狼のーかの花嫁(13)


こんばんは~
今日は良いお天気でしたね、4月に夏日とかちょっとびっくりですが
さわやかな初夏の気候を迎え
GWの前半戦スタートも気持ちよさそうですね

久しぶりに真面目な連日更新です。
(驚き)

さて。
飛び出した夕鈴を拾った張老子。
軽トラで流れてたラジオから仕入れた情報で夕鈴愕然。
そしてそして、いろいろ不思議な現象が…。

【現パラ】【ファンタジー】【決して無理しないでください】

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狼のーかの花嫁(13)
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「もうお主、知っとるんじゃろ。ここは魔法使いの里で、これは魔法使いラジオじゃよ。ゴシップも多くての、…うしし。暇つぶしで聞き流すにはなかなか良いぞ」
小屋の鍵をあけて、老子が手招きした。

「…ま、立ち話もなんじゃて」
夕鈴は素直に老子の小屋に足を踏み入れた。

簡素な小屋の内部には、農業に関する沢山の古い書物が詰め込まれ、古めかしい農機具と天秤やビーカーやフラスコなどの科学実験装置のような複雑な器具まであった。
老子が小さな椅子を奥から持ち出し、埃を払って夕鈴に座るよう勧めた。
机を挟んで座ると、夕鈴は先ほどの話を続けた。

「あの。さっきのラジオ。
カボチャのコンテストでヘーカが負けたら
美魔女さんたちまとめて後宮入り決定って――?」

ああ、そのことか、と老子はこともなげに肯定した。

「ま、平たくいえばそういうことになるの。
魔力を持つものはその器に相応しいものを、
手にせねばならん」

「ヘーカは納得して?」

「こっちの世界では、そういうしきたりになっておってなぁ。
王にはお世継ぎが必要じゃ。退魔カボチャをこの地に集め管理するのが我らがの仕事。それをしのぐ魔力を有することが国王の条件じゃ。
退魔カボチャが暴れて、我々が逆に封じられてしまったら我ら国民全員に被害が及ぼう。
国王の魔力がいまいちなら、早めに魔力の強い娘と多くの子を設け、より多くの魔力でこの地を支え、さらにはお子の中から次世代のより魔力の大きい王を選ぶことが肝要じゃ」

「…それって。陛下の力量が及ばなければ、つまり大きなカボチャが手に入らなかったら。たったそれだけで、勝手にお妃をたくさん貰わなきゃいけないって、決められちゃうってこと…? 陛下の意思は?好みは――?」

「心配せんと、選りすぐりの美女の魔法のつかい手の中には、そのうち好みのタイプも見つかろうて。この国の長い歴史において過去の王はほとんどが後宮を持ち、そうしてきたものじゃ。いくら強大な魔力の王族といえど、才あふれる連合の総合魔力には及ばぬことのほうが多い…。また、自身が21歳の儀式である公開評議において連合をしのぐ魔力を認めらた時でも、歴代の王はより多くの畑に種をまくため後宮を持ったものじゃ」

「畑に種をまくために後宮…?」
ポカンと夕鈴が見つめたので
「…まあ、そこはおいおい」
とニヤニヤする老子。

「でも、…ちょっと待ってください。
でもそれって、その21歳の公開評議で、王様が勝っても負けても、あんまり違いがないってことじゃないですか?」

「そうではない。
少々意味は異なるが、絶対君主か、民主か。
唯一の王の持つ絶対的な魔力が世を治めるか、
評議員含めた国家という組織の魔力が治めるか、という違いじゃろうな」

(…どっちにしても、ヘーカ個人は、あまり幸せじゃなさそうね)
夕鈴は思った。

「どちらにせよ、我ら魔法使いの国では魔力こそが絶対的基準なんじゃ。
強大な魔力を持つ王を戴くことこそが肝要である以上、後宮が存在しなかった例はほとんどなく、むしろ後宮を持たぬ狼陛下の方がおかしいと誰もが首をひねっておる。
国の存続のためにも、王宮に後宮の存在はあるべきものなんじゃ。
かくいうわしも、歴代王の後宮管理人が正式な役職じゃが、…とほほ、狼陛下は後宮など無用とおっしゃる。おかげでワシは今じゃ毎日畑仕事じゃよ」

