴はびくり、と背中をこわばらせた。

「だっ ダメっ! 近寄らないでくださいっ」

彼に口づけをされたことに驚いてキライといって飛び出してしまったけど…本当は彼のことを嫌いではない自分がいたことに、夕鈴は戸惑っていた。

彼の頼みの魔カボチャを持って帰ることで夕鈴は仲直りがしたかったのだ。

だが、唯一の希望だったタネには実がつかない。当てがはずれ、気落ちしている夕鈴にはまだ彼に合わせる顔がなかった…

「まだ怒っているのか?」
「いえっ!」
黎翔から顔を背けながら夕鈴はぶんぶんと首を振って否定した。
夕鈴は顔が赤らむのを自覚した。
涙がこぼれてしまう。

「ちがうっ違うんですっ! これは私の問題で…」

黎翔は低い声でつぶやいた。

「――まだ、怖い。か?
私が魔法使いだから?」

冷たい狼陛下の声に、夕鈴はますます涙がこぼれて仕方がなかった。

(陛下が魔法使いだってそんなの、全然関係ない。
陛下の役に立ちたいのに…
大嫌いっていっちゃったけど――陛下に、嫌われたくない)

言いたいことがうまく言葉にできない夕鈴は、
ただ切なくて涙があふれた…

*

狼のーかの花嫁(20)


こんばんは。一週間、あっという間でしたね。

さて
登場人物増えております。
(前回うっかり書いてしまいました。すみません)

お妃様の城出パート、いつ二人は再会できるのやら…。
氾・柳、相集い、ヘーカのために頑張るのです。
種まきの行方は…引き続き音楽会です。

【現パラ】【ファンタジー】【陛下不在】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(20)
* * * * * * *

「じゃあ、もう一度…、楽の音に集中して?」

水月はかるく目を閉じ、美しい横顔で弾きはじめた。
数小節の伴奏にあわせ、方淵が渋々と二胡の旋律を被せる。

「…さっきより、まし?」
夕鈴もコクコクとうなづく。
みやびなことには門外漢の夕鈴にも、これだけ繰り返し聞かされていれば、なんとなく良しあしも分かり始めるというものだ。

(水月さんの楽の音は本当に素敵だし…かといって、方淵も下手じゃなくて。
ううん。意外なことに、むしろすごく上手だと思うけど。
いかんせん、二人の息があってない感じよね…)

夕鈴は自分が弾けないくせに、心の中で二人の演奏を評してみた。

覆いかぶさるようにジッと例のタネを埋めたところを見守る。
プランターの土の表面は、先ほど夕鈴の草笛で発せられた攻撃のショックで陥没したままだった…。
じわじわと罪悪感が背中を這い上る。

「方淵。カボチャのタネって、蒔いてどれくらいで芽を出すものなの?」

「気温や環境条件にも左右されるが、通常は1週間程度だ」

「この調子だと、やっぱり時間がかかるのかしら。これ…。
もしかしたら、ただ大きいだけの普通のカボチャ、とか――
陛下の21歳の収穫祭まで、時間がないのに」

夕鈴はしょんぼりした。

「やっぱり、無理なんでしょうか…」

「まあ、そのようにおっしゃらず。もう少し気長に様子を見ましょう」
水月が優しく言葉をかけた。

その時、温室の外から「…お兄様?」と女性の声がした。

合奏の音が途切れ、
それまでうっとりと目を閉じて演奏していた水月が
パチッと目をあけて顔をあげた。

「――その声は、紅珠?」

「はい」
楚々とした少女が、侍女2名を伴い、温室の外に立っていた。
涼やかな声は凛として響く。

「…どうしたんだい、紅珠。こんなところまできて」
水月が目を丸くする。

「ハッ、こんなところで悪かったな」方淵がイラっとした表情を見せた。

「お兄様にお見せしたいものがあって研究室にお寄りしましたら、
チューちゃんが泣いてましたの。お兄様はどこかしらとあたりを探しておりましたら、外から月琴の音が聞こえてきて…私、すぐにお兄様の音と分かりましたわ。
お兄様、こんなところにも出入りされるのですね」