「その…後宮って、やっぱり?」
夕鈴は口にしながらなぜか赤面した。

何を想像したんじゃろ、と老子はキャと嬉しそうに悲鳴をあげた。
鬼面の夕鈴が回りこみ、肘鉄を食らわせた。
フーフーとお互い肩で息をして再び席に付く。

「もぉー、先行き短い老人に対して何するんじゃ、乱暴な…!(ブツブツ)
そう、後宮ってゆーのは、お前さんのご想像通り。
たーくさん、奥さんがいるのが、普通なんじゃ。国王陛下には」

「たーくさん?!」

「…それって、嫌じゃないんですか?
ヘーカ、それじゃ気が休まるときがないっていうか…」

「それも仕方がないじゃろ。後宮は陛下のお心を癒すための存在するものであるが、最も大切な存在意義は、国のため、お世継ぎを得ることじゃ。魔法を封じる退魔カボチャを世界から隔絶するは我らが魔法使い一族の宿命。それを束ねる王にはより強大な力を皆が求める。より魔力の強い子孫を残し、国を安定することも魔法使いの国に君臨する王の仕事じゃ。お前さんたち、人間にはちょいと理解できんことかもしれんがな…。
王が生まれながら備えた魔力の器を見極めるには、21歳がその節目。そういうしきたりなのじゃよ」

(…イヤ)と、夕鈴は思った。
だが、口には出せなかった。

(あの優しい人が、勝手にお嫁さんを沢山って。
愛してるわけでもなく、ただ、たくさんのお子を産ませるために…、大勢のお嫁さん?
って…お、お、お子?)

いくら奥手の夕鈴とはいえ、子どもが生まれてくる前の段階におぼろげながらも何事か必要であるということは想像できて、想像するとそれは結構刺激的な内容であった。

「いくらあの方が『妃は早い、今は国を立て直すのが優先だ』とおっしゃろうと今年ばかりは避けて通れまいて。
ま。じゃが、あの陛下のこと。たとえ評議会銀連合が相手でも負けはせんじゃろ。
なんといってもあの方は伝説のアングマールの魔王を凌ぐとまで言われる強大な魔法の使い手じゃからの!
そりゃーもー、わしもあの方、怖く怖くて…!」

「――アング、マー…?」

「…まあ、とにかく。あの方は強く、厳しい御方じゃ。
お主は心配せんでも良い」

「でも――まだ、カボチャがないって。
私に探してほしいって…」
夕鈴は急に心配になってきた。

「まあ…それはそうじゃが」
老子は言葉を濁した。

「あと、9日しかないって?」

「なんとかするじゃろ。あの方なら。
――まあ、あまり心配せんことじゃ。
ああ、お茶でもいれようかの」

老子は茶を入れるために立ち上がった。

カチャカチャと隅っこから茶器をとりだした老子。
ヤカンに向けて指をパチンと慣らすと、ヤカンの注ぎ口からゆらりと湯気が立った。

老子が茶葉を入れた茶器を用意し、ヤカンを傾けると湯が出てきた。
夕鈴は今の今まで、魔法と言われても絵空事のように感じていたが
今まさに目の前で何事か起き、ピシッと背中を正して老子を指さした。

「…そ、それ。魔法ですか?」

「――ん?」
老子は何事かと眼を丸くして夕鈴の方を見返した。
夕鈴は震える指先で、ヤカンを指さす。

「今、お湯沸しませんでした? そのヤカンの…」

「あーお主、魔法を見るのは初めてかっ!」
老子は手で額をペシッと叩いて、舌を出した。

「いやー、いつもの調子で。
普段、人間の前ではやらんのじゃが。この魔法使いの里では周りは勝手知ったる魔法使いばかりじゃし、老人一人の小屋じゃから、火の用心でのう」

老子は茶器にフタをして蒸らす間、茶菓子を探しにゴソゴソとあちこちを掻きまぜていた。

「…魔法って、そうとう便利、ですね」
まだ半信半疑の夕鈴は、ジイィッと不審げに老子の手元を見つめたが、お湯はたしかに沸し立てで、老子と夕鈴の二人が小屋に来る前に準備などしておける様子もなかったし、タネ仕掛けもなさそうだった。

探し当てたせんべいを一枚早速出して、パリンと頬張る老子。
「ま、わし。これでも相当位が上の魔法使いじゃよ、エッヘン!」
老子本人の談には信憑性が低い気もしたが、老人のメンツのためにも今はそういうことにしておいてあげようと夕鈴は思った。

「陛下も、そういうことできるんですか?」

「…お前さん! なーに言っておるんじゃっ!
ヘーカはものスゴイ魔力の持ち主だぞ?
ヤカンの湯どころか、広いお風呂だって一瞬で沸されるぞい、きっと。多分。
いや見たことは無いんじゃが、やられたこともないかもしれんが、とにかくそれはもう、わしらの何倍もなーんばいもすごいんじゃ!」

何だかやっぱり胡散臭い。

お茶の入った茶器を夕鈴のほうへ差し出し、老子は少し寂しそうに言った。

「とにかく、あの方の魔力はすさまじすぎるのじゃ…。
桁違いの魔力は触れるものすべて、魔を帯びさせると
あの方は自分を戒めて人と人の間にまで距離をとられてしまわれる…」

「…距離?」

夕鈴は考え込んでしまった。
張老子の言う狼陛下と、実際の自分の中での印象で、へだたりを感じたのだった。

そんなことはない…。
あの優しい人はすぐに私にくっついて
小犬のように優しい顔で…

「――私はそんなよそよそしいとか思いませんでした。
この間も、わざわざ朝食を作って、食べさせてくれましたし」

夕鈴の言ったことに、老子はとても驚いた顔をした。

「なぬ?! 陛下の…料理? まさか――陛下の天空農園の…」

「オーブンで焼いた焼き芋と…厚切りのベーコンとソーセージと目玉焼き。
すごく簡単な料理だし、初めてだって言ってましたけど
すごく美味しかったです」

夕鈴は思い出しながら、味を思い出してちょっと幸せな気分になった。

「…そ、それでっ!!
お前さん、身体は大丈夫だったのか?」

真顔の老子のその気迫に、夕鈴はちょっぴり驚いた。
ガタンと机が傾き、お茶が零れた。
「あっお茶がっ!」
夕鈴はこぼれたお茶を拭こうと、ポケットからハンカチを取り出した。
ハンカチを出すときに、ポケットからポロリと何かが零れた。

「もうっ!! 老子ったら、お茶、熱いんですから
気を付けてくださいっ」
夕鈴が机を拭いている間、老子は夕鈴のポケットからこぼれた何かに気が付き、慌てて回り込んで床の上に落ちていたそれを、じいっと見つめた。

「…さっきの件じゃが。
お主、陛下の御手によるものを食べ、本当になんともなかったんか?」

「ええ、別に…」
夕鈴はけろりと答えた。

老子は慌てて傍にあった棚から小さな空の小瓶を素早く取ると、
床の上のものを手で触れない様にそっとビンの中に掬い取った。

「たしかに、お傍で過ごしたお主からは陛下の魔力は感じられん。その額の印のみと…不思議な感じはしていたのじゃが…。
――お主、今これを落したこれに、何か見覚えは?」

「…あ。それ!
つい、持ってきちゃいました」

「つい、持ってきた、とは?」

「昨日、左手の拳が開かなくて、それで、えーっと…たしか陛下に――



××!?」

夕鈴は唐突に今朝のやり取りを思い出し、またもや真っ赤になって噴火した。
夕鈴が一人でのたうつ様子をみて、何かあったと察し、
そのあたりツッコんで訊きたい老子ではあったが
今はこの物の正体が知ることが優先と「それで?」と続きの話を促した。

「――ととととととにかく、手が開いたら
中から出てきたんです、それが」

フムと考え込んで、老子はもう一度ビンの中身と夕鈴の顔を交互に見比べた。

「変なものですか? それ」

「…タネ、じゃ」

「え?」

「カボチャのタネ、じゃ――」

*

狼のーかの花嫁(12)