「…こんなところで悪かったな」
方淵がさらにブスリとした表情になる。
眉根の皺はますます深まるばかりだ。

「失礼いたしました。お妃様、妹の氾紅珠です」
水月が彼女の手を引き、紹介をした。

「お妃様っ!? あの?
狼陛下の唯一といわれる?! まあっ光栄ですわっ!
こんなところでお会いできるだなんて――。
お妃様。はじめまして、紅珠と及びくださいませ」

頬染めて両手を揃え、恭しくお辞儀をした美少女をみて、夕鈴は驚いた。

「…かっ…かわいいっ!?
(ほっそー、ちっさー、美少女―っ?!
ほんとに同じ人間っ?! )」後半の言葉はあわてて飲み込んだ。

立ち居振る舞いの優雅さ、華やかでおっとりとした仕草をみれば、筋金入りの箱入り娘と分かる。
…さぞ良いところの家柄のお嬢様に違いがない。

「はじめまして」
夕鈴はドキドキしながら答えた。

差し出した手を握れば、節もない白い細い指はほっそりとしなやかで、働き者の夕鈴の手とは月とすっぽんだった。

「どうか仲良くしてくださいまし」

彼女の眩しい笑顔にクラクラする夕鈴だった。
紅珠はそんなことも気にする様子がなく、愛らしい微笑みを浮かべて兄の方へ振り返った。

「そうそう。お兄様、チューちゃんが…」

「ちゅー ちゃん?」
夕鈴が首をひねると、紅珠は袖のなかから小さなツボを取り出してみせた。
「ああ、この子ですわ」
ツボを受け取りフタをあけると、中から小さなタコが出てきた。

美少女の美しい白い手の“それ”は、あまりにも不釣り合いな取り合わせだったが、『紅珠ならもう何でも許しちゃう』と思ってしまえるような雰囲気がそこにはあった。
夕鈴はさらにクラクラとした。

「貴様、この温室に、――その邪悪なる存在を持ち込むな!」
方淵が怒ってギャアギャアとまくしたてた。

「ああ、紅珠。手間をかけたね…方淵。大きな声で妹がビックリするだろ?」

水月が妹の手からこれまた雅やかなしぐさでタコを受け取る。
受け取ったタコを方淵の鼻づらまで近寄せた。

「…ほら、危害を加えるような子ではないよ、安心したまえ」

方淵は真っ青になって、動きが止まった。

意外な取り合わせではあったが…天然・美青年が持っても、それはそれでキマルから不思議だった。

(…そういえば以前イケスの研究室に行ったとき、見かけたタコ、よね)
夕鈴は思いだした。

「どうやらお散歩の時間だったのを置いてけぼりにされて、拗ねてるみたいだね」
水月は白い指でタコの喉元をくすぐるように動かすと
タコは気持ちよさそうにゴロゴロとすり寄る。

「しゅ、シュールだわ…」夕鈴は思わず目が離せない。

「水月、貴様っもう一度言う。
その様に邪悪なものを、この温室に持ち込むな!
陛下の大切なものをお育てしている最中に、なんという――」
方淵は怒っているのだが、その顔は青ざめ、額には脂汗が浮いている。