こんばんは~^^
続きます。

ぶっ飛んだ捏造とか、ダメな方は
早めに離脱下さいますよう…

あんなことやこんなことがあって
勢い余ってビル出(?)した夕鈴。

ひょんなことから
徐々にわかってきたこと、とは――。

復習は
狼のーかの花嫁 (1)~(11)
よろしければご覧ください(*´ω`*)

【現パラ】【ファンタジー】【いろんな人がいろんな役で横切ります】

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狼のーかの花嫁(12)
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夕鈴は道路を独りトボトボと歩いていた。
広大な農地を縦断する農道はよく整備されている。端に止まった軽トラが数台。
畑ではせっせと農作業中の人影が遠くにぽつんぽつんとみられた。
その他ほとんど通りがかる車もない。

夕鈴が陛下のためにカボチャを探したのはつい昨日のことだったのに、彼女の眼にはもうその時と違う景色のように映った。

(力になりたかったのに…悔しい)
夕鈴は、ただ彼を助けたくて必死だったはずなのに。

そもそも彼女は高給に目がくらみ、騙されるように狼陛下の偽の婚約者というバイトを引き受けさせられただけだった。
他を屈服させる眼光を放ち、誰からも怖れられる当主、珀黎翔。『狼陛下』と呼ばれるその人物が、実はとても優しい一面を持った人だった。
誰よりも強く、他者を圧倒する狼陛下というのはハッタリの演技と打ち明け、優し気な顔を曇らせて、彼は「10日後にひかえた21歳の収穫祭までに特別なカボチャを探してほしい」と彼女に願った。
陛下と呼ばれる人の意外な一面を見てしまった故の同情と言われれば、確かに夕鈴には小犬のような陛下を捨てておけない気がした。だがもう一方で、あの恐ろしい人に魅かれている自分もいて…複雑な感情に夕鈴は自分自身、戸惑っていた。

「く、く、口づけとか――人の気も知らないでっ!」
彼に寝台の上で口づけされた感触を思い出し、夕鈴はカーッと再び熱が上がり、ボフンと頭が噴火した。

狼陛下のことを、ちょっとでも『カッコいい』と思った自分が悔しい。

「へーかの、女ったらしっ!」

夕鈴は自分が彼に魅かれていたことを素直に認めたくなかった。
だからなおさら腹が立って仕方がない。

「カボチャをくれないとイタズラするよ、って。どういう気よ!
秘密を話すなら、やることやるとか言って、く、く、口づけとか…!!
私が何も知らないからって、馬鹿にして――!」

夕鈴は涙が出そうになったのを必死でこらえた。
「好きでもないくせに…口づけなんて―――」

それが悔しかった。

今なら分かる。
そう「あの人が好き」だと夕鈴は気が付いた。

だから、彼が好きなはずのない自分に対し、あのような行為をしたことが許せなかった。

「狼陛下は、演技上手…」

あの人は、狼陛下を演じているだけ。
妃を愛するふりが上手くて、優しくて。
与えられたその甘すぎる記憶に
まるで愛されていると勘違いしてしまいそうになる。

だけど本当は、縁談よけのバイト。
『誰でもよかったんですよ』と李順さんは言った。
いずれ『ふさわしい誰か』を妃に迎えるとも聞いた。
あの人のやさしさも、ぬくもりも、いずれ誰かのものになる。
私はただのバイトだから、いる間だけ、あの人のお役に立てればいい…。

「ひ、――ヒトを、からかって…!」

ほんのちょっとでも、あの人に魅かれた自分が馬鹿らしくなった。

(泣いたら敗け。からかわれた位で何よっ。
ウソつきの女っタラシのためになんか、私、絶対、泣かない――)

『帰ってやる、帰ってやる、もう帰ってやる――!
カボチャが無くて困るなら、困りなさいっ!!
どうせ私がいなくても、誰か美人で可愛い代わりの女性がすぐに来るに決まってる――』

「所詮、私じゃなくたって、あの人にとって、どうでもいいのよ。
だって、私はただの――バイトだから…」

彼女の目に、悔しさで涙がにじむ。
道もボンヤリして良く見えない。

「でも、私はほんとに心配していたのに。
私は陛下の見方ですよ、って言ったのに…」

その時、軽トラがトトトトトと通りがかって夕鈴の横を通り過ぎ、ブレーキを踏んで止まった。
張老人は、そのしわくちゃな小さな顔を軽トラの窓からにょっきり突き出した。
「…おや、お前さん。こんなとこで何しておるんじゃ!」

夕鈴は、自分が広い農場の真ん中で立ち往生していたことにハッと気が付いた。
溢れそうになっていた涙をグッと押し戻し、彼女は気丈に応えた。

「――帰るんです!」

張老子は天気の話でもするようにさりげなく返した。
「ほう、帰る?
…どこに」

「家です!」

「家。ふむ。…じゃあ、バイトは辞めるってことかの?
…お前さん。前借した給料は、どうする気じゃ?」

それを聞いて、夕鈴はビクリと動きを止めた。

「あ…。あの、――それは」
夕鈴は急に現実が襲ってきた。

このバイトの待遇はものすごく良い条件だった。
なのに、面接を受ける時点で、既に父岩圭に対し、先払いで一時金を渡したため、夕鈴はこのバイトを断ろうにも断れなかった経緯があった。

新たなバイトを探せばいい、でも…
可愛い弟、青慎の夏期講習の費用は、なんとかねん出してやらねば。
あの子の勉強にとって、今が一番大事な時期なのに…

でも、もし。このバイトを断って、違約金とか取られたらそれこそ元も子も――?

「――それは考えてませんでした」
あっさり夕鈴は敗北を認めた。

「まあ。それはさておき。
…茶でも飲みにこんか? わしの畑の小屋ならいつでも大歓迎じゃ」

ひょいと老子が降りて、車をぐるりと回ると、助手席のドアを開けていた。
促され、張老子の軽トラに同乗した夕鈴は、先ほどまでの勢いはどこへやら。
しょんぼりと座って老子の行く先に付いて行った。

車内にはポップスのような軽妙な曲が流れていた。
老子がラジオの音量つまみを指先でつまみ、ふんふーんと下手くそな鼻歌交じりに音を大きくする。
夕鈴にとって初めて聞く曲だったが無言よりは気が紛れた。

彼女が落ち着いたのを見計らってようやく老子が口を開いた。

「…どうじゃ? 上手くいっておらんのか」

「ええ、まあ」

「…にしては、お前さんをえらくお気に召した様じゃな、陛下は!」
うししし、といやらしい笑いをかみ殺し、老子は飄々と運転を続けた。

老子の方から、ときどき「ふん、ふ~ん」と調子っぱずれな鼻歌が流れる。
見るものが見れば、老子のあの寸足らずな短い手足でどうやって車を扱っているのか疑問もわいただろう。
だが夕鈴は車の免許も持っておらず、老子が運転している状況が不自然と感じる余裕もなかった。まさか老子の鼻歌そのものが運転魔法とも思わず、夕鈴は老子の隣に座っていた。

魔法使いである老子の眼には見える、夕鈴の額に輝く狼陛下の印。
長い直線道路に入ったところで、張老人はチラリチラリとそれに視線をやりながら、夕鈴に尋ねた。

「ところで、お前さん。
陛下と、もうチューしちゃったのかの?」
鼻歌の合間に、いきなり核心をズバリとつかれ、夕鈴は一瞬心臓が止まりそうなほどドキリとした。

カマをかけた途端、夕鈴は自分の唇を両手で覆った。

それをみて老子は察し、途端に顔を赤らめ「いや~わし、なーんも心配することなかった。ラブラブなんじゃな~」と言いながら自分もモジモジしながら「甘酸っぱいのぉ~」とか「ヒューヒュー」とかつぶやくものだから、夕鈴にとって…正直ちょっとウザかった。

ハンドルから離した両手を揉みしだきながら頬を染めた老子が夕鈴の方へ振り被る。

「で――実際、お前さん。どうなんじゃ?」

「ちょ、ちょっと! 前みて安全運転してくださいよっ!
ハンドルっ、ハンドル握ってください~っ!!」

夕鈴は老子を押し戻し、ちゃんと運転席に座るよう促した。

「…お堅いのう」
「固い柔らかいの話じゃありませんっ!
事故でも起こしたらどーするんですかっ! その齢で大けがしたら大変ですよっ?
もうっ!」
夕鈴があまりにも真剣なものだから、
老子はブツブツ言いながらも真面目にハンドルを握ってみせた。