「方淵、あなた。具合でも悪いの?」

「…この子は大丈夫だよ。
邪悪な力なんて持ってない――そういう子なんだ」
水月は掌の上にタコを乗せてふんわり笑った。

「…とにかくっ! それを仕舞えっ!
私の温室にそれだけは許せんっツ!」

方淵は耐えられないとばかり、水月の背中を押した。
その拍子にピョイっとタコが宙をまった…

「ひやぁあっ――!!」
方淵がらしからぬ奇声をあげて、飛びずさった。
…カタカタと震えている。

「タコだけは、やめろぉっ!」
方淵が情けない大声を出した。
夕鈴は方淵の意外な一面を見て目がしばたたかせた。

「――もしかして、方淵。君、タコ、苦手なのかい?」

「う、うるさいッ!
エビルなデビルであろうがっ!
その生き物だけは許せん。とにかくお引き取り願おう!」

口では必死に否定するが、方淵の顔色の悪さは尋常ではなかった。

「ははは、すまない。では連れて帰らせよう」

水月はあくまでもエレガントに表向きはにこやかだった
…だが情報収集家としての彼の脳裏に『柳方淵、タコに怯える』というデーターはしっかりと書き加えられた。

水月は悪びれる様子もない。

「…紅珠、きみの侍女の一人にこの子を私の研究室まで届けさせて。
それから、君の楽器は出せるかな?
もし君がよかったら一緒に合奏してほしいのだけど――
お妃様のために。ひいては陛下のために
とっても役にたつことなんだ」

「――はい」
詳細はわからずとも、紅珠にこの美しく優しい兄の頼みごとを断わることができようか…否。一も二もなく合奏に加わることになった。

不思議なことに、紅珠が温室の外に待たせていた侍女たちに声をかけると、大きな琴がすぐに温室に持ち込まれた。小さなタコつぼはお引き取り願われたらしい…。

紅珠の楽器は象嵌し螺鈿細工が施された美しくも繊細な琴だった。

――(こんなものを侍女さんたちはいつも持ち歩いているの?
いいところのお嬢様ってそういうもの…?)
と夕鈴は頭をひねったあと

(…あ! もしかして。
これが魔法ってもの?)――と夕鈴は得心した。

魔法使いは普段、迂闊に人間の前では魔法を使うことはないけれど
ここでは当たり前のように使われているらしい。

「ちっ。…とにかく、まだこの先どうなるかもわからん。
急いだほうが良いのでは」

方淵は嬉しくなさそうだが、陛下のための仕事ならば全力で取り組む姿勢は明白だった。

月琴の水月、二胡の方淵、琴の紅珠が
夕鈴が抱えているプランターの周りに座り直す。

「では、始めるよ?」

息をあわせて弾きはじめれば、
なんともまばゆく豪華な顔ぶれの奏でる音楽は、先ほどとは雲泥の差。
紅珠の美しくも華やかな琴の音が、ギクシャクしていた二人の間を取り持ったのだろうか。

うっとりと夕鈴も聞き惚れる。

すると、ムク…、とプランターの土が動いた。

「…あ!」

夕鈴も興奮して思わず声をあげた。

「芽が、でましたよっ!!」

*

狼のーかの花嫁(19)


こんばんは。つづきです。

ハチャメチャだけヒートアップ、陛下の出番が少ないのに、また一人、登場人物が増えました(←ごめんなさい、20話の話題をここに書いちゃった、です)
…陛下。かみーばーっ。

伏線を回収しながら、どこまで行っても未来。どこまで行っても農地。

悩乱を畏れぬつわものへ。大丈夫でしたら、どうぞ――。

【現パラ】【ファンタジー】【伏線ドンドン回収中】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(19)
* * * * * * *

夕鈴は走った。
事務棟と、その奥にある立派なガラス温室のある研究所。

夕鈴はこの時間なら、ガラス温室の方に目的の人物がいるのではないかと目星をつけ、
事務所の脇を通って温室の方へ駆け寄った。
ドア側から見た温室内部は内側に掛けられた厚ぼったいビニールカーテンで曇り、よく見えない。
扉を開けようと手を伸ばした途端、いきなりガチャリと扉が開いた。
中から姿を現したのは、眉間にしわを寄せた黒髪の男。
沢山の薬瓶や書類を突っ込んだかごを男は両手に抱えている。

ん、と一瞬表情を変えたが、それ以外特別気にする様子もなく、ズカズカと温室から歩きだす。
夕鈴は思わず道をあけた。
男のポニーテールが揺れる背中に向かって挨拶をする。

「こ、こんにちはっ!」
男は振り返り、彼女に一瞥をくれると、きつい口調で一言挨拶を返した。

「…変な顔をしている。見苦しい」

「――はぁっ!?」

(会うなり女性に向かって、なんて失礼なことを言うんだろう、この男は――!)