「ほれ、大丈夫じゃよ。わしは10年間無事故無違反のゴールド免許だから。
…だがなんじゃか、わし、ごまかされたような気分がするんじゃが?」

「ご、ごまかしてなんかっ」

「チューは、したんじゃろ? そのデコにある印が更に輝いておる。
お前さん、ヘーカとどこまで行ったんじゃ?」

「どっ、ドコ?! 印って」
腰を浮かして車のミラーを引っ張り、
自分の顔が見える位置にあわせると
必死で自分の顔を見ようと覗き込む。

だが人間の夕鈴には、自分の顔に何も変化など見えなかった。
ホッとしながら(老子にまで、からかわれたんだ」と夕鈴は思った。

さらには今朝、寝台の上で受けた彼からの口づけを思いだし、尚更真っ赤になった。

「お前さんの目にはみえなくても、わしにはみえる。
あの方はお前さんを守りたいんじゃろ。
あの方は強大な力をお持ちの特別の方じゃからな…。その額の印が何よりの証拠。
ふぅーーむ?
…にしては、それ以外からはあのお方の魔力を感じないが――」

「…魔力?」

「…もう、お前さんも、気づいておるんじゃろ?」
老子は少し真面目な顔をして、ハンドルのその先を見つめていた。

『…魔法使い』だと、陛下は言った。あれが冗談なのか、本当なのか、それは夕鈴も混乱していて正直よく分からない。
(でも、彼は。私の耳に入れる必要がないことは一切話さないけど、嘘はつかない。
いつも狼陛下の演技しているから、せめて私の前だけは嘘つかないのが楽だというから…それを私も叶えたかった。
じゃあ、夜ホウキで空を飛んだのも、カボチャに食べられたのも、ヘーカが魔法使いの王様っていうのも、全部――?!)

夕鈴は考え込んでしまった。
そのうち軽トラの音の悪いラジオが聞くともなしに耳に入ってきた。
そのうちラジオの内容の違和感に夕鈴は気づき、耳をすましてラジオに聞き入った。

何故か、先ほどからラジオでは聞いたことのない音楽ばかりかけるし、
人を食ったような冗談めいた話や、時には聞いたことのない言語まで飛び出した。
そして、極め付けの情報コーナーの内容に、夕鈴はギクリとした。

「――このコーナーは、あなたのマジック・ナビゲーター、桃香ちゃんがお送りしまーす♪
さあて今週のパンプキン・トーク情報コーナー。
いよいよ9日間で、待ちに待った収穫祭ですね~。みんな準備は万端ですかー?

コンテストといえばカボチャ・コンテスト。みなさん、期日を守ってしっかりエントリーしてクダサイね♪
そして!『ミスター魔術師&ミス美魔女コンテスト』。
例年最高の盛り上がりを見せますよねー。
この後お知らせするけど今年のミス美魔女には豪華特典付きよ!
特典コースは年齢制限有りでクオリティも高い超難関だけど、
腕に覚えのある20代以下のヤング美魔女の皆様、
振るってエントリーしてくださいね!
それから今年の目玉情報。
今年はガチな祭祀儀式も見逃せないですよ。
そう、なんと、今年は歴史的な魔法比べが開催されるんです!
例年、王宮特別祭祀の儀式場で公開評議が開かれるのは皆も知っての通りよね。
でも今年は特別。
だってなんといっても狼陛下21歳の収穫祭ですもの!
審査対象は、色つやよく、形よく、そしてとびっきり大きなカボチャ!
いったい狼陛下はどんなカボチャを見せて下さるのかしら!
陛下お一人のお力と、選び抜かれた評議会議員連合メンバーの総合魔力。
果たしてどっちが格上か、今から桃香ドキドキしちゃう。

圧倒的な魔力を誇る狼陛下?
それともやっぱり古株の練り上げられた魔力を結集した連合?
ちなみに私のボスも評議会メンバーで参加するんで。
いやー桃香ちゃんもどっちを応援しようか思わず迷っちゃうんですけど~(笑)。

もちろん一対多だから毎回評議会連合が有利でしょうけど
狼陛下のお力はそれをもしのぐんじゃないかって評判も信憑性高いし。
今から白熱した魔カボチャ合戦にみんな期待も高まってるわよ。

そ、し、て♪
なんといっても今どきの魔女子が注目してる最大のポイント!

陛下が評議会議員連合に敗れた場合、
『ミス美魔女』コンテスト20代以下フルスペック部門の
上位入選・入賞者全員は、もれなく後宮入りの栄冠を手にするそうよ♪

家柄、魔力、美しさを兼ね備えた20代以下の皆様、
国中からふるってご応募下さいねー♪
ま、うちのお嬢様にかなう人はいないとおもうけど。
でも特典は上位入選、入賞の全員の大盤振る舞い!
これは見逃せませんよ、是非エントリーしなきゃ。
だって、陛下。最高に強くてカッコいいものぉ。

最近一人婚約者をお迎えになったというけど、
今回の魔力比べの結果次第でみんなにもチャンスはあるってわけ!
…かくいう私もお妃様の椅子ねらって頑張ってま~す。
って、お嬢様に叱られちゃうけど、てへ♪

どんなお妃様が迎えられるのかみんなウズウズしてますよねー。
そんなわけで、今年の収穫祭は話題性十分、
私もこれから毎日いろんな情報をお届けする予定デス、チェックしてね♪
エブリワン、エブリデイ!
パンプキン・トーク情報コーナーを明日もお楽しみに~っ♪

さ、次のリクエストは
『ケータ君@こんな名曲リクエストするとはオレ様はなんて偉大なんだ』さんから戴いた…」

唐突にラジオはスチャラカなメロディーに切り替わった。

いつの間にか、老子の鼻歌が止んでいた。
「…着いたぞい」

のほほんとした声に、夕鈴はハッとなってキョロキョロあたりを見回した。
軽トラは減速して道の脇に寄せて、張老人はギッとサイドブレーキを勢いよく引いた。
エンジンが止まったとたんにラジオもピタリと音が止んでしまった。
あたりがシーンと静まり返る。

夕鈴は老子の方を振り返り、襟元を掴んで引き寄せた。

「…張老子、このラジオ――?」
「ん? ああ…」
夕鈴はものすごく複雑で変な顔をしていた。

「…これって。もしかして、冗談じゃなくて?
ホントのラジオ放送なんですか?」

「んー…」
老子はケラケラと笑って、バシバシ夕鈴の肩を叩いた。

(つづく)

*

狼のーかの花嫁(11)


ご無沙汰でした、再開です。

狼のーかの花嫁(11)

ほぼ5か月間のブランクを経て連載再開、
長らくお休みをいただきありがとうございました。

ここまでのお話は… 狼のーかの花嫁 (1)~(10)
よろしければご覧ください(*´ω`*)

【現パラ】【ファンタジー】【微甘】

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狼のーかの花嫁(11)
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狼陛下の唯一の妃の部屋は白亜のビルの18階にあった。
天蓋につきの大きなベッドには白いレースをふんだんに用いたネグリジェを身にまとった夕鈴と、狼陛下。

寝台の上で二人はお互いを見つめ合って横になっていた。
覆いかぶさった黎翔を両手で押し上げるように必死で距離を取った夕鈴は、あまりのことに思考停止状態に陥っていた。

目が覚めたら、陛下とベッドで一緒に居て
昨晩はカボチャに食べられて意識を失った…らしい。
そして、
(…ファ、ファーストキス――)
夕鈴は真っ赤になって呆然として彼を見つめ返していた。

真っ白な敷布の上に横たわった夕鈴の金茶の髪が広がり、白い肌を朱に染める彼女を冷静に見下ろしながら、彼は寂しげに言った。

「僕はね。
…魔法使いの王様、なんだ」

そのとき、夕鈴の握り締められていた左こぶしは
それまで開こうとしても開かなかったはずなのに、
自然とゆるみ指の隙間から何か小さなものがポロリと寝台の敷布の上に零れ落ちた。