夕鈴は腹立たしく思ったが、今は緊急時。
仏頂面の相手だろうが、ここはニッコリ職業的スマイルで切り抜けよう!と夕鈴はガッツを燃やした。

かごをかかえたまま、すたすたと事務所に向けて歩く男の後ろから前に回りこみ、彼を真正面から見据えた。
男はかごを抱えたままスイッと彼女を避けてそのまま歩き続けた。

「何か用か」

夕鈴も必死で男についてゆく。

「あのっ!
いきなりお仕事でお忙しいところお邪魔して、失礼いたします」

「…そうと知りながら何故押しかける?」
ハッとあざけるようなため息。

(くーっ! いちいち腹立たしい男だわね~っ!!
くっそう。あんたしか頼る相手を思いつかなかったんだもん。
そうでなきゃ、私だってお願いなんてしたくないわよ――)
した手、した手に、と夕鈴は心を落ち着かせる。

「あの。わたし貴方にお願いがあって…」

「私は今ギネスまであと1個、トマトを実らせるために必死なのだ!
その大切な時間を割いて何故“人間”のお前の願いなど聞かねばならん?」
男はピリピリと神経質でとげのある口調で答えた。

「私も時間がないんです! あなたしか頼れる人がいないんです!」
夕鈴も必死だった。

男は急に足を止、手に抱えていた重そうなカゴを一旦足元に降ろした。
温室の外に設置されているメーターのフタをあけ、数値を見取る。おもむろにカゴからバインダーをとりあげ、鉛筆で記入を始めた。
「――なんだか知らんが、貴女がフラフラ出歩いてることを、あの方はご存じなのか?」

「いえっ! あくまで私の独断ですっ!」

「では手伝えん。帰れ」
パタンとバインダーを閉じると、再び籠の中へと放りこむ。

「でもっ! 陛下のためなんです!
どうしても、いますぐ、助けてほしいことがあるんです!」

「…陛下の?」

この言葉に、男はピクリと反応をした。

* * * * * * *

ガラス越しの陽光を受け、キラキラと輝くトマトの大樹。
その根元に設置された特大プランターを囲み、雅な合奏が…なんだか乱れた音を奏でていた。

「――ああ、方淵。きみ、そこは…」
曲の合間に、淡い栗色の長髪をかるく三つ編みにした美青年が月琴の義甲(ピック)を振り上げた。

音が止む。

「なんだ、水月。間違えたとしたら私ではない」

「うん、君は正確だよ、方淵。…でも」

「でも、なんだ?」

「せっかくのサビなんだから、そこは旋律の君がもっと唄ってもいいんじゃないかい?」

「ハッ、馬鹿な。
リズムは正確に刻んでこそ、合奏が成り立つのではないか!
それぞれが自分勝手に奏でたら、
せっかく緻密に書き上げられた作曲家の魂を軽んずことになるではないか!」

方淵は容赦なく自分の信じる筋を通した。

「…」
水月は困ったような笑顔を顔に浮かべ、再び義甲を月琴の絃にあて伴奏をはじめた。

「もう一度、ここからいいかい?」
水月が促すと、方淵はムスッとした表情でもう一度楽器を構え直す。

「そもそも…なぜこうなった?」

方淵、と呼ばれた男は二胡の弓を操りながら
眉間にいつにもまして深い皺を刻んでいた。

「だって。陛下のためなのでしょ?
“これ”を大きく育てるために…」
夕鈴はジッとプランターの中の土を見つめている。

まだピクリとも動かない。
「…さっきはむくむく大きくなったのに…
ここに埋めてからちっとも変化がないわね。
なんとしても早く育てなきゃいけないのに――」

「お前が無理やり押しかけてだな、私の大切なガラス温室に陣取って――!
私はトマトあと一個、他の実が落ちる前に最後の花を結ばせなければならない、
今が一番大切な時間なのに!」