黎翔は、その零れ落ちたそれに一瞬だけチラリと目をやると、覚悟を決めたようにもう一度とても冷めた表情で彼女を見下ろした。

冷たい紅い瞳に――夕鈴は、思わずゾクリと震えた。

彼を押して二人の距離を取ろうと抵抗していた彼女の腕の両手首を
狼陛下は難なく捕らえる。
力で叶うわけはなかった。
夕鈴は寝台に縫いとめ、寝台に横たわった無抵抗の彼女に狼陛下は覆いかぶさり、
彼女にゆっくりとその端正な顔を近寄せた。

「覚悟もないのに踏み込めば、
痛い目に会う」

低い声で彼はつぶやくと、
動けない彼女にもう一度、ゆっくり口づけを落とした。

重ねて口づけを受けた彼女は
ファーストキスを奪われた上
「魔王」とか、痛い目に、とか――!?
夕鈴の瞳にみるみる涙が溜まる。

「うわああああああああんっ!!」
夕鈴はパニックを起こし、大きな声で泣き叫んだ。

「――!!!」
今の今まで狼だった陛下がさーっと青ざめた。

夕鈴にとっては「初めて」で…
余裕シャクシャクの陛下にとって、そんなのは「よくあること」かもしれない。
けど、自分にとっての「最初」を――
訳も分からぬ理由で、義務みたいに口づけされたくなかった。

「ご… ごめんっ!!」
狼陛下だった黎翔が、一気に青ざめ、小犬にもどった。

夕鈴は余りのショックに、あたり構わず手足をばたつかせ、手近にあった羽枕を探り当てるとそれを掴み、あたり構わず振り回し激しく抵抗をした。

「――で… 出ていってくださいっ!
バカ―っ!!!」

「ご、ごめっ!
今のはダメだった、ゴメン!」
小犬になった黎翔は青ざめた表情で、防戦一方。

「あっち行って~!!!」
夕鈴は大きな声で泣き叫び、陛下にむけてバシバシと枕をたたきつけて暴れた。

夕鈴の大声に、隣室で控えていた者たちがあわただしく動き始めた。
「陛下、お妃様、どうかなさいました――?」とパタパタと足音が近づく。

更に黎翔は慌てた。
「何でもない、お前たちは下がれ!」

暴れる夕鈴を避け、黎翔はどんどんと窓の方へと追いやられる。

「キライ、
狼陛下なんか
大っキライ!!」

夕鈴は叫ぶと、馬鹿力でグイグイと陛下をテラスの方へと押し出した。

ガチャリ、と大きなガラス戸を開く。
轟轟と風が吹き込み、白い瀟洒なカーテンがブワッと巻き上がる。

夕鈴は破れて、羽毛をまき散らす羽枕の残骸をブンブン振り回し、陛下をシッチャかめっちゃか打つと
「出てって!!」と叫び、
陛下を無理やり部屋の外に押し出すと、ぴしゃり、と扉を閉じてしまった。

夕鈴は涙がこぼれる瞳をギュッと閉じ
背中で戸を押し、体全身で彼を拒んだ。

大っ嫌い…

大っ嫌い――

黎翔は蒼白になった。
大っ嫌い、という彼女の叫びが黎翔の胸をえぐった。

「ゆーりん…」

妃の部屋を追いだされ、テラスに佇んでいた黎翔はしょぼんとうなだれ、18階の妃の部屋とテラスを挟んだ向かい側の自室にトボトボと帰って行った。

* * * * * * *

最高級の仕立てのビジネススーツに身を包んだ狼陛下は、真っ白なバラの大きな花束を抱えて立っていた。

白陽ローズガーデンという大温室で栽培された「唯一の花嫁」という名の新品種で、見事に咲き誇った白バラだった。
朝の出来事を反省し夕鈴が落ち着くころを見計らい、謝罪に彼女の部屋を訪れた黎翔。

コツコツ、とノックをして
中の様子をうかがう。

「…ごめん、ゆーりん」

返事はない。

もう一度ノックをし、ノブに手をかけると、鍵がかかっていない。
「ゆーりん、ほんと。朝はゴメン。
――入るね?」
黎翔が扉を開けて、恐る恐る室内を覗き込んだ。

部屋の中には人の気配がなく、誰もいなかった。

(つづく)

*