「それは、外は退魔カボチャがうじゃうじゃで、危なっかしくて大事な陛下の魔カボチャを育てられないからここに…」

「そもそも、いつのまに水月まで――」

「だって、前に約束したんですもの。
大きくするのはお得意だと――」

「…得意とはいっておりませんが。
私はライフワークとして、より質の高い音楽で大きく生き物を育てる研究を…」

「でもこの間、イケスにお邪魔した時『大きくしてくれる』って。
もし気に入ったカボチャが手に入ったら、
持っていけば月夜の晩に笛を吹いて、もっともっと大きくしてくれるって言ったじゃないですか」
「今は昼日中だな。それに私の温室だ!
しかも貴様は笛ではないし、なぜ私まで弾かねばならんのだ!」
方淵が突っ込んだ。

「陛下のためなんです。お願いします!」
夕鈴は頭をさげた。

「お妃様がたっての願いでは、断れないだろ、方淵。
月夜の晩は一日のうちで最も波動の通りがいいからね。…
今は昼ですし、合奏で補うしかないじゃないかと。
独奏よりも、合奏。
ようは、対象により質の高い音楽を聞かせることでいいデータが出てるんだ」

「能書きはいい、早く仕事をしろ!
ピクリとも大きくならんではないか!
水月、お前の研究理論は確かなのかっ!? そもそもお前の研究対象は魚類ではないか!」

「うーん。基本的には生物全般に効果は認められてるんだけど――。
まだちょっと何かが足りないのかな…。
選曲の問題か、あるいは音量? それとも合奏のできばえか…
君さえもっとノッて演奏してくれさえすれば。困ったなぁ」

そう言いながらも水月は楽しそうに楽器を奏で続け、
のんびりと答える様はちっとも困っては見えなかった。

「合奏の方が効果が出るというのなら
そこの女。せめてお前も何か楽器を持って加われ!」

「ええっ?! 私ですか?」

「そうですね。何かお好みの楽器はありますか?
――何なりとご用意いたしますが…」
何故か水月は眼をキラキラさせて夕鈴を見つめた。

夕鈴は後じさりした。
「…草笛、とかじゃ、ダメですか?」
「くさ、ぶえ――?」

「ほら、こんなふうに。適当な葉っぱで…」
夕鈴が傍にあった枝から葉っぱをプチンと採ったとたん、
方淵がクワっと目を見開いた。

「きさま――、大切な私の実験作物を――っ!?」

「まあ、まあ」
水月がいなす。

夕鈴は悪びれる様子もなく、葉をくちびるに当て、指で押さえると、勢いよく吹いた…

「ぷぅううぅううううう~~~~♪」

目の前の、あの魔カボチャを埋めたプランターの土が
力なく沈み込んだ…

そして
――ボタ ボタ ボタッ…と背後で音がした

方淵はハッと振り返って青ざめた。

「トっ トマトっ!? 大切なトマトが…
ギネスまで、あと一つだったのが、3つも落ちたぁ~~っ!?」

方淵は逆上し、ギッと夕鈴を睨んだ。涙目だ。

「音楽とは程遠い破壊音を出すのはやめろっ!! 
そこで貴女は大人しく聴いているがいいっ!!」

「――ほら。音楽の有用性が、植物でも実証されただろ?方淵。」

水月はふふっと優しく笑って見せた。
方淵はギネス記録まであと1個まで迫った大事なトマトの大樹から実を3つも落とされ、肩を振るわせた。

夕鈴は真っ赤になりながら、ごめんなさい、ごめんなさいと謝った。

「…まあまぁ、方淵。君の研究はまた4つ実をつければいいじゃないか。
さ、もう一回、頭から演るよ?」
と相変わらず水月は呑気なものだった。

